概要

新幹線や高速バスといった他の移動手段との競争が激化している国内線をはじめ、世界的な航空連合への参加や特定航 空会社との戦略的な提携、格安航空会社の台頭が著しい国際線など、劇的な変化の中にある航空業界。全日本空輸株式会社では、垂直統合型に構築されたシステ ムの構造化に着手し、ESB(Enterprise Service Bus)による共通連携基盤の構築により市場の変化へ柔軟に対応できるインフラ環境を実現した。

この基盤開発で重要な役割を担ったのが、SOAの基盤となるESBの設計から既存システムの調査やベンダ選定といったプロジェクト全体の上流工程を担当したNTTソフトウェアのEAコンサルティングサービスだ。

課題

変化する市場ニーズに対応できる共通連携基盤を希求

「安心」と「信頼」をグループの基本理念に据え、世界中の顧客に付加価値の高いサービスを提供し続ける全日本空輸株式会社。競争が激化する航空業界において、国内線はもちろん、定期便就航25周年を迎える国際線へのさらなる取組みも積極的に行っている。

全日本空輸株式会社 山口 明宏氏
1999年には世界最大の航空連合「スターアライアンスメンバー」に加盟。空港の発着枠や航空路線などを任意に決定できるオープンスカイ協定、独占禁止法適用除外認可によるグローバルな戦略的提携、格安航空会社の設立や出資など、経営基盤強化に向けた様々な施策に取り組んでいる。

市場の変化へ柔軟に対応するべく、ITインフラ基盤の強化にも積極的に取り組んでいる同社は、1990年代後半からメインフレームからオープンシステムへの転換を図ってきた。
しかし、サイロ化されたシステムによって個別最適化が進んだことで、システム自体が硬直・複雑化。市場の変化に柔軟に対応できるインフラ環境の整備が急務となった。また、2000年代に入り大きなシステム障害を経験し、より安定したサービス継続を最優先に、急増するトラフィックを確実に収容できる強固な基盤作りが何よりも求められていた。

「2012年に国内線予約システムをオープン化する計画もあり、社内外の約70システムとの連携を円滑に行う必要があります。システム拡張のたびに膨らむ開発工数を如何に軽減するかといった様々な課題の解決には、拡張性に富んだ全社横断的な共通連携基盤の構築が必要となったのです。」と全日本空輸株式会社 IT推進室 企画推進部 企画・業務チーム 主席部員の山口氏は語る。

「システム統合ソリューション」

解決へのアプローチ

新たな挑戦“ESB”による基盤作りに求められた豊富な連携実績

「共通連携基盤の構築には、SOAによる柔軟な基盤作りが最適だと考えていました。しかし、SOA実現のために欠かせないESBによるインフラ構築は我々にとっては大きな挑戦でした。」と山口氏が語る通り、全社あげての共通基盤作りは同社にとって初めての試み。
それでも、共通のプラットフォーム上に複数の業務アプリケーションが動作するメインフレームの優れた面をオープンシステムに活かしたいと考えていた山口氏は、ESBを基盤としたシステム構築が欠かせないと判断したという。そこで、同社が目指す最適なインフラ作りのために声をかけたのがNTTソフトウェアだった。

「空港系、貨物系システムなど、EAIによる連携基盤構築の際にお世話になった経緯があります。当社の仕組みをよく理解していたことはもちろん、高い技術力と豊富な実績を高く評価していたこともあり、共通連携基盤の整備に尽力いただけるようお願いしました。」

もともと、国内におけるEAI普及のためのコンソーシアムを日本で立ち上げ、システム連携において先進的な事例も数多く手掛けているNTTソフトウェアだからこそ、同社が求める共通連携基盤の実現には欠かせないパートナーだったと山口氏。

そこで、NTTソフトウェアが提供するEAコンサルティングサービスのスキームに沿って、2007年6月より現状把握から課題の抽出を実施し、要件定義書の作成から移行方針の決定へと進めていくことになる。

< 共通連携基盤の概要 >

「共通連携基盤の概要」

ソリューションとその成果

プロジェクトの円滑な推進に大きく寄与したEAコンサルティング

今回構築した共通連携基盤では、ハイレベルな要件を満たしたものになっていると全日空システム企画株式会社 技術部 技術戦略チーム シニアエキスパートの善積氏は語る。

全日空システム企画株式会社 善積 良至氏
「共通連携基盤が止まってしまっては、すべてのインフラが使えなくなります。だからこそ、システム障害ゼロを念頭に”止まらない”仕組みを目指しました。」

