ソフトウェアエンジニアのための「無線」入門(4)電波での通信は信号とノイズの闘い
実は中学や高校の理科や物理の授業で学んだはずの電波の基礎知識を新たな視点で簡単におさらいすることで、今の、そしてこれからの世の中がどうなるのか、あるいは自分を取りまく生活や仕事の環境がどうなるのかというところを少しだけ今と違う視点で考える、そんなきっかけをご提供します。
テクノロジーコラム
- 2026年08月14日公開
はじめに
NTTテクノクロスの岩永です。
通信を伝える媒体には電波だけではなく光やLANや同軸などのメタルのケーブルも利用されていますし、例えば無線通信といっても少なくとも電波区間の前には必ず物理的なケーブルが存在します。ただし電波はケーブルでの伝送とは桁違いに空間の様々な条件の影響を直接受け、使うべき信号がノイズより弱くなってしまうと通信が途絶えます。
そんな電波の世界、今回は「電波での通信は信号とノイズの闘い」という話題に触れたいと思います。
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電波での通信は信号とノイズの闘い
世の中で、自分が使いたい電波を発信しているのは自分だけとは限りません。認証制度に適合した無線機で自分が使う帯域だけを使おうとしても同じもしくは近隣の周波数帯域を使う無線機の電波が干渉してきます。空間を伝わってくる電波は物理特性として距離に応じて減衰しますし、色々な所で反射するなどして単一の送信元からであっても時間差をもって複数の電波の波が受信側に到達することも影響して、電波の強度は常に変動します。それ以外に自然界の電磁波や電波が影響する場合もあり、固定ケーブルの世界から見ると信じられないくらい本当に一瞬たりとも安定しません。
そのような条件を抱えて飛んでくる電波のなかから自分が必要とする電波だけを選り分けた上で通信に使う部分だけを取り出すのですが、その「信号」は結果的に常に自分は必要としない「ノイズ」に埋もれた状態なのが無線通信の世界です。常に変動しながら伝わってくる信号が起こすエラーを排除してできる限り安定した通信状態を維持するためにいろいろな規格があり、例えばその一つがモバイル通信の5Gといった規格です。
ノイズと闘う通信機器たち
例えばあなたのスマホは、そのスマホにとっては不要なノイズだらけの「多くの人と共有している通信事業者の通信サービスの帯域」の電波の中から自分に必要な信号だけを選り分けて通信状態を維持して画面にいろんな情報を表示している、本当に健気な通信機器なんです。
あるいはあなたのBluetoothのイヤホンも、そのイヤホンにとっては不要なノイズだらけの「誰もが使える2.4Ghz帯」の電波の中から必死に自分が接続しているスマホの電波を選り分けて通信状態を維持しようと頑張っています。でも距離が離れて信号が弱くなったり混んだ雑踏や電車の中など周囲の別の何かの電波にかき消されるとブツブツ途切れてしまうのですが、それでも頑張る本当に健気な通信機器なんです。
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出力を大きくすると遠くへは飛ぶけれど速度は速くならない
スマホの画面の上の方に、電波の強さを表示するピクトグラムがあります。表示本数に規格など無いので機種によりそれぞれ異なるのですが、3本とか5本とかのバーが立って受信している電波の強さを表示しています。但しこれは通常通信で使うのとは違う制御チャンネルの信号の強さを示していて、厳密には通信で使う部分の状況を示してはいない点に注意が必要です。
それに加え、実はピクトグラムで表示されている電波の受信状態が良くても単純に通信速度が速くなるわけではありません。
なにしろ制御チャンネルの部分は通常の通信には使いませんし、その強さは表しても帯域の混雑度合いやノイズの状況等とは関係ありません。当然ながら実際に出る通信速度など一切わかりません。
基地局の電波の出力を大きくすれば早くなるのか
一般的に基地局から出る電波の出力(あるいは広く無線設備のアンテナ出力)を大きくすると電波は遠くまで届くようになりますが、それだけで単純に通信速度が速くなることはありません。
(参考:携帯電話サービスの無線基地局のアンテナの例(著者撮影))
もちろんWi-FiだろうがLTEや5Gだろうが、どのような通信手段でも規格上の伝送方式を維持するために必要な受信側の電波強度はあります。
しかしながら、ユーザーが使える通信速度は、LTEや5Gなどそれぞれの規格に実装されている圧縮方式や使用できる帯域幅、更にはアンテナ形状も含めた基地局の置局設計のすべてが変数として関与してきます。
端末側で受信できる電波の強さというのは非常に重要な要素なのは間違いありませんが、単純に受信強度が高ければ速度が出る話でもありません。
