概要

関東、甲信越から東北まで広範な地域に住む人々の足となる旅客鉄道事業を中核に、幅広い関連事業を通じて日本の鉄道業界をリードしている東日本旅客鉄道株式会社。

2012年に策定された新たな経営構想の中で掲げられた「ICTの活用」に関する施策の一環として、2014年3月に同社の公式アプリ「JR東日本アプリ」をリリースした。アプリ開発の豊富な実績と高度な技術力を併せ持つNTTテクノクロスが、JR東日本アプリの開発において中心的な役割を担っている。

課題

新たな経営構想の中で打ち出された ICT情報発信プロジェクト

1987年に行われた国鉄改革によって新たに民営化された、6つの地域別旅客鉄道会社の一つである東日本旅客鉄道株式会社。69線区で延べ7,400km を超える営業キロを誇り、関東、甲信越から東北までの広範な地域をカバーする鉄道会社として1日に1,710万人が利用している。旅客鉄道事業を中心とした運輸業をはじめ、売店や車内販売などの駅スペース活用事業、複合型オフィスビルの展開を行っているショッピング・ オフィス事業など幅広い事業を展開しており、日本の経済活動に欠かすことのできない重要な社会基盤の一角を担っている。

同社は、2012年に国鉄改革 ・ 会社発足から通算5回目を数える経営構想として「グループ経営構想Ⅴ~限りなき前進~」を策定し、東日本大震災などの大きな環境変化を踏まえた上で今後の経営の方向性を改めて打ち出している。

新たな経営構想の中では、安全やサービス品質、地域との連携強化など「変わらぬ使命」とともに、技術革新や新たな事業領域への挑戦、人を活かす企業風土作りなど「無限の可能性の追求」を柱として定めており、ICTの活用によってお客さまサービスの品質向上に貢献する施策も新たに検討された。

松本 貴之 氏

「今回新たに示された経営構想を具現化すべく、お客さまにご満足いただける情報提供のあり方を検討するプロジェクトをスタートさせました。その過程で立ち上がったのが、数年前に研究開発センターが中心となって行っていた試験サービス“トレインネット”をさらにブラッシュアップし、商用サービスとしてスマートフォン向けの公式アプリを展開していく“ICT 情報発信プロジェクト”だったのです」と鉄道事業本部 サービス品質改革部 ICT情報発信プロジェクトチーム 松本 貴之氏は当時を振り返る。

解決へのアプローチ

公式アプリ作りに必要不可欠なアジャイル開発手法

新たに開発するアプリは、必要なコンテンツを社内外から持ち寄り、コンテキストに応じて適切な情報を提供することを目指したもの。同チーム湯浅 光平氏は「意識したのは共感とギャップです。運行状況や.駅の情報など鉄道事業者ならではの情報を提供して共感を得ることはもちろん、列車の乗車率など様々な実験的コンテンツや、4コマ漫画をはじめとした“スキマ時間”を楽しむコンテンツなどの提供を計画しました。固いイメージのある従来の鉄道会社とは異なるアプローチにチャレンジすることで、親しみを感じてもらいたいと考えたのです」と語る。

小林 郁生 氏

また、今回のアプリにおける技術的な側面を担当した同チーム 小林 郁生氏は「今回のアプリ開発を通じて、情報のプラットフォームを作り上げることも狙いの一つでした。サービス的な側面のみならず、ビジネス的なアプローチや業務利用という観点でも活用できるものを構築しようと考えたのです」と力説する。

そこで、運行情報や列車内の情報などを扱うそれぞれの既存システムを担当するベンダが 集まってアプリ開発を行っていくことになったが、その中で中心的な役割を果たしたのがNTTテクノクロスだった。今回のアプリ開発の意図や状況をいち早く理 解し、要件定義からスタートしてシステム開発を行うような従来の進め方ではなく、アジャイル的な開発手法を取り入れた。打ち合わせの場で意思決定や対応方法の方向性を明確化し、方針が確定したものはその翌日には対応を実施するなどスピード感のある対応を行っていったという。

