【カスタマーエクスペリエンス(CX)コラム 第1回】
顧客の心をつかむのは「いい商品」より「おもてなし」!?
「カスタマー・エクスぺリエンス(CX)」が企業の命運を分ける時代へ

この数年で、消費者の購買行動は劇的に変化しています。従来のマーケティングの考え方や、それに基づくマーケティング・ツールでは、かつてのようにモノを売ることが難しくなってきました。
消費者の購買行動はどのように変化したのでしょうか。また従来のツールはどうして通用しなくなったのでしょうか。さらに今の時代にモノを売るには、どうすればよいのでしょうか。

消費者の購買行動を変えた2つの要因

消費者の購買行動の変化には、大きく2つの要因があります。

1つは、ネットワークが発達し、スマートデバイスが普及してきたことです。
昔は、テレビCMで見た商品を店舗で買うのが普通でした。20年ぐらい前からネット通販を利用する人が出てきましたが、多少はハードルがあったものです。現在では、スマートフォン(以下、スマホ)で商品を購入することがすっかり当たり前になりました。
スマホでの商品購入の特徴は、極めてパーソナライズされた情報をそれぞれが見て購買行動を起こすということです。スマホのブラウザやアプリには、一人ひとりの閲覧履歴や購買履歴に基づいた広告が表示されます。
さらに、個々の消費者がSNSの口コミを参考にして商品を選択することが増えました。InstagramやTwitterをハッシュタグで検索して、自分より感性が高いと思われる人、あるいは誠実そうな人の評価と写真を見て、気に入った商品を購入するようになったのです。

もう1つは、以前より消費者が「面倒くさがり」になったことです。
例えば、携帯電話のMNP(Mobile Number Portability、番号ポータビリティー)も、MVNO(Mobile Virtual Network Operator、いわゆる「格安SIMサービス」)も、認可されたときには多くのユーザーが携帯電話会社を変えるだろうと予想されていましたが、どちらも1割ぐらいの人が動いたに過ぎませんでした。その理由は「消費者が携帯電話のキャリアを変えるのを面倒くさがったから」。MNPには多くの検討項目、MVNOはそれに加えて多くの選択肢があり、これらを比較して最適なサービスを選択するまでには、かなりの手間がかかります。消費者は「よほど心が動かされない限りは、現状を変えようとしなくなった」と言えるでしょう。

従来のCRMでは顧客の心をつかめない

このように消費者が変化してきたため、従来のCRM(Customer Relationship Management、顧客関係管理)では顧客の心をつかめなくなっています。
そもそも「CRM」自体が、たくさんの意味を持っています。日本ではコールセンターの自動化、すなわちCTI(Computer Telephony Integration、コンピュータと電話の機能統合システム)の導入と同時期に始まった経緯があるため、今でもCRMと言えばCTIのことだと考える人がいます。
あるいはSFA(Sales Force Automation、営業支援システム)と同一視する人もいます。究極的な目的はどちらも「売り上げや利益を増やすこと」で、共通する機能も多々あるため、境界は極めて曖昧です。
このように曖昧な「CRM」ですが、どのツールも顧客との安定的な関係維持を目的としているという点は変わりありません。定期的に情報提供し、イベントなどに勧誘したり、商品そのものを提案したりするために使われています。こうした機能が不要になったわけではありませんが、それだけではモノは売れなくなってしまいました。

顧客が「ワオ!」となる体験が必要な時代

なぜモノが売れなくなったのでしょうか。
大きな原因は、商品そのものによる差別化がより一層難しくなったことでしょう。 商品そのものがコモディティー化(陳腐化)するなか、顧客は付加価値で商品を選ぶ時代になりました。
例えば、スイーツの味はどの店でもそれほど変わらないでしょう。では何で店を選ぶかと言えば「インスタ映え」するかどうかです。Instagramに掲載された心に響く写真を見て、自分もその店に行って写真を投稿する――この連鎖が、さらに新たな客を呼ぶわけです。

顧客とブランドの接点を「タッチポイント」と呼びます。商品を紹介するメールやWebサイト、新聞やテレビの広告、リアルな店舗、そして最近ではSNSによる口コミなど様々なタッチポイントが存在します。
そのタッチポイント毎に顧客が「ワオ!」と感激・感動するような顧客体験(カスタマー・エクスペリエンス)を演出しなければ、モノが売れなくなったのです。
これは日本古来の「おもてなし」に近いものでしょう。「あなたをとても大切に思っていますよ、という気持ちが顧客に伝わる体験」こそ、優良なカスタマー・エクスペリエンスです。

そのためには、まずタッチポイントを増やす必要があります。それも顧客からうっとうしがられるプッシュ型ではなく、プル型のタッチポイントを増やす必要があるのです。 これは従来のCRMツールだけでは難しいことです。カスタマー・エクスペリエンスを重視するのであれば、マーケティング・ツールもこのことを意識したものを導入する必要が出てきたということです。

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