カーボンニュートラルとIOWN 第2回~NTTの環境への取組み~
今回はNTTのカーボンニュートラル施策の一つIOWNとその環境目標への効果, 目指す未来を紹介いたします。
はじめに
IOWNとは?
(出典:NTT)
目的 | 概要 |
多様性への対応
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高精細で高感度なセンサの開発により得た多くの情報, 他者の感覚や主観に踏み込んだ情報処理等を用いて人間がストレスを感じることなく自然に享受できる心地よい状態を「ナチュラル」と名付け, これを実現します。
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インターネットの限界の超越
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日本の1秒あたりの通信量は2006年から約20年間で190倍, 世界全体としては2010年から15年間で90倍となる見込みです。
今後の通信量のさらなる増加, ネットワークの複雑化, 遅延の増加等の課題に対して情報システムのブレイクスルーが求められています。
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消費電力の増加の克服
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ネットワーク接続デバイスの増加はネットワーク負荷だけでなく, エネルギー消費の増加としても問題となっています。
IOWNでは以下のように解決していきます。
・光電融合による電力効率の大幅な向上と増大する情報量にも対応できる処理能力を提供する
・通信の大容量化・低遅延化によって, センサが収集した膨大な情報をリアルタイムに伝送する
・機密性や安定性を高度なレベルで提供可能し、ミッションクリティカルサービスでも利用できるようにする
・マルチオーケストレータによって、業界や地域ドメインを超えたリソース活用を可能にする
・さまざまなデジタルツインを組み合わせて実世界の「再現」を超えたインタラクションをサイバー空間上で自由自在に行い未来予測等に活用する
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IOWN構想の要素(APN, DTC, CF)の概要
要素 | 概要と環境目標への寄与ポイント |
オールフォトニクス・ネットワーク
(APN: All-Photonics Network)
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・ネットワークから端末までフォトニクス(光)ベースの技術を導入, 情報処理基盤のポテンシャルの大幅な向上
・光のまま伝送することで電力効率を向上させ電力消費量を削減
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デジタルツインコンピューティング
(DTC: Digital Twin Computing)
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・実世界とデジタル世界の掛け合わせによる未来予測等を実現するサービス/アプリケーション
・環境エネルギー問題に対しDTCでのシミュレーションを基に核融合炉の成功を目指す, など
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コグニティブ・ファウンデーション
(CF: Cognitive Foundation®)
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・あらゆるものをつなぎその制御を実現する, すべてのICTリソースの最適な調和
・APN/DTCで用いられるICTリソースの最適化
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- ・電力効率を100倍に
- ネットワークから端末までできるだけ光のまま伝送する技術と光電融合素子という新しいデバイスの導入を検討しています。
- ・伝送容量を125倍に
- マルチコアファイバなどの新しい光ファイバを用いた大容量光伝送システム・デバイス技術の導入を検討しています。
- ・エント・ツー・エンド遅延を200分の1に
- 情報を圧縮することなく伝送するなど、さまざまな新技術の導入を検討しています。
- ・概要
- コンピュータの演算チップに光通信技術を導入し, 低電力化と高速演算技術を組込んだ新しいチップの実現を目指しています。
- ・開発ステップ
- Step1:シリコンフォトニクスにより実装された回路とファイバ/アナログICなどを集積した構造を実現しチップ外部との接続速度を高速化
- Step2:チップ間を超短距離の光配線により直接接続
- Step3:チップ内のコア間を光配線で接続し超低消費電力化を実現, また光独特の演算処理を組み込みチップの性能を向上
- ・大容量光伝送システム・デバイス技術
- NTTは敷設光ファイバを用いた商用環境下で実用段階の1Tbit/sの信号を1000km以上伝送することに成功しています。
- 今後はネットワーク/デバイスのさらなる進化, データセンタ間を含めたエンド・ツー・エンドにおける可能な限りの光のままでの接続を実現します。
- ・ヒトと社会のデジタル化世界を想像する
- 従来のデジタルツインは現実世界の自動車等の個々の対象をサイバー空間に写像し分析・予測を実施, その結果を実世界に逆写像することで活用してきました。
- NTTが提唱するDTCでは多様な産業やモノとヒトのデジタルツインを自在にかけ合わせ演算を行い, 総合的な組み合わせを高精度に再現して未来の予測を目指します。
- ・人の意識や思考をデジタル表現する挑戦
- DTCにおけるヒトのデジタル表現は, ヒトの外面だけでなく意識や思考といった内面のデジタル表現を可能にすることが重要と捉えています。
- 以下2つのアプローチの優れた部分を利用し, ヒトのデジタル化の目標を目指します。
- ①計算機を用いて人間の能力を模倣し, より人間に近づけていく方法
- ②人間の脳や身体を生理学的に解明し, その結果を計算機に転写する手法
DTC実現に関わるNTTの技術要素は以下の通り。(上記DTCのアプローチ①に該当)
- ・音声技術
- 聞く技術の研究を半世紀にわたり進めており, コンタクトセンタでの活用が進んでいます。
- ニューラルネットワークの導入によってヒトの音声認識の能力に近づいています。
- ・音声合成
- 文脈に沿って漢字の読み方を判断するテキスト解析処理や, 声の高低/スピードを適切に付与して音声信号を生成することで自然な音声に変換します。
- 話者の音声データからディープラーニングによって自然かつ多様で肉声感のある声の合成を実現しています。
- ・感情・意図の理解
- 声の大きさや高さだけではなく, 会話のリズムや言葉遣いなど情報からコールドアンガーの検知や満足感上の高精度な認識まで可能にしています。
- ・目標
- 上図のようにマルチオーケストレータがクラウドやエッジを始め, ネットワーク, 端末に至るまで様々なICTリソースを最適に制御することで, ニーズに応えるオーバレイソリューションの迅速な提供を目指します。
- ・自己進化型サービスライフサイクルマネジメント
- ICTリソースすべてを柔軟に制御し, 未来予測を行い調和させるための自己進化と最適化を併せ持つ自己進化型サービスライフサイクルマネジメントを目指します。
- 例として, 収集した情報を基にシステムが自ら考え最適化していくことで, 災害発生前に対策立案し実行します。
- ・Cradio®(クレイディオ)
- ユーザの利用シーンにおいて様々な無線方式の種類や使い方, ネットワークサービスを意識させない無線アクセスを最適化する技術の総称です。
- ※様々な無線方式:4G/LTE, 衛星通信, Wi-fi, WiMAX, LPWA, 5G, Local 5Gなど
- 無線通信品質の動的な変化をAIで事前予測し, 方式や事業者を意識せず最適な無線環境を自動選択・設定することで, 多種・多様なサービスの提供を目指しています。
- ユーザの利用