一橋大学 神岡教授に訊く! ニューノーマル時代のカスタマーエクスペリエンス
【第2回】 デジタルカスタマーエクスペリエンスの実現で新たな付加価値を創造する

第1回のコラムでは、カスタマーエクスペリエンス(CX)の最新事情、CXとデジタルトランスフォーメーション(DX)の関係について解説しました。本回では、デジタルを活用してCXを向上させるためのポイントや成功事例について解説します。

第2回:デジタルカスタマーエクスペリエンスの実現で新たな付加価値を創造する

  • CX向上にはデジタルの活用は欠かせない
  • デジタルを活用したCX向上によりコロナ禍で躍進した米国企業
  • コストダウン目的のデジタル化は顧客体験を低下させる

CX向上にはデジタルの活用は欠かせない

神岡教授は、CXを向上させる、即ちお客様体験の向上に資するためには、デジタルの活用が不可欠だと説明します。
「利便性を高め、満足度を高めるためには、デジタルを使わざるを得ません。代表的な例がeコマースです。いつでもどこでも注文でき、短時間で多くのお店や商品を比較しながら選ぶことができます。販売する側の企業にとっても、顧客の選択肢を増やす、顧客の訪問履歴を時系列で追う、顧客を多面的に見るためには顧客情報のデータ化が必須であり、デジタル技術が不可欠です」(神岡教授)

デジタルを活用したCX向上によりコロナ禍で躍進した米国企業

デジタルを活用したCX向上の成功例として、神岡教授はアメリカに本社を置く小売業2社を挙げました。経産省調査によると、アメリカは、コロナ禍を契機として EC 化に拍車がかかり、2021 年以降も、年平均 10%以上の市場成長が見込まれています。

米国における EC 市場規模(METIまとめ)

出典:経済産業省「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」2021年


1つ目の企業は、有名スーパーマーケットチェーンA社です。A社では、以前からオムニチャネルやO2O(Online to Offlineの略。オンラインとオフラインと購買行動を連動させるマーケティング手法)の取り組んでおり、店舗とeコマースをうまく併用しながら業績を上げてきました。例えば、QRコード決済機能のいち早く導入し、消費者が店舗で購入した商品のバーコードを読み取ることで、近隣の店舗の価格を検索し、その差額をデジタルギフトカードとしてキャッシュバックするアプリを開発しています。


A社はコロナ禍において、物流を変革しました。
顧客は、オンラインで注文を行い、最寄りの店舗のカウンターで品物を受け取ることができます。しかも、自動販売機のように人手を介さず商品を受け取れます。A社は、その実現のために独自の物流センターを店舗の横に設置しました。物流と小売りを一体化したことで、ネット通販専業企業のECサイトよりも早く商品を届けられるのです。全米に店舗網を持つA社の強みを活かし、車での買い物が主体である米消費者の特性を上手に捉えたサービスであると言えます。


「今までは、リアルの店舗を多数持っていることは、企業にとってむしろ負担だとされていましたが、コロナ禍でその弱みを強みに逆転させたのです。表面的に顧客とのタッチポイントを変えただけでなく、裏側の仕組みや構造を転換することでクオリティも高めたわけで、簡単には真似られないところがあります。素晴らしいデジタルCXの成功例かと思います(もちろんこれからずっと成功し続けるには次の変革が必要だとは思いますが)」(神岡教授)


もう1つの成功企業は、リアル店舗でのレンタルビデオ配送を起点としてスタートしたB社です。創業から数年後、顧客にとってより利便性が高いビデオオンデマンドに移行しました。顧客行動調査分析力を高め、AIを活用したレコメンド機能を用いてシェアを伸ばしました。そして現在は、豊富な資金力を活かしてオリジナルコンテンツを制作しています。顧客の視聴データに基づいた独自のコンテンツを作ることで、ハリウッドに対抗するような勢力に成長しています。


「顧客が求めているものは何か、顧客視点で柔軟にビジネスを変革してきたことがB社の強みです。そして注目すべきは、その成長の中で企業の根幹における変革をともなっているということです。B社は、自分たちの企業文化を明文化したドキュメント『Culture Deck』を公表しています。『社員一人ひとりの自立した意思決定を促し、尊重する』『情報は、広く、オープンかつ積極的に共有する』といったポイントを挙げています。こうした文化も社員の働きやすさ、ひいては顧客満足度を高めることに結びついているのではないでしょうか」(神岡教授)

コストダウン目的のデジタル化は顧客体験を低下させる

CX向上にデジタルの活用は不可欠ですが、デジタル化が逆効果になることもあります。
例えば、コールセンターを廃止して、AIチャットボットに代替させる企業が増えていますが、チャットボットの品質が悪いと的確な応答ができません。カスタマーサポートサイトのメニュー階層が深すぎて目的のページに到達できない、回答を得られないといった不満は即顧客の離反に繋がります。特に、自社のコストダウンを目的としてコールセンター廃止や人員削減を行うとサービスの品質が低下し、問題が生じやすくなります。


デジタルを活用したカスタマーエクスペリエンスは、顧客体験をより良いものにするための投資という位置づけで実施することが重要です。


「チャットボットを好むユーザーもいれば、コールセンターでやり取りするのを好むユーザーもいます。顧客の特性に合わせた選択肢を設け、タッチポイントを増やす方向でデジタルを活用していくことが大切です。そのために、顧客情報がすべてデジタルデータ化されていることが前提条件となります」(神岡教授)


以上、デジタルを活用してCXを向上させるための要点、デジタルCXの成功事例について解説しました。第3回では、NTTテクノクロスの「MarketingAuthority」担当者も交え、デジタルCXとポイントシステムとの関係、ポイントシステムのニーズの変化と最新トレンドについて解説します。

今回のポイント

  • CX向上にはデジタルの活用は不可欠
  • 顧客視点でお客様の特性に合わせたリアルとデジタルのタッチポイントを用意し、増やすことが重要
  • デジタルCXはコストでなく投資の観点で行う

(文責:ISBマーケティング株式会社)

※本コラムに記載されているシステム名、製品名は各社の登録商標または商標です。なお、本文では、「™」、「®」は明記しておりません。


第3回:デジタルCXの成果を出すためのマーケティングソリューションとは

神岡太郎教授プロフィール

一橋大学 経営管理研究科教授 工学博士

主な研究テーマは、マーケティングにおけるITの利活用、ITマネジメント、CMO、CIOである。研究論文以外に、著書として『デジタル変革とそのリーダー CDO』(同文舘出版、2019年)、共著として『マーケティング立国ニッポンへ』(日経BP社、2013年)、『CIO学』(東大出版会、2007年)、『CMO マーケティング最高責任者』(ダイヤモンド社、2006年)などがあるほか、企業と共同でマーケティングの実証実験にも多数参加している。

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