特集
[在宅コールセンター特別対談]
「在宅シフト」に
必要な6つのIT要素
“CX向上”を実現する
ソリューションとして提案
カスタマーエクスペリエンス事業部
副事業部長
コールセンタージャパン編集部
編集長
コロナ禍を経て、在宅シフトが進むコールセンター。だが、システム、マネジメントともに課題は多く、頭を悩ませるセンターマネジメントは少なくない。従来のパフォーマンスを発揮し、顧客体験の維持向上を図るために必要な要素とは。NTTテクノクロス カスタマーエクスペリエンス事業部 副事業部長の長谷川貴広とコールセンタージャパン編集長の矢島竜児が議論した。
矢島 コールセンター最大の運営課題であった人手不足は、奇しくもコロナ禍によって解消されつつあります。毎年、編集部が実施しているコールセンター実態調査の「運営上の課題」という設問において、例年、回答上位を占めていた「オペレータの採用・育成」「オペレータの定着率」が減少(図1)。採用難から脱しつつあることが示されました。
長谷川 外出自粛の影響で、廃業や休業が相次いでいる観光業、飲食業から流出した人材の受け皿としてコールセンターが機能しているようですね。
矢島 こうした変化は、コールセンターのIT投資の方向性にも影響があるのではないでしょうか。
長谷川 本格的な在宅勤務への移行を検討する案件の増加が顕著になっています。感染防止対策の一環として出社制限によって業務体制を縮小せざるを得ず、応答率低下を防ぐための手段として「在宅シフト」に活路を見出しているのだと思います。実態調査で生産性向上を課題視しているセンターが多いのも、「体制を縮小しつつも従来通りの顧客体験を提供する」という課題がクローズアップされたためで、在宅化は当然の流れと言えます。
矢島 ただし、在宅シフトはシステム構成、マネジメント手法ともに従来のやり方は通用しません。実際に運用を開始できた案件はどのように進めたのでしょうか。
長谷川 基本的には慎重に検証しながら進んでいるケースが多いですね。オフィス内の会議室を自宅に見立ててテスト運用を行い、課題を洗い出してから本格運用に移行するセンターも何社かありました。
矢島 具体的には、在宅シフトにおいてどのような課題が抽出されたのでしょうか。
長谷川 大まかに分類すると、システム面は「①自宅での電話の受架電を可能とすること」「②業務に必要なシステムへのアクセス」「③情報セキュリティ」の3つ。運用面は「④業務運用支援」「⑤労務管理」「⑥呼量削減/平準化」の3つに集約されます(図2)。システム面は、とくに①の自宅での電話の受架電の仕組みをどのように構築するかが重要です。多くの場合はクラウドPBXへのリプレース導入ですが、一時的な運用切り替えを前提として、既存の基盤(多くはオンプレミス)とは別に在宅で受電するための仕組みだけをクラウドで構築するケースもあります。既存のシステム環境や在宅で行う業務の範囲など、個別の要件に応じて提案しています。
矢島 「どのように在宅業務を行うか」という視点で環境を整備しないと、“その場しのぎ”の対策にはなっても運用の継続性を損なうことになりやすいですよね。
長谷川 同様に、「②業務に必要なシステムへのアクセス」や「③情報セキュリティ」についても、自社の業務内容に基づいた中長期的な検討をすべきです。
矢島 在宅シフトさせる業務は「個人情報を取り扱わないもののみ」というセンターが多いと推察されます。どのような提案をしているのですか。
長谷川 多様なセキュリティポリシーに対応した提案を心がけています。具体的な提案例で言えば、センター内に設置しているPCのデータを、外部から参照したり操作できるリモートツールや、DaaS(Desktop as a Service)を使ってVPN接続する方法などです。
矢島 VPN接続については、セキュリティが強化されて比較的安全に通信を行える半面、相応の投資を行って回線強化しないと、遅延が頻発しやすいと聞いています。
長谷川 だからこそ、回線の負荷状況の把握も含め、事前のテストが重要です。
矢島 これらシステム面の課題を解消して初めて、在宅での電話応対の運用を開始できるわけですね。ただ、実際のところは、在宅シフトしたセンターの7割はメールやチャットといったテキストチャネルでの対応に絞っていて、電話応対は少ないようです。
