1.コールセンター業務の最近の動向

 ここでは、コールセンター業務の最近の動向をご紹介します。

 近年、コールセンター業務は、顧客応対に対する評価や改善を担うVOC(Voice Of Customer)分析が加速しています。音声のテキスト化はこの一端で、システムの高度化やAIの進化により、さまざまな通話要素を定量化し、収集して蓄積、分析し、フィードバックするという仕組みです。
 こうした最近の動向は、「オペレーターの離職」問題や、「スーパーバイザー/マネージャーの忙殺」問題といったコールセンターが抱える大きな課題解決が根底にあります。

 また、近年は音声認識技術に加え、感情認識技術にも注目が集まりつつあります。
 感情分析技術は、主に犯罪捜査などで利用されてきた技術でしたが、最近ではコールセンター応対でお客様状態を把握する技術として活用されはじめています。音声からお客様の真の状態を分析し、潜在的な思考や購買意欲など、通常可視化できない情報を定量評価することで、コールセンターのさらなる品質向上が期待されています。

2.コールセンターが抱える大きな課題

 前章では、「コールセンターの最近の動向」をご紹介しました。
 この章では、最新動向の根底にある「コールセンターが抱える課題」についてもう少し深堀りしていきます。

(1)
増加するオペレーターの離職

 リックテレコム発行の「コールセンター白書2019」によると、近年『オペレーターの採用・育成』『オペレーターの定着率向上』を最も深刻な運営上の課題と考えるコールセンターが増えていることが分かります。日本の少子高齢化による労働力不足の影響もありますが、採用したオペレーターがすぐに離職してしまうことが大きな要因と考えられます。

 また、リックテレコム発行の「月間コールセンタージャパン2019年1月号」によると、2013年には採用後1年以内の離職率が30%以内であると答えたコールセンターは全体の85%程度だったのに対して、2018年にはそれが35%まで低下しています。
 さらに、我々の調査では、業務が複雑なコールセンターの場合、1年以内に70%のオペレーターが離職してしまう例もありました。
 オペレーター業務の習熟が難しい面ももちろんありますが、お客様のクレームによりオペレーターのモチベーションが下がることや、適性に評価されないことがオペレーターの離職につながっていると考えられます。

最も深刻な運営上の課題(n=22)

出典:『コールセンター白書2019』(株式会社リックテレコム,2018/10/12)

出典:『コールセンター白書2019』(株式会社リックテレコム,2018/10/12)

(2)
コールセンターが抱える大きな課題

 企業が持つさまざまなチャネルの中で、もっともお客様との接点が身近で、お客様を大切にし、ホスピタリティを提供しなければならないのが、コールセンター業務です。
 そして、その業務をスムーズに動かす要となるのが、スーパーバイザーとマネージャーです。

 スーパーバイザーは、日々のコールセンター運営を円滑に進めるためオペレーターの管理、主にモニタリングや育成指導を行っています。
 リックテレコム発行の「コールセンター白書2019」によると、スーパーバイザーの悩みとして『指導しにくいオペレーターがいる』があげられており、ここでも『オペレーターの採用・育成』に関する苦労が大きいことがわかります。

現在の悩み

出典:『コールセンター白書2019』(株式会社リックテレコム,2018/10/12)

出典:『コールセンター白書2019』(株式会社リックテレコム,2018/10/12)

 一方マネージャーは、応対品質や生産性の向上などコールセンター全体の管理を担っています。
 最近では、企業が市場での競争を勝ち抜くために、コールセンターをコストセンターからプロフィットセンターに変えていくという使命を会社から期待されているというお話をよく耳にします。その流れでVOC分析の実施を検討されるコールセンターも増えているようですが、分析のノウハウもない状況でどこから手を付けていいのか分からず、困っているマネージャーもいらっしゃるのではないでしょうか。

 コールセンター業務の要となるスーパーバイザー/マネージャーが、力を発揮することで、コールセンター全体の品質は向上します。そのためには、上述に挙げたような悩みを解決する支援が必要です。

3.音声認識・マイニングソリューションの導入で解決できること

 前章では、「コールセンターが抱える大きな課題」を考察しました。
 この章では、これらの課題解決が期待できる音声認識技術と、解決策についてご紹介します。

(1)
音声認識技術の進歩

 近年、コールセンター業界では音声認識技術の導入に注目が集まっています。
 音声認識は、数年前までは認識精度に課題があり、統計的傾向を見る用途にしか使えませんでした。しかし、最近では精度も上がり、認識結果テキストで誤っている部分を、人が正解を想像しつつ全体の会話の流れを把握できるレベルにまで技術が向上しています。
 また、音声収録方式の変化も、音声認識の精度向上に大きく貢献しています。
 以前は電話機に録音装置を取り付けてアナログ音声を収録していましたが、現在ではデジタルデータを電話基盤側から直接取得し、ノイズの少ない音声を収録できるようになりました。もちろん、音声認識にディープニューラルネットワークが使われるようになり、格段に高精度な認識処理ができるようになったことも大きな要因です。

