東日本旅客鉄道株式会社様
輸送障害発生時における迅速な対応をめざしてタブレット端末を用いた時刻表転送システム
概要
東日本旅客鉄道株式会社(以下略:JR東日本)の鉄道事業は70線区、延べ7,512.6kmにおよび、その鉄道網は1日に1,650万人もが利用している。JR東日本では今年度、輸送障害時における輸送品質とサービス向上のため、全乗務員のタブレット端末携行を決めた。それは「輸送障害時における、乗務員への迅速な時刻表送付」という課題に対し、タブレット端末を活用したシステムの有用性が認められたからに他ならない。昨年10月から四ヶ月間の試行期間で「使いやすく」「安定している」システムを組み上げたが、今後の本稼働に向けてJR東日本とNTTテクノクロスとの二人三脚は今も続けられている。試行時の取り組みと今後の展望を、ご担当のお二人(角田氏・村上氏)に改めてお聞かせいただいた。
課題
輸送障害が起こった時、乗務員へ速やかに更新時刻表を届けるために
「輸送障害が起こった場合、乗務員(運転士・車掌)に列車運行に関して変更となった内容を正確に伝える必要があります。迅速な対応で輸送品質の向上を推進するにあたり、この効率を上げることがポイントです」こう語るのは、JR 東日本の運輸車両部で戦略プロジェクトを担う角田氏。運行ダイヤに支障をきたすトラブルが発生した場合、すぐに新しいダイヤを策定して運転整理を行わなければならない。しかし、車両と乗務員が揃っているのに、更新された時刻表が乗務員の手に届かないため運転再開が遅れるというケースが懸念されていた。
「現在、列車の運行変更そのものはシステム化が進んでいますが、その変更内容、特に時刻表は未だにほとんど手渡ししているのが実情で、その時刻表をいかに迅速に乗務員に届けるかが課題でした。各待機所の乗務員に対し、更新時刻表をどうやって速やかに届けるか。乗務員が携行する紙の時刻表の代わりにタブレット端末が使えるのではとNTTテクノクロスに相談し、実現性の検討を重ね、今回の試行を決めました。紙の手渡しからデータ配信で時刻表の更新ができれば、輸送障害時の対応が少しでも早くなると考えたのです」と角田氏は振り返る。
さらに、タブレット端末は、情報収集および車内や駅でのご案内、乗務員が携帯しているマニュアル類の電子化にも有効活用できる、と将来の展望を語っていただいた。
解決へのアプローチ
試行のフィールドは「新宿運輸区」確信が得られた、降雪のなかの運用
試行にあたっては、対象路線の選定が重要となる。複数の路線に渡り、相互直通運転をするため輸送障害の影響を受ける頻度が高い路線「湘南新宿ライン」をターゲットに選び、その「湘南新宿ライン」に乗務する比率が最も高い「新宿運輸区」で試行実施されることになった。同区内で乗務している「中央線」「東海道線」「横須賀線」も含んだフィールド試験は、約150 名の乗務員にiPad 85台を割り当てて四ヶ月間(2012 年10 月~2013 年1 月)行われることに。「試行導入はいたってスムーズに進みました。
理由としては、近頃では年配の乗務員もスマートフォンを使いこなしていること、現場の管理者や指導担当者の丁寧なフォローがあったこともありますが、NTTテクノクロスが、乗務員が慣れている車両の列車情報制御装置に似せたユーザーインターフェイスを提供してくれたことが大きかったです」と角田氏。
JR東日本研究開発センターの研究員である村上氏は「担当行路に乗務する前の点呼でiPad を貸し出し、戻りの点呼で返却するという運用方法を採り、現場の意見を吸い上げながら開発を進めました。開発する側は大変だったと思いますが、現場が積極的にシステム検討に参加することが一番ですから」と述べてくれた。試行が始まると、運転士からは『置き場所がない』『運転中時刻表を確認する際、指で触ると画面が動く』、車掌からは『端末が大きい』という意見が寄せられたという。「置き場所や端末の大きさについては実導入での課題としましたが、運転中の時刻表確認についてはNTTテクノクロスが、ユーザの細かい要望を聞きつつ、迅速に改良してくれたので、乗務員に受け入れられました。当直からは『従来よりも対応時間が短く済んだ』と障害時対応の簡素化に好評価でした」と村上氏。
そして「効果が如実に現れたのは1月の降雪でダイヤが乱れてしまった時です。多数の列車に対して、時刻表の更新が発生したのですが、本システムによりスムーズな指示連絡ができ、輸送品質向上に貢献しました。」と角田氏がつづける。これで誰もが、期待以上の効果があると確信することになった。
ソリューションとその成果
現場第一で進められた試行の中で得られた業務課題、運用メリットとは
試行において「端末管理」が大変だったという村上氏に具体的な業務課題をうかがった。
「今回は個人貸与ではないので、端末へのアプリインストールや保管・充電用の棚が必要になりました。実際の運用では、クラウドベースでアプリを集中管理することになるでしょうから、システム更新の手間は減らせると考えています。また、当然ながら携帯通信回線の契約は欠かせないのですが、この通信コストについては気を使わなければなりません」とのこと。ただ、それらを差し引いても運用メリットは高いと角田氏。
「誰もが使えるタブレット端末での運用は、高度な研修などの教育コストを必要とせず他線区の乗務員や当直に水平展開しやすい。NTTテクノクロスとの新宿運輸区における試行で、それは実証できました。現場でタブレット端末の存在が浸透すれば、輸送障害発生時やサービス向上に活用可能なコンテンツ・アプリを今後増やしていくことが可能」と語る。現場第一で磨き上げたシステムならではの「誰もが使える」「すぐに使える」という評価が、全乗務員区所導入の決定に弾みを付けた。本格的導入に際し iPad miniを選んだ理由を「置き場所とサイズに関する現場の要望に応えました。乗務員の好み・使いやすさが大きく影響しています」と村上氏。
バッテリー容量が充分であり運用(輸送障害時の使用)に耐えうるという点も評価の対象になったという。
今後の展開
JR東日本の全乗務員区所導入に向けて、さらなる開発が進んでいる
「運転業務のように一瞬の判断が迫られるような状況下でユーザが使用するシステムには、使い勝手の高さや安定性がとても重要です。そのためには、現場の乗務員の意向を聞き、さらには、プロトタイプを使用させることで現実的な意見を引き出しながら良いものを作っていく必要があります。これといった仕様がないのですから」と角田氏。
試行においては短期間での開発が求められ、まさにアジャイル的な手法で取り組んだ。難題とはいえ、NTTテクノクロスは柔軟かつスピーディに開発を進め、さらには最も重要な、安定して使えるシステムとして乗務員からも認められた。「高い技術力と、我々の要望をきちんと形に落としこめるコミュニケーション能力やプロジェクト管理力が頼りになりました。今後もパートナーとして、業務の改善にお力を貸していただければと思います。なにしろ、乗務員約12,000名が関わる大きな改革ですから」と角田氏は期待を込める。
本格導入に向けてJR東日本とNTTテクノクロスとの更なる挑戦はこれからも続いていく。
お客様プロフィール
設立 | 昭和62年4月1日 |
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事業概要 | 駅と鉄道を中心として、お客さまと地域の皆さまのために、良質で時代の先端を行くサービスを提供することにより、東日本エリアの発展をめざすことをグループ理念とし、「信頼される生活サービス創造グループ」として、社会的責任の遂行とグループの持続的成長をめざしている。 |
従業員数 | 59,130名(うち乗務員約12,000名) ※2012年4月1日現在 |
URL | http://www.jreast.co.jp |
※2013年10月時点現在