長谷川 メールやチャットの基盤は、そもそも独立運用していること、さらにクラウドサービスであることが多いため、技術的ハードルが低く移行しやすかったからだと思います。電話応対の在宅シフトは、第3波が猛威を奮い、恒常的な在宅運用が求められつつあるこれから本格化するのではないでしょうか。
在宅/デジタルシフト成功の「カギ」は音声認識
矢島 在宅シフトの本格化が予測される一方で、経営判断で不可能なセンターもあります。こうしたセンターは、ソーシャルディスタンスを確保しつつ、従前に近い応対品質・生産性を担保していると推測されます。IT面でどのような対策が考えられるでしょう。
長谷川 「一部の応対の自動化」または「業務効率化」を目的としたデジタルシフトが有効だと考えます。具体的には、呼量削減、あるいはAHT(Average Handling Time)短縮を図り、限られた人数でより多くのコールに対応するためのソリューション提案を行っています。例えば自動化の仕組みは、オペレータによる応対を、チャットボットやボイスボットに置き換えます。業務効率化は、音声認識で通話をテキスト化して、ACW(After Call Work)の短縮や応対品質改善に活用し、1件あたりの生産性を向上するアプローチをとっています。
矢島 音声認識は、コロナ禍の運営における「カギ」になりそうですね。在宅シフトにおいても、マネジメント支援を目的として導入が進みました。
長谷川 まさにその通りで、在宅シフトの運用支援ツールとしても、音声認識の提案を行っています。具体的には、「④業務運用支援」「⑤労務・健康管理」「⑥呼量削減/平準化」(図2)を目的とした導入です。物理的に分断された環境では、マネジメントの“目”を全体に満遍なく行き届かせることは困難と言えます。音声認識で通話をリアルタイムにテキスト化してモニタリングに活用することによる応対品質の担保、見てもらえているという安心感からオペレータのメンタル状態を改善する効果は大きいです。また、応対の全件自動評価の需要も高まりつつあります。
「在宅」の前にデジタルシフト
矢島 昨春から夏にかけての「在宅シフト待ったなし」の状態から一転、感染状況が一時的に落ち着いた時期に在宅から通常運営に戻すセンターが多くありました。
長谷川 「在宅運営では業務効率が上がらず、マネジメントも行き届かない」というのが理由かと思います。この根底には、「例えば紙ベースでのナレッジ活用など、従来のアナログ業務をデジタルに移行できなかったこと」が潜んでいます。在宅シフトは本来デジタルシフトとセットで考えるべきものなのです。
矢島 在宅シフトも、まずデジタルシフトして自己解決あるいは呼量分散したうえで、人間が介在すべき問い合わせを抽出し、在宅シフトで対応するのが「あるべき姿」ではないかと思います。
長谷川 コロナ禍以前からの流れではありますが、Webサイトでの自己解決への誘導が重要だと考えます。店舗などの対面接点に制限がかかるなか、消費者にとってWebサイトの体験の重要度は増しています。良い体験、つまりスムーズに顧客が購買や問題解決を図るには、ユーザビリティやUXに基づいた設計が欠かせないことから、デザイン思考を専門とする部隊を組成し、クライアント企業のご相談を受けています。
矢島 ユーザビリティやUXの観点で、国内企業の既存Webサイトをどう評価しますか。
長谷川 ユーザー視点で設計していないサイトが非常に多いと感じています。現在、顧客のニーズは「簡潔に処理したい」と「手厚く寄り添ってほしい」に2極化しています。これらニーズへの対応に、個別の状況に応じた体験(体験のパーソナライズ化)を加えて提供できるサイトの構築が喫緊の課題だと思います。
矢島 具体的な改善の方策を教えてください。
長谷川 簡潔に処理したいものは、FAQやチャットボットの適用です。とくにチャットボットは、コンタクトリーズンの適用範囲をどれだけ拡大できるかが、顧客体験を左右する要素です。オペレータの通話音声やチャットのログから質問を抽出してFAQ登録する仕組みがあれば、Q&Aの質と量を担保できます。
顧客体験をベースとしたCXマネジメントの重要性
