みんなに愛される『CipherCraft/Mail 7』のつくり方(その3:調査結果篇)
当社が提供している「CipherCraft/Mail 7」が、UXデザイン手法をどのように活用して、生まれたのか。今回は調査結果の報告です。
(366)日のUXデザイン 第3回
- 2017年11月09日公開
おはようございます。こんにちは。こんばんは。
HCD-Net認定 人間中心設計スペシャリスト 井山貴弘です。
突然ですがこのブログのタイトル、全何回の連載になるのかわからないまま、安易に、「その1」「その2」と、記事タイトルをつけてきましたが、今回「その3」となり、、、、
内容を区別できるようなタイトルにした方が読みやすい。
...ということに、今更気付きました。
読む人を考えていない、人間中心設計スペシャリストらしからぬ、...と思われそうですが、
実は、あえてこの2回、読みづらさや違和感を感じさせて、それを後で説明して必要性を説くことで、タイトルの重要性に説得力を持たせる構想だったんです!(バーン)
...と言い切ってしまえばいいのです。この強引さが著者や講師に必要な要素です。きっと。
ということで、こっそり「その1:概要篇」「その2:調査準備篇」と副題をつけ、そして今回を「その3:調査結果篇」として進めていきたいと思います。
さて、では、なぜ一般的な『編』ではなく『篇』という漢字を選んだのか?
リスクが非常に高い手術を受ける前、人生最後の映画に選んだくらい、『THE IDEON 発動篇』が大好きだからです!!
...という要因も、もちろん大きくありますが、そもそもの言葉の源を調べると、『篇』がたくさん連なったものが『編』とされています。
『篇』がファイル、『編』がフォルダ、という、もう少しわかりやすい説明をされている方もいます。
つまり、今回の漢字の選び方は...「愛される○○のつくり方」というシリーズの「CipherCraft/Mail 7」『編』であり、そこに連なる記事ひとつひとつは『篇』である、という、確かな意味を持ったものであったことがわかります。
そもそもの源を調べることで、確かな意味を持つことになる、そんなことがメール誤送信防止ソフト「CipherCraft/Mail」のカイゼンでもありました。
人間工学の要素を取り入れる
ここで「その1:概要篇」の課題1を振り返ってみましょう。
1. 点検項目の見直しも含めた根本的なカイゼン
誤送信が本質的にゼロになるよう、UXの観点から点検項目の一新を図り、更に人間工学の要素を取り入れて、機能から検討し直すこと。
上記の文中にある『人間工学の要素』とは、一体どのような要素を取り入れればよいのでしょうか?
その答えが前回「その2:調査準備篇」の最後の写真にあります。
ピザを食べる子供の写真ですが、ピザに必要な食材と言えば...そう、チーズですね。
話の流れ上、どうか、チーズにさせてください。。。
ヒューマンエラーのリスク管理をモデル化した、「スイスチーズモデル」という概念があります。
ヒューマンエラーによる事故は、複数の要因が重なって起こることがほとんどです。
スイスチーズには、大小異なる穴が空いています。チーズの1枚1枚が、ある行動に対する人の動作、そして、チーズの穴を、人がエラーを起こす要因とします。
1度のエラーでも、次にエラーを起こさなければ、事故を防ぐことができます。
しかし、何度も穴を通るエラーを重ねたり、どのチーズにも同じ場所に同じ大きさの穴(=エラーの要因)があれば、何枚もの穴を通り抜けて、本当の事故になってしまいます。
1枚1枚、いかに穴を埋めるのか?そして、いかに同じようなエラーをつくらないようにするのか?
そんな視点で「CipherCraft/Mail」を分析することにしました。
調査A.誤送信事例調査の結果
前回「その2:調査準備篇 - 調査A.誤送信事例調査の準備」にて得た顧客のインシデント情報から抽出した、誤送信を起こした人間の行動パターンですが、傾向として、以下3点が多く見られました。
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同姓アドレスの見誤り
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メーリングリストの選択誤り
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慣れによるアドレスの確認漏れ
これら3点とその他の要因を、スイスチーズモデルに当てはめて検証してみましょう。
「スイスチーズモデル」を、既存の「CiperCraft/Mail」に当てはめて検証
事故は、一連の動作内にある、すべての穴が揃ってしまったときに起こります。
CipherCraft/Mailでは、知覚 → 認知 → 運動、という3つのポイントがあります。
誤送信の要因をモデルに当てはめつつ、代表的な事例を加えると、
...となります。
それぞれのチーズに空いた穴を埋めるために、以下の対応を行うこととしました。
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1. 知覚における誤送信防止
従来製品では、特に重要な確認すべき項目がわからない可能性がありました。
本製品では、誤送信をしてしまいがちな重要な項目のみに視線を集めるために確認画面での情報量を最小限にします。
さらに、文字サイズ、太字などの強調表現を適切に使用することで視覚的に確認しやすいデザインに変更します。 -
2. 認知における誤送信防止
類似のメーリングリストや同姓同名宛てにメールを送ってしまう場合は、その多くが思い込みによるものです。
正しいと思い込んでいる情報に対しては、特別な注意を払わないため、無意識な思い込みを取り除く必要があります。
本製品では、送信履歴と比較し、初めて送る宛先には送信時のボタンを警告色に変えることや、メールアドレスのドメインから判断して宛先が同じ会社であればまとめて表示することができます。
これにより、宛先の思い込みメール誤送信を未然に防ぎます。 -
3. 操作における誤送信防止
繰り返し行う操作は慣れによって注意力が低下します。
メール送信の度に確認画面が必ず表示され、同じような確認を何度も行うことにより重要な確認を怠る可能性があります。
そこで誤送信のリスクを自動的に判別し、リスクが低い場合は確認画面を出さず、確認が必要な場合には確認画面を表示することで、人間の「操作」行為に対する抑止効果を高めます。