「情報更新や定期的なアップデートなどが頻繁に発生するスマートフォンのアプリは、時間をかけて仕様変更を行うような従来の開発手法がそぐわないケースも見受けられます。長年にわたって構築してきた従来の鉄道システムとは異なるアプローチに対して柔軟に対応いただけたベンダの一つがNTTテクノクロスだったのです」と小林氏はその体制を高く評価する。また、異なるシステム開発で長年同社との取引があり、数多くの実績を持っていることで得られる安心感もNTTテクノクロスを頼りにしている一因だと松本氏は言及する。

ソリューションとその成果

高度なインテグレーションとスピード感を重視した意思決定体制作り

現在提供されている「JR東日本アプリ」は、同社が提供する全路線の運行情報や時刻表をはじめ、一部の列車位置情報や車内の温度、混雑度が確認できるようになっており、駅構内図やコインロッカーなどの駅設備情報、遅延証明書の入手など便利なコンテンツが数多く提供されている。2015年1月末にはダウンロード件数が100万件を突破するなど、高い利便性を持ったアプリとして多くの利用者が同アプリを活用している状況だ。また APIで各種情報が取り出せるようDB及びインターフェースが整備されており、いずれは社内外で情報活用できるような情報活用のプラットフォームとして作り上げている。

今回アプリの開発期間はわずか半年あまりとなっているが、短期間でアプリ開発を成功させることができた点について小林氏は、「社内で検討する場合、最初からすべて開発しようとする傾向があります。しかし今回は、実績のある既存プラットフォームや便利に使えるツールなどを提案に盛り込んでいただき、うまく活用することができました。そのおがけで、開発期間は従来の半分程度、コストも大きく軽減することに成功しています」と NTTテクノクロスのインテグレーション力について評価する。

また、現在でも毎週行われているミーティングの中でしっかり意見交換を行い、互いに議論できたことで信頼関係が醸成されたこともプロジェクト成功の大きな要因であったと松本氏は分析する。「開発体制をしっかり整えていただいたおかげで、ミーティング内では持ち帰り案件がほとんど発生せず、その場で具体的な方針を決定することができました。過去の経験もふまえてアドバイスいただくことで、スピード感を持って開発を進めることができたのです」

プロジェクトを進める過程では、NTTテクノクロス社内で導入しているプロジェクト管理ツールを用いることで状況が可視化され、進捗状況も互いにクリアにすることができたと小林氏は評価。また、複数のベンダが今回のアプリ開発に関わっているが、それらの取りまとめにも NTTテクノクロスが尽力したと評価する松本氏。「コンサル的な位置付けで最適な方法論を提案いただき、我々の立場になって他のベンダと折衝を行ってくれる場面もありました。プロジェクトに関わる企業が集まる場で、NTTテクノクロスは頼りになる存在でした」

今後の展開

2020年に向けたオールジャパンを牽引するアプリへの期待

JR東日本アプリがリリースされてすでに1年あまりが経過しているが、利用者の声に真摯に対応すべく毎月のように改修が行われている。また、新たなコンテンツ追加やプロモーション施策としてのバナー設置など、社内の様々な部署から相談が寄せられているという。「アプリが認知されたからこそ様々な要望が上がってきます。これらの要望は可能な限り実現させようとしていますが、それができるのもNTTテクノクロスのスピード感ある対応、及び開発体制を敷いていただいているからこそです」と小林氏は評価する。

湯浅 光平 氏

今後については、「現状のサービスを中心に開発を進めていますが、これからはビジネス領域にも踏み込んで機能拡張などを行っていきたい」と松本氏。また、湯浅氏は「公式アプリではありますが、Suicaなど当社を代表するサービスへの対応はこれからです。ベースの機能をさらに拡充していくことは当然ですが、他の鉄道会社とも連携するなど2020年のオリンピックに向けてオールジャパンを牽引するような、そんなアプリに育てていきたい」と今後目指すべき姿について語っていただいた。

お客様プロフィール

 お客様プロフィール
設立 1987年4月1日
事業概要 旅客鉄道事業を中心とした運輸業をはじめ、売店や車内販売などの駅スペース活用事業、複合型オフィスビルの展開を行っているショッピング・オフィス事業など幅広い事業を展開。
資本金 2,000億円
従業員数 59,240人(2014年4月1日現在)
URL http://www.jreast.co.jp/

※2015年4月時点現在