NTTドコモビジネス株式会社 様
蓄積し続けるデータを分析するためにデータ分析基盤をクラウドリフト 大容量データを利活用し、新たな価値を創出することでビジネス成長を加速


概要
2025年7月1日に社名変更したNTTドコモビジネス株式会社。その前身は、主に法人向け情報通信サービスを展開していたNTTコミュニケーションズ株式会社である。 同社では2017年、カスタマーサクセス活動によるビジネス拡大への貢献を目的に、オンプレミス環境で構築したデータ分析基盤にElasticsearch(以下、Elastic)を導入。2024年からは、段階的にElastic Cloudへと移行した。 Elastic Cloudの導入に関わった森氏、西田氏に、Elasticの評価やクラウド化に踏み切った理由、クラウド移行を成功させるポイントについてお話をうかがった。
課題 | ビジネスの成長に伴いデータの重要性が高まり、分析対象のデータが増加する中で、従来のオンプレミス環境で運用していたデータ分析基盤のリソース不足や故障発生のインパクトが増大した。 |
対策 | 既存環境とクラウド環境の並行運用により、業務影響を抑えながら段階的なクラウドリフトを実施した。 |
効果 | クラウド化により設備増設のリードタイムを解消し、迅速なスケールアウトを実現した。 |
課題
カスタマーサクセスを支援するリアルタイムデータ分析基盤を構築
森氏、西田氏が所属する部門のミッションは、保守オペレーション業務の効率化・高度化を図ることである。同部門では、会社のカスタマーサクセス活動を支援するための、リアルタイムデータ分析基盤を提供している。本基盤は、社内システム上のトラフィックログ、認証ログ、音声ログなどのオペレーションログを一元的に収集・蓄積し、自動化・可視化・分析に活用することを目的として、2017年にオンプレミス環境で構築された。
同社はグループ再編により、法人に加えて個人向けサービスの提供が拡大し、ビジネスが急成長している。近年は、顧客の利用状況などのデータをリアルタイムで分析したいというニーズが高まり、データ分析基盤は、顧客向けシステムのデータ分析にも利用されるようになった。そのため、多様な形式のログを含め、取り扱うデータ量が飛躍的に増加。データそのものの重要性が増す中、大規模なデータ処理に迅速に対応できる基盤の整備が、喫緊の課題となっていた。
データ分析基盤の可用性と拡張性を強化するクラウドへ
森氏は、「重要データの取り扱いが増えたことで、データ分析基盤に高い可用性が求められるようになりました。基盤に障害が発生しても、“現地確認に時間がかかる”、“基盤上のシステムを1日停止させる”といった対応は、もはや許されません。また、要請に応じて柔軟にハードウェアを増設できないことも、成長のボトルネックになりかねないと感じていました」と語る。つまり、オンプレミスでの運用を続ける中で、可用性と拡張性における以下の問題が顕在化したのである。
○可用性における問題
・故障発生時の駆けつけ対応に時間がかかり、障害を早期に解決できない
○拡張性における問題
・設備拡張にかかるリードタイムが長い
・必要なタイミングでリソースを増強できない
西田氏は、「既存設備のEOL(End-of-Life)のタイミングで、オンプレミス継続のためにすべての装置を入れ替えて基盤を構築しなおすか、クラウドに移行するかの二択を迫られました。これがクラウドへの移行を決断する大きな契機でした」と振り返る。移行に際しては、多数の稼働システムとのデータ連携と既存オペレーションを維持する「クラウドリフト」を採用。従来のワークフローや利用者への影響を最小限に抑えつつ、可用性と拡張性の向上を目指した。
ペタバイト級ログを高速検索、可視化するElastic導入とクラウドへの展開
複数のソリューションを比較した際、重視したのはペタバイト単位に及ぶ膨大で構造化されていないログデータを格納・運用できること。つまりオンプレミス環境でのElasticの機能や特性を、そのまま活かせることだった。そもそもオンプレミス環境でのデータ分析基盤構築時にElasticを導入した目的は、蓄積されたログの検索時間を短縮し、可視化による業務効率化を実現することだった。そのため、①大容量データの格納、②検索・書き込みの高速処理によりリアルタイム性が求められる業務に対応可能、③使用容量の増加に応じた拡張性とコストメリット、これらの要件をいずれも高水準で満たしたことが、Elastic導入の決め手となった。導入により、オペレーション組織では、ログのリアルタイム可視化が可能となり、問い合わせ対応の迅速化と品質向上が実現した。サービス開発組織では、利用状況分析を通じて、設備増設計画の立案や各種レポート作成の効率化、保守プロセスの高度化などに効果を発揮していた。
