一橋大学 神岡教授に訊く! カスタマーエクスペリエンス入門

【第2回】CXの向上のために重要な3つのこと

企業活動において注目のキーワードが、カスタマーエクスペリエンス(CX)です。そこでこのコラムでは、マーケティングとITに関する第一人者である一橋大学の神岡太郎教授にお伺いした内容をもとに、CXの重要性や、CXを向上させるためのポイントなどについて3回に分けて解説していきます。

第1回では、CXとは何か、企業でCXが重視されている背景について解説しました。本回ではCXを向上させるには何が重要なのか、企業においてどのような取り組みを行うべきかを解説します。

企業の顧客に対する一貫した適切なコミュニケーションが重要

CXを向上させるには、次の3点が重要になります。その3点とは、「企業の顧客に対する一貫した適切なコミュニケーションが重要」、「統合された顧客データの利活用とPDCA活動」、「ロイヤリティプログラム」です。
最初の点について、神岡教授は次のように指摘しました。
「CXを向上させるための施策ですが、何に反応するかはお客様一人ひとりで異なります。それを見抜くことが大切です。」
例えば、あるサービスの契約者にメッセージを送る場合、全員に同じ手段で同じ内容のメッセージを送るのではなく、個々が知りたいメッセージを見たい時間に、見たいチャネルを通じて届けることが重要です。
神岡教授は、次のような経験を一例として挙げました。
「海外の空港でトラブルがあり、私のフライトが欠航となったため、その日は移動できなくなってしまいました。その先で乗り換える別の航空会社に、その後の手続きについてどこに連絡すればよいかわからず苦労しました。コールセンターは現地も日本も18時で閉まっており連絡が取れなかったのです。そこでWebサイトから問合せフォームをやっと探して書き込みましたが、翌朝8時からしか読んでくれないということでした。重要なことは、リアルとデジタル両方においてお客様が簡単にアクセスできる窓口を用意するだけでなく、一貫した適切なコミュニケーションを行うことが企業に求められます。なお、最終的には翌日、現地の空港職員は一生懸命に対応してくれて、一日半遅れで帰国出来ました。人間系のところは本当に素晴らしかったのですが。」(神岡教授)

統合された顧客データの利活用とPDCA活動に
CMOが重要な役割を果たす

2点目の「統合された顧客データの利活用とPDCA活動」とは、店頭やイベントなどでのリアルな接点とWebサイト、スマートフォン、SNSなどのデジタルな接点の両方から顧客の情報を収集し、組織をまたいで情報を一元的に管理し企業活動に利用すること、さらに改善のためのPDCAサイクルをまわすことです。
顧客データを収集・共有する仕組みとしてITシステムの整備が挙げられますが、それだけではありません。企業の組織のあり方まで踏み込んで検討する必要があります。
神岡教授は、CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)やCMO機能を持った組織の重要性を強調します。CMOとは、企業全体のマーケティングの責任者で、マーケティングの視点から企業組織全体の方向性や戦略の決定にも携わる、欧米の企業で特に重視されている役職です。
「組織を横断するデータの利活用には、全社をまとめるリーダーシップが欠かせません。また、そのデータの責任を誰が持つか、つまりデータのガバナンスも重要です。最近では、CDO(チーフ・データ・オフィサー)というデータの戦略的な利活用を推進する役職が注目されており、ネット業界を中心にCDOを置く企業が増えています。CMOもCDOもCXの向上に重要な役割を果たします。」(神岡教授)


続けて、企業の従業員すべてが顧客データを大切にするという共通認識、マインドセットが重要と神岡教授は語ります。
「データファースト、つまり、何か考えるときにはデータがないか探してみる、データに基づいて仮説を立てるという考え方は、日本の特に伝統的な企業に十分浸透していないと感じます。もちろん、データを使えば全て解決するということはありませんが、それでもデータによって分かることが非常に沢山あるということを、軽視し過ぎています。CXの向上の最終目標は、顧客中心にサービスを再定義し、新たなビジネスを生み出すことにあります。そのためにも、マインドセットを変えていかないといけないのです。さらに、スピード感も重要です。従業員がデータを使いこなす能力を高め、顧客起点で意味のある接点そして顧客経験価値を試行錯誤しながら作っていく、つまりアジャイル開発型でPDCAサイクルをまわすことが大切です。」(神岡教授)


このような企業の変革を促すキーワードが、「デジタルトランスフォーメーション」です。
「ITを活用して新しい価値を生み出し、私たちの生活をより良い方向に変化させる」という概念です。顧客のさまざまな感情や行動を見える化し、そこから得られた新しい価値をサービスとして提供するために、既存のシステムをデジタル化する仕組みが重要なのです。

ロイヤリティプログラム導入が顧客の動機付けとなる

企業が顧客との接点を複数用意しても、顧客が必ずしも接触してくれるとは限りません。3つ目の重要点である「ロイヤリティプログラム」は、顧客が自ら企業に接触する動機付けの1つの手段です。その中で、企業でコントロールしやすいサービスが「ポイントサービス」です。顧客ロイヤリティのステージに応じてポイント付加率を変えることで、相応のインセンティブを提供することができます。
「ポイントサービス」の効果について、神岡教授は次のように語りました。
「一般的に、若年層はポイントに反応する傾向があります。航空会社のマイレージサービスなどが代表的ですが、ポイントがあるほうがユーザーにとってメリットがありますので、それがお客様を動かすきっかけになることは間違いないと思います。様々な接点でポイントが得られることは、様々な接点で、サービスがつながっており、その企業を意識することにもなります」

以上、CXを向上させるための3つの重要点を述べました。第3回ではCXを実現するための情報システムの選択や今後のCXの方向性について解説します。

今回のポイント

(文責:ISBマーケティング株式会社)

※本コラムに記載されているシステム名、製品名は各社の登録商標または商標です。なお、本文では、「™」、「®」は明記しておりません。

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ニューノーマル時代のカスタマーエクスペリエンス

神岡太郎教授プロフィール

一橋大学 教授 工学博士

主な研究テーマは、マーケティングにおけるITの利活用、ITマネジメント、CMO、CIOである。研究論文以外に、共著として『マーケティング立国ニッポンへ』(日経BP社、2013年)、『CIO学』(東大出版会、2007年)、『CMO マーケティング最高責任者』(ダイヤモンド社、2006年)などがあるほか、企業と共同でマーケティングの実証実験にも多数参加している。

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