 このような技術進歩により、音声認識は、従来の実験を繰り返し、時間をかけて徐々に利用範囲を広げていくという導入方法から、安定的な技術として使えることで、導入したい範囲全体に一気に適用という導入が可能となりました。
 音声認識導入で、顧客と企業の顔となるコールセンターのオペレーターとの会話をデジタライゼーションすることで、AIソリューション導入で期待されている課題解決に資するようになりました。

(2)
音声認識技術の適用による課題解決

 音声認識技術の適用で解決できるコールセンターの課題は、大きく3つが挙げられます。

 ① 評価・育成業務への適用による「オペレーターのモチベーション向上」
 ② リアルタイムモニタリングへの適用による「スーパーバイザー業務の支援」
 ③ VOC活用による「プロフィットセンターへの成長促進」

評価・育成業務への適用による「オペレーターのモチベーション向上」

 評価・育成はオペレーターのモチベーションに大きく影響します。
従来のランダムに選定された通話を基に評価・育成する方法だと、たまたま悪い通話や厳しい評価者にあたった場合、評価結果に不公平が生まれます。
オペレーターは評価に不公平性を感じたり、応対改善していることに気づいてもらえないと、心を閉ざし、スーパーバイザーの言葉を受け入れなくなります。そのような状態が改善されないと、オペレーターはモチベーションを失い、最悪、離職という選択をします。
こういった場面で、音声認識は以下のように活用できます。

  • 評価・育成時に、オペレーターに通話テキストを見せながらフィードバックすることで、指導の納得性を高める。
  • 全通話テキストからトークスクリプト準拠率やNGワードの発話数を測定し、定量的に評価することで、評価の公平性を高める。
①	評価・育成業務への適用による「オペレーターのモチベーション向上」
オペレーター・SVの業務サポートによる『オペレーターの育成』『品質の向上』『定着率の向上』

 スーパーバイザーの重要な役目として、二次応対があります。オペレーターが対応した内容が、クレームなど難易度の高いものだった場合、経験豊富なスーパーバイザーが引き継ぎます。
 スーパーバイザーが応対を引き継ぐ際、まずは経緯を確認する必要があります。しかしクレームの場合、通話を中断できないことが時折あります。そのとき、スーパーバイザーはオペレーターの横から支援に入りますが、途中から通話を聞き始めるため、経緯の把握に時間がかかり、支援が遅れてしまいます。
 支援が遅くなると、オペレーターはスーパーバイザーに対する信頼が無くなり、顧客も適切な応対がされないことで、不満が大きくなります。
 また、オペレーターの中には自分のミスを隠すために問題をエスカレーションしない者もいるため、スーパーバイザーが気づかないところで顧客満足度が低下していることがあります。
 こういった場面で、音声認識は以下のように活用できます。

  • 複数オペレーターの応対をリアルタイムテキスト化することで、問題発生の見逃しをなくし、オペレーター支援を効率化する。
  • スーパーバイザーに要注意ワードをリアルタイムに通知することで、問題を早期発見・対処する。
②	オペレーター・SVの業務サポートによる『オペレーターの育成』『品質の向上』『定着率の向上』
VOC活用による「プロフィットセンターへの成長促進」

 音声をテキスト化していても、VOC分析をして業務・サービス改善に繋げなければ、コストセンターからプロフィットセンターに成長することはできません。
 コールセンターにはお客様の生の声がダイレクトに集まります。コールセンターにおけるVOC分析の目的を明確化し、活動推進体制を整えることができれば、企業固有の課題に対する改善策導出が可能です。
 VOC分析の場面で、音声認識は以下のように活用できます。

  • 通話テキストから売上上位者の通話の特徴(フレーズ)を導出し横展開することで、全体の売上を向上する。
  • 通話テキストからオペレーターから申告されていないクレーム通話を抽出することで、商品・サービスの改善、オペレーター応対の品質向上に活かす。

 ただし、VOC分析にはノウハウや勘所が多く求められます。知識や経験なしに最初から自力で実施するのは非常に困難な業務です。VOC分析のツールや製品を検討する場合は、導入後に分析作業の支援サービスがあるか否かを確認しておくことが重要です。