補足説明部は、報道発表文をそのまま転用したのでとても堅い文体ですが、これが人間工学の要素を取り入れた調査結果、そして改善策となります。
さて、ほぼ答えとも言える結果を先に書いてしまいましたが、前回もうひとつの調査準備を行っていました。
調査B.インタビュー&現場調査の結果
前回「その2:調査準備篇 - 調査B.インタビュー&現場調査の準備」では対象となる社員と、インタビュー内容、そして与えるタスクについて説明しました。
今回は、調査の対象人数や環境を説明していきましょう。
インタビュー
インタビューの対象者は、社内でデザインサポーターを務める、9名の社員を選出しました。
事前に既存のCipherCraft/Mailに関する資料を渡し、実際に使っているときの課題、そしてカイゼンすべき点を、点検画面の各項目単位で抽出してもらい、その結果を対面インタビューと、グループチャット「TopicRoom」でのやりとりで、深掘りを行いました。
それぞれ得た結果は、9名全員が揃う「TopicRoom」のルームで共有し、互いが考える課題や改善点を見せ合うことにしました。
そのルームの中で、ひとりでは気づかなかった新たな課題を引き出し、調査結果に肉付けをしていきました。
現場調査
現地調査の対象者は、
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社内メールの多い総務系
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社外メールの多い営業系
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社内外バランスよくメールする開発系
という3種の社員を選出しました。
各々の座席で、全員に同一のタスクを与えて、普段通りCipherCraft/Mailを使ったメール送信操作をしていただき、その点検手順や方法の観察、かかった時間などの調査を実施しました。
その後、項目に沿ったインタビューと、先の操作観察時に気になった点の深彫りを行いました。
アドレス1件1件を確認しながらマウスでクリックすることを想定した点検行為を、ある社員は、出張先では操作するスペースの確保が難しいため、膝の上で、マウスではなくキーボードのTabとEnterを使って機械的に行っていた、といったように、3種それぞれに、想定していなかった使い方もありました。
どんな状況下でも、使いやすさを保ちながら点検を促すために、過去の事故事例とこれらの調査結果組み合わせて、ユーザの誤操作を起こす場面を明確にした結果、点検項目の絞込みに加えて、どんな場面でも変わらない操作性の確保も、検討する必要があると気付かせてくれました。
エキスパートレビュ
旧NTTアイティ社こころを動かすデザインラボには、UX/UIデザインを専門とする2名で、当社社員と同様の操作タスクに従って操作いただき、エキスパートレビュを実施していただきました。
初めて使うからこその、当社社員にはないコメントも集まりましたが、利用暦を問わない、社員と共通したコメントもあり、コメントに新しさだけでなく、深さが加わる面もありました。
インタビュー&現場調査の結果
調査結果は、当社と旧アイティ社、すべてのユーザのコメントを統合し、「状況」や「感情」などで階層的にカテゴリを分け、個人の愚痴ではない、要望や改善点を明確にしました。
そしてユーザビリティ(以下、UI)的な観点を主体に分析した結果、前述の報道発表文にも繋がる、4つの大きな課題としてまとめることができました。
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UI課題1:見るべき箇所に、視線が届かない可能性がある
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UI課題2:実行すべきアクションが分からない可能性がある
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UI課題3:暗号化の手順が分かりにくい可能性がある
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UI課題4:手間がかかり負担に感じる可能性がある
その他個別に挙がった課題とカイゼン案は、点検画面の点検項目ごとにまとめ、どこが問題かを、その画面上にプロットしました。
そして、この時点で単なる製品担当への説明用としてだけではなく、実際の画面仕様としても活用できるレベルの、詳細な資料を作成しました。
特に前述の通り、現場調査ではユーザの状況によって、製品の期待する操作とは全く異なる操作をしていることが判明したため、操作時間の経過と共に起こるマンネリに加えて、操作の統一性が図れていないことで起こるセキュリティリスクを、わかりやすく解説した内容としました。
後日その資料を使って、製品担当に対して、問題点と改善点を説明し、点検項目を増やすことで誤送信ゼロを目指していたそれまでの方向性から、必要な項目を必要なときにだけ点検させることで誤送信ゼロを目指すという、新たなカイゼンの方向性を固めることができました。
...と、急に流れるような作文文体になりましたが、以上が、調査結果篇となります。
次回は、これらの結果を実際の機能や画面に落とし込んでいく工程を、ご紹介していきたいと思います。お楽しみに。
ちなみに『THE IDEON 接触篇』『THE IDEON 発動篇』は、起承転結でいう「承」がない、と監督自身が自虐しておりますが、このブログも同じように「承」にあたる記事が書けませんでした。
...とはいえ、連載は進んでいくので、もうしょうがない。
(キレのないダジャレ)
※Windows は米国 Microsoft Corporation の米国およびその他の国における登録商標です。
※「CipherCraft」はNTTテクノクロス株式会社の登録商標です。
※その他会社名、製品名などの固有名詞は、一般に該当する会社もしくは組織の商標または登録商標です。
2001年入社時より、Webシステムを中心にユーザ向け画面のデザインを担当。 2015年秋よりUXデザイン推進担当として、社内外にUXデザインを広める役割を担う。 2017年、HCD-Net認定人間中心設計スペシャリスト資格取得。 結婚披露宴のお色直しで新婦と共に「ふたりの愛ランド」を歌いながら登場するなど、面白く楽しませることが好き。