KitayatsuFarm_01_top.jpg

概要

肥育農家に大きな損失を生み出す起立困難。出荷間近の肥育牛が横向きで寝ているときに発生する事故で、胃にガスがたまり腹部が膨張するため、起き上がれなくなります。その体勢を続けていると横隔膜を圧迫し呼吸困難に陥り、発生から23時間で死に至ります。
起立困難は肉用牛の肥育経営において最もリスクのある事故のひとつで、早期発見・対応が生存率向上と経済的損失の軽減に直結します。
NTTテクノクロスが開発したブジダスはこうした起立困難から肥育牛を救うサービスです。AIを使いカメラの映像だけで牛が起立困難になるかを判定します。一方で判定後、農家にアラートを出しても農家が到着する頃にはすでに自力で起き上がれないことが多く、その状態から救う作業も重労働です。そこでブジダスでは起立困難の兆候が現れたら特殊音を発砲し、自発的に起きるように促す機能を実装しました。カメラの映像はいつでもスマートフォンなどの端末で確認することができるため、緊急時の判断も可能です。

長野県佐久市に位置する「きたやつファーム」はいち早くブジダスを導入した牧場のひとつです。きたやつファームの代表を務める笹崎直哉氏は共に獣医である父の善治氏、そして兄の真史氏と酪農業を営む笹崎牧場で働く傍ら、「きたやつファーム」にて黒毛和種の肥育を行っています。
肥育農家にとって一番の懸念事項は起立困難だと話す笹崎氏。自ら起立困難の解決法を調べブジダスの存在を知った笹崎氏は実際に導入してみて大きな効果が出ていると語ります。
インタビューでキーワードとなったのは「楽をする」こと。AIなどの最新技術を活用することでもっと畜産農家が「楽をする」ことが、その後の農業発展、更にはサステナビリティにも繋がると考える笹崎氏にお話を伺いました。

課題

「きたやつファーム」について


合同会社きたやつファーム代表
獣医師 博士(獣医学)
笹崎 直哉 氏

まず基本的な面積が農地を含めると2町歩、つまり2ヘクタールあります。今、設置しているブジダスのカメラの台数は4台で、うち稼働しているのが2台です。稼働させる度に取り付け工事を行うとコストがかかるので、最初から4台導入しました。初めに稼働したのが1台、先日2台目の稼働が始まったところです。
肥育牛が90頭、それと兄が経営する笹崎牧場が近くにあり、そこからの預かりで繁殖母牛が25頭います。
笹崎牧場は酪農経営を主軸とし、祖父の代から続いています。父、兄と順番に経営を継承しております。父も兄も獣医師なので、並行して治療も行いながら牧場の管理をしている形になります。
元々は僕も酪農をする予定でしたが、大学在学中に北海道NOSAIの宗谷エリアに研修に行った際、先生が肉牛も経験した方がいいと言ってくれたんです。育て方だけでなく疾病管理も全く異なるので、僕自身も一獣医師として肉牛を学ぶべきだと考えました。それで肉牛は南に多いイメージだったので、鹿児島の家畜診療所に研修に出向き、その流れで就職しました。その後7年ほど勤務し、2年前に鹿児島から長野に戻ってきて和牛の肥育を始めています。酪農とは異なり、肉牛の肥育は新しい事業だったので一からのスタートです。最初は3頭から始まり、2年でここまでの規模にできました。
以前から、笹崎牧場でも、ジャージー牛に和牛の受精卵移植を行い、和牛を育てるということはやっていたのですが、子牛の段階まで育てたら、市場で売却するという形でした。そうすると、そこそこの血統で、そこそこの発育をしていても市場の流行り、購買者の意向次第で安くなってしまう時があります。
そうなった時に持ち帰って肥育した方が最終的にはいいのではないかというのも、和牛の肥育事業を始めた動機のひとつでした。また、せっかく長野に戻ってきたので、長野県の畜産業にも貢献したいと思っていました。そのため、地元の酪農家さんから生まれた子牛の導入も行っています。そうした子牛を自分のところで肥育して成績が上がったり、共励会で賞を取ったりすれば地元の酪農家さんのモチベーションアップにつながり、相乗効果を生むのではないかと思っています。

ブジダスを知った経緯とは?

まず肥育を始めるにあたって、酪農と比較をしてみました。酪農は搾乳もしなければいけない、お産の立ち会いや生まれた子牛の哺乳も行わなくてならないなど、投下時間が全く違います。肥育は餌やりと掃除くらいで、病気もそれほどかかることはありません。そうなると、どうしても酪農の方に時間が取られてしまいます。しかし、時間が取れないからこそ、僕は楽をして肥育ができないかと考えていました。
それを実現させるにあたり障壁になるのが起立困難です。起立困難は見つけたらすぐに起こす必要があります。起こす行為自体が重労働ですし、夜遅い時間だったり、その時にお産と重なったりしたら、対応できないこともあります。そうしたことを解決してくれるシステムがどこかにないかを調べました。その中でブジダスを見つけたんです。他社製品ではメールで起立困難をお知らせしてくれるものはありますが、牛を起こしてはくれません。その点、ブジダスは牛が起立困難になりかけている時に声をかけて起こしてくれるので、牧場まで行かなくていい。100%ではないかもしれませんが、楽ができると思いました。
導入に当たって実際に使っている方の生の声を聞きたくて、鹿児島県の出水市の園畠さんがYouTube上のブジダスの紹介動画に出演されていたので、知り合いから紹介してもらい、電話でやり取りをしました。その際に、園畠さんからも、推薦の言葉をもらって、これはもう導入するしかないと思いました。
肥育事業を稼働させる前に、兄と「肥育は起立困難が永遠の課題だ」という話をしていました。僕たちは獣医師なので、病気であれば持ち直せると思っているのですが、起立困難だけは時間制限があり、人手も必要なのでどうしようもできない時があります。
ブジダスを導入したのは去年(2024年)12月なので、肥育を始めて8ヶ月目になります。実は導入時に飼っていた牛は起立困難が起こるような月齢ではなかったのですが、これから起こりうる不安材料の解決策として前もって導入しました。