矢島 デジタルシフトによるコンタクトチャネルの多様化により、顧客との関係性を改めて見直そうという、「CRMの原点回帰」も起こっています。顧客情報や問い合わせ履歴などの深掘り分析や、新たな軸でCRMデータベースを利活用する必要があるのではないかと思います。
長谷川 現状のCRMは、売上管理の側面が強く、「いつ誰が何を買った」というオペレーショナルなデータが重視されがちです。CX(カスタマーエクスペリエンス)の観点では、「どんなやり方で購入、利用されたのか」「満足したのか、不満があったのか」という体験を軸として施策をまわす「CXマネジメント」が重要です。今後は、VOC(顧客の声)だけでなく、問い合わせる前の行動—つまり、Webサイト上の行動ログを統合して分析することも求められます。消費者の購買行動が、オンラインに移行しているのであれば、その情報を集めにいく。これがCX向上のポイントになっていくと考えます。
矢島 現状を踏まえたうえで、今後のITソリューションの強化・拡充の方向性を教えてください。
長谷川 在宅の対応提案については継続的に進め、システム課題の1つである個人情報漏えい対策として、CRMシステムからの情報流出を防止する仕組みを2021年度をめどに提供を開始する予定です。運用課題に対しては、音声認識ソリューション「ForeSight Voice Mining」による支援の提案を進めます。今後は、音声認識の活用を深め、言葉の意味や意図、感情もくみ取ったうえで、オペレータにどうアクションすべきかを提示できるソリューションの開発にも着手していきます。
ForeSight Voice Mining
分析プラットフォームと連携
応対品質評価の効率化を強力支援!
コールセンターの応対品質は、顧客体験を大きく左右する。しかし、オペレータ1人ひとりの対応をモニタリングして的確な指導を行うには、膨大な時間と手間がかかる。保存した全通話データの聞き起こしは、まず不可能だ。コンタクトセンターAIソリューション「ForeSight Voice Mining」は、米CallMinerのエンゲージメント分析プラットフォーム「CallMiner Eureka(コールマイナー ユーレカ、以下ユーレカ)」をオプションとして拡充。応対品質評価の効率化を支援する。
具体的には、ForeSight Voice Miningの音声認識機能で通話音声をテキスト変換し、ユーレカに連携。自動評価する仕組みだ。自動評価は、オープニングの適正さや誉め言葉/不満を表す言葉といったプリセット項目に加え、個別に項目を設定可能。カスタマーエクスペリエンス事業部 営業部門の松井一比良は、「応対品質の改善サイクルは常にアップデートが必要。“最高の応対”とは何かを考えながら評価項目を作り替えていくべき」と強調する。全通話評価により、オペレータの納得性を高めたうえで改善点を漏れなく抽出、指導を行うことで着実な応対品質改善を実現する。
CTBASE/AgentProSMART
現場の利便性を徹底追求
在宅セキュリティ機能を拡充
1万席以上の導入実績を持つCTBASEシリーズのCRM「CTBASE/AgentProSMART(以下CTBASE)」が、バージョンアップする。
CTBASEは、業務に合わせて現場でカスタマイズ可能な柔軟性を備える。操作性の高い顧客情報画面と、音声認識で通話音声からキーワードを抽出して自動入力する「音声認識RPA」機能を特徴とする。
新バージョンでは、進行する在宅シフトを鑑みて、主に「在宅セキュリティ強化」の観点で実施。「マスキング機能」「参照項目の設定」「監査ログ対応」「更新履歴機能」の4つを実装する。
マスキング機能は、各項目をマウスオーバーした時のみ表示し、業務外の参照や第三者によるのぞき見を抑止。参照項目の設定は、業務ごとに表示/非表示する項目を決められる機能だ。監査ログ対応と更新履歴機能は、「誰がどのデータを参照したか」「どのデータを修正したか」をログとして残す。機能としてあることで情報漏えい対策として有効だ。西日本事業部 第二ビジネスユニットの松重憲一は「個人情報を扱う業務も含めた幅広い在宅シフトを支援すべく、機能強化を図りました」と説明。今後も、現場のニーズに合わせた機能強化を図り、利便性向上を追求する。
※本記事は、
月刊「コールセンタージャパン」 2021年3月号に掲載されました。