具体的には、各ノードの稼働率を99.995%、秒間処理件数を500TPS、内部処理時間(TAT:Turm Around Time)を平均で40msec、最大でも130msecという仕様になっている。この要件を満たすため、アクティブ2系統とスタンバイ1系統、合わせて3系統のESB基盤を構築し、系統ごとに物理ノードが2つ、それぞれインスタンスが2つずつ動作しており、1系統だけで500TPSを実現する設計となっている。

「3系統を順番に切り替えながら共通連携基盤を動作させています。トランザクションごとのTATを監視するなどの予兆検知も行っており、レスポンスの低下にも最新の注意を払っています。」

今回のプロジェクトでは、2007年9月から開発パートナー選定を行い、設計・製造におよそ2年を費やした。そして最終的には2010年10月から4ヶ月をかけて70システムを共通連携基盤上に移行させることに成功している。一般的には連携システムの数が増えれば増えるほどレスポンスに大きく影響するものだが、当初想定だった最大130msecを越える数値を最小限に抑えこむことができており、トラブル発生から解決するまでの時間は平均で18分以内と、従来に比べておよそ1/4までに短縮することが可能となっている。さらに、拡張性の高い共通連携基盤を作り上げたことで、新たなシステムとの連携が発生する際には、従来の開発工数に比べておよそ3割程度は削減できると山口氏は想定している。

全日空システム企画株式会社 佐藤 貢一氏
このプロジェクトの一翼の担ったEAコンサルティングサービスについて、全日空システム企画株式会社 技術部 技術戦略チーム チームリーダー 佐藤氏は「調査表を元に各部署へヒアリングを実施していただきましたが、社外の人間だからこそ話してもらえる話題もあり、”いい塩梅”で課題をひきだすことができました。膨大な作業が伴う課題抽出や要求仕様書の作製など、我々だけでは到底作ることができません。一緒に進めていただけたことは大変ありがたかった。」と評価している。

また、開発ベンダを選定する過程でもNTTソフトウェアの役割は大きいと佐藤氏。 「どのベンダにも染まらずに客観的に評価いただいたからこそ、プロジェクトを円滑に進めることができました。市場動向を踏まえた形で選定できたことはもちろん、我々の立場に立ってプロジェクトを推進していただいたからこそ、安定した共通連携基盤を作り上げることができたのです。」

今後の展開

サービス連携のあるべき姿へさらなるインフラ整備を継続

ESBによる共通連携基盤を作り上げた同社だが、現在は基盤作りを終えた段階で、業務アプリケーションごとのサービス連携はこれからの作業となる。山口氏は「現状は個別プロトコルによるシステム連携も多く、未だにサイロ化されたシステムが残っています。これらの構造化をさらに進めていき、ESB本来のあるべきサービス連携の姿に近づけていきたいと考えています。」と語る。

2015年には国際線予約システムのSaaS化を目指して”所有しない”インフラ整備を視野に入れており、共通 連携基盤を軸に次世代アーキテクチャを取り込みながら、さらなるインフラ整備にまい進していきたいと山口氏。今後の基盤整備にもNTTソフトウェアの協力 を期待しているという。

左)全日空システム企画株式会社 善積 良至氏、(中)全日本空輸株式会社 山口 明宏氏、(右)全日空システム企画株式会社 佐藤 貢一氏

お客様プロフィール

全日本空輸株式会社/全日空システム企画株式会社 様 全日本空輸株式会社(All Nippon Airways Co.,Ltd)
設立 1952年(昭和27年)
事業概要 定期航空運送事業・不定期航空運送事業・航空機使用事業・その他附帯事業
資本金 2,313億8,178万4,228円(2011年3月31日現在)
従業員数 12,848名(2011年3月31日現在)
URL http://www.ana.co.jp/
 全日空システム企画株式会社 様
設立 1986年(昭和61年)
事業概要 コンサルティング、システムインテグレーションサービス、受託ソフトウェア開発、ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)、情報システム運用管理保守、ソフトウェアプロダクト仕入販売
資本金 5,250万円(2011年6月17日現在)
従業員数 754名(2011年6月17日現在)
URL http://www.asp-kk.co.jp/

※2011年10月現在