電波の強度は対数で表現します
電波の強度はデシベルミリワット (dbm) という対数の単位で表し、絶対的な電力量としての1ミリワット (mw) = 0dbm を基準としています。そしてアンテナから出た後は減衰するだけなのでマイナスで表現します。自宅のWi-Fiルータなどで電波強度を見たことがある方だとイメージしやすいと思うのですが、例えばルータのすぐ近くだと-40dbmくらいなのがルータから5歩くらい離れると-43dbmくらいだけれど普通に使えていて、それが廊下の向こうの遠くの部屋だと-70dbmくらいとかになって不安定になったりするような事があります。
この強度の数字は対数なので差が3dbmだと2倍、10dbm違うと10の一乗で10倍、30dbmだと10の三乗で1000倍違うという意味になりますから、この例では5歩先では半分、遠くの部屋では1000分の1まで弱くなっていることを意味します。
この考え方は電波の物理特性の説明なので、Wi-Fiでも5GやLTEなどの商用無線でも全く同じです。
結局電波は減衰するという物理法則を誰も変えられない
ここまでは受信側の話の原理的な説明でした。ここからは送信側の出力について説明します。
例えば携帯電話の基地局のアンテナから見ると送信電力を仮に100Wから200Wと2倍にしても対数表現すると送信する電波の強度は3dbmしか変わらないことになります。
そして電波は原理的には空間上では一定比率で電波は減衰するので、実は2倍の出力で稼いだ3dbmなんてすぐに無かったことになります。もちろん受信側でしっかり電波を受け取れるように必要にして十分に大きな出力で送信することは大事なのですが、それだけでは物事は解決しません。
更に言うと、基地局は商用電力を必要なだけ使って非常に高出力で電波を吹くことはできますが、手元のスマホなどが持っているバッテリで使える電力量はそもそもたかが知れていますし、いろいろな設計条件からも好き放題出力を大きくすることはできません。受信するだけのラジオとは違ってスマホからの弱い電波を基地局が正しく受信できなければ意味が無く、このバランスがとても重要になります。
それに対してテレビやラジオ放送などのように送信局から一方的に電波を出す無線設備の場合には受信側とのバランスという概念は無いので、極端な話、送信設備の設置運用に支障が出ない限りの大出力で送信すれば良い話になります。ただし色々な限界や免許上の制約はあり、それについては前々回の 「ソフトウェアエンジニアのための「無線」入門(2)周波数と伝わりやすさ、そして通信速度」の 「FMラジオがAMラジオより狭い範囲しか届かない理由」のところで触れたとおりです。
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おわりに
今回は「電波での通信は信号とノイズの闘い」と題してお話させていただきましたが、次回「アナログ放送の頃は時報があった」という話題についてお話させていただきたいと思っています。
近いうちにまたお会いしましょう。
それでは。
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ソフトウェアエンジニアのための「無線」入門シリーズ紹介
ソフトウェアエンジニアのための「無線」入門は以下のようなシリーズ構成を予定しています。
掲載回 |
タイトル |
概要 |
第一回 |
そもそも電波って何なのか |
そもそも電波とは何を言うのか、電波が伝わるとはどういうことなのか等から「電波」について紐解いてゆきます。 |
第二回 |
周波数と伝わりやすさ、そして通信速度 |
「周波数が高いと速度が出せる」と「周波数が低いと遠くまで飛ぶ」という関係を通信だけでなく |
第三回 |
物理法則がすべてを支配するのが電波の世界 |
電波の挙動は全て物理法則に則っていて、誰もそれを変えることはできないという話を簡単な例でご紹介します。 |
第四回 |
電波での通信は信号とノイズの闘い |
電波は光やケーブルとは桁違いにノイズの影響を受けるというお話をご紹介します。 |
第五回 |
アナログの頃のテレビ放送には時報があった |
電波の速度は変わらないのにデジタル放送になって時報が消えた謎から、電波から見ると |
第六回 |
スマホで使える周波数のお話 |
周波数の割り当ての話を「スマホで使える周波数」という切り口で分かりやすくご紹介します。 |
なお、内容については変更する場合があります。あらかじめご了承いただけますようお願いいたします。

[著者プロフィール]
フューチャーネットワーク事業部 第二ビジネスユニット
岩永 慎一(Shin'ichi IWANAGA)