クラウドリフトにあたって西田氏は、「運用上のこうした効果はそのままに、これからのビジネスの成長や多様なニーズに柔軟に対応すべく、高い可用性と拡張性を備えたElastic Cloudへの移行に踏み切りました。ハイパースケーラー環境との連携が容易で、クラウドベースでのシステム構築に適していること、セキュリティ面の信頼性が高く、安心して運用できる体制であることも重視しました」と語る。
Elastic Cloudで可用性・拡張性の課題を解決
Elastic Cloudへの移行により、可用性の面では、設備故障時に現地駆け付けや保守部材の送付が不要になり、障害発生時に迅速な対応が可能となった。さらに、ゾーン冗長により、サービス継続性も強化された。拡張性においても、サブスクリプションで簡単に基盤のリソース追加ができるようになったため、物理調達と比較して、スケールアウトに要する期間を大幅に短縮した。また、リソースのモニタリングが容易になり、必要なリソースを必要な時にのみ利用できる柔軟なリソース管理が可能になった。
クラウド移行によるメリットは他にもある。マイナーバージョンアップが、サービスに影響を与えることなく、ボタン操作ひとつで実行可能となった。さらに、従来の運用で大きな比重を占めていたセキュリティ関連の脆弱性対応や法規制対応に要する工数が大幅に削減され、年間で2,000万円弱のコスト削減につながった。EOLに伴い物理設備を総入れ替えして再構築する場合と比較しても、大きなコストメリットが得られた。
段階的なクラウドリフトで「今まで通り使える」環境を担保
NTTドコモビジネス株式会社
プラットフォームサービス本部
マネージド&セキュリティサービス部
カスタマーサービス部門
主査:西田洋一 氏
森氏は、「基盤と連携するシステムが多く、クラウドリフトの実行では『これまで通り使えるのか?』というユーザーからの不安の声もあり、多くのステークホルダーとの合意が必要でした」と振り返る。将来的な基盤品質の向上、すなわちSLA(サービスレベルアグリーメント)の改善と、移行時の利用者への影響を最小限に抑えることに注力し、合意形成を目指した。
西田氏は、「クラウドリフトは、2つのグループに分けて段階的に移行を進めました。まず、主に社内の分析用途のデータや施策を移行し、順調に稼働することを確認しました。そのうえで、実運用に密接に関わるデータなど、より重要度の高い施策を移行しました」と語る。さらに、「クラウド環境とオンプレミス環境を約2〜3カ月間並行して運用しながら、クラウドでも業務に支障がないことを利用者が納得できるようにしました」と森氏。ステークホルダーの不安を払拭し、影響を最小限にとどめるための慎重な移行計画により、クラウドリフトは無事に完了した。
Elasticとリアルタイムデータ分析基盤を核に、新たなビジネス価値の創出へ
NTTドコモビジネス株式会社
プラットフォームサービス本部
マネージド&セキュリティサービス部
カスタマーサービス部門
担当課長:森一正 氏
同社では今後、より重要性の高い顧客提案に関わるデータや、セキュリティ関連のログデータなどを、組織横断的に集約・蓄積していく方針である。将来的には、オペレーション効率の向上のみならず、顧客に対する新たな価値創造につながる取り組みへと進化させたいと考えている。
森氏は、「今は用途が明確でないデータであっても、生成AIに読み込ませることで、新たな使い道が見いだされる可能性があります。Elastic自体も今後、生成AI関連の機能を強化していくでしょう。NTTテクノクロスには、当社の環境を深く理解してくれるパートナーとして、揺るぎない信頼を寄せています。これからも、Elasticの新機能と蓄積されるデータを組み合わせて、新たな価値を創出できるような提案をいただけるとうれしいですね」と期待を寄せた。
お客様プロフィール

設立 | 1999(平成11)年7月1日 |
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事業概要 | ICTサービス・ソリューション事業、国際通信事業、およびそれに関する事業など |
資本金 | 2,309億円 |
従業員数 | 9,350名 (NTTドコモビジネスグループ全体:17,550名) ※2025年3月末現在 |
URL | https://www.ntt.com/index.html |
1999年設立、法人向け情報通信サービスを主たる事業とするNTTコミュニケーションズ株式会社を前身とする。2022年にNTTグループの再編の一環として通信関連事業の集約が進められ、法人向け事業ブランドである「ドコモビジネス」が誕生、2025年に事業ブランドが社名となった。現在は5G・IoT・AIなどを活用し、社会全体のDX加速を目指して多岐にわたるICTサービスをワンストップソリューションで提供している。
・ページに記載した会社名、製品名などの固有名詞は、一般に該当する会社もしくは組織の商標または登録商標です
・本ページは2025年7月取材時の情報です