ブジダスを導入して感じる効果

メールで長時間横臥の通知が来た時に、23分後、長くても510分後には牛が声かけで起きてくれているので、効果があると思います。僕はまだ一回も通知が来た後現場に向かったことはありません。そこは楽をさせてもらっています。
先ほどお話しした通り、最初は1台で稼働し、半年ほど経って追加で2台目を稼働させました。それは単純に起立困難が懸念される月齢の牛が増えたということや効果を実感したからです。

今後も増頭を考えています。22ヶ月齢以上の牛もさらに増えていきますので、最終的に6台はつけたいと思っています。
兄と二人でよく話すのは、AI系に投資して損をすることは絶対にないということです。そこは共通認識になっています。
笹崎牧場でも様々なシステムを導入しているのですが、こちらの農場はネット環境が若干悪く使えるサービスが限られました。そんな中でもブジダスはデータ量を絞っているので問題なく使えていますし、ネットが切れても声かけだけは稼働してくれるので、セーフネットの役割も果たしてくれていると思います。

また、ブジダスお客様センターでは同じ方がずっと対応してくれているのですが、とても丁寧な対応で、しっかりとしたスタッフを雇われているという安心感がありました。
向こうから電話をいただいた際に、出られなかったためこちらから折り返しの電話をしたのですが、通話料がもったいないのでかけ直しますと言っていただけたことが何度もありました。このような対応をされる方は少ないので、素晴らしいなと記憶に残っています。

開発者も驚くブジダスの意外な活用法

横倒しになった状態で寝ている時にメールでアラートをもらうというのが基本だと思うのですが、顔を上げて寝ていたり、長時間座っていたりする場合もメールが来ます。肥育農家において特に雌の場合は発情期に牛が別の牛に上に乗られて腰を痛めたり、足を痛めたりすることがあります。そうした怪我を負った場合でも牛が長時間寝ている状態になります。それをブジダスが教えてくれることで、調子が悪いことに気づかせてくれます。
僕も一応、長時間座っていたり、顔を上げて寝ていたりする場合には診察をしています。(1頭の牛を指さして)この牛は足が悪いんですが、ブジダスに教えてもらい早く気づけたので、だいぶ良くなり、無事に来月出荷を迎えます。
あとはブジダスお客様センターからいただいたブジダスの声かけ稼働の統計データで、どの時間帯に声かけシステムが稼働したがわかりました。うちの牧場の場合、餌をやり終わって、だいたい6時間後にシステムが稼働する頻度が高かったんです。なので餌をあげて6時間後には僕らも音を立てるような作業を控え、快適に寝かせるための努力をしています。
どのタイミングで牛がゆっくり寝るのかわからず、ずっと気になっていたのですが、ブジダスのおかげでこの農場では餌をあげて6時間後に牛がぐっすり眠るんだという気づきをもらいました。

笹崎氏が思い描く肥育農家、畜産業の未来像とは?

松阪牛のような一流の根付いたブランドがあるところは、何ヶ月以上飼わなければいけないとか、性別や血統の縛りがあったりとかすると思います。ですが、そうした制限がなければ基本的には短期で肥育、24ヶ月齢とか23ヶ月齢で仕上げて出荷できれば、餌代も減らせますし、利益を上げる飼い方ができると思います。ブジダスのようなAIのシステムを入れて作業を効率化することで、オフィスワーカーが現場でもスマートに仕事をできるようになる未来を僕は想像しています。つまり、楽をして、余計に汚れる思いをせずに農業ができるようになってほしいということです。起立困難になった牛を起こすためには力も経験も必要なので、例えば女性だと厳しい場合も多いと思うんです。でも、ブジダスを入れることで起立困難自体が起きなければ、そうした方も働くことができるかもしれません。
あともうひとつは、経営の軸を増やせるような未来像です。最初に言ったように肥育という選択肢はなく、繁殖だけやるというパターンの繁殖農家ですと、どうしてもその時の市場の流行りで高い評価をもらえない時があります。その際に持ち帰って、短期肥育できるだけのノウハウがあれば、赤字にせずに、プラスマイナスゼロ、もしくは多少の黒字にすることができます。いわゆる一部一貫経営というものですね。こうしたことができると業界のサステナビリティにも繋がるのではないかと思いますし、その点でもブジダスは力になると感じています。

お客様プロフィール

・ページに記載した会社名、製品名などの固有名詞は、一般に該当する会社もしくは組織の商標または登録商標です
・本ページは2025年8月取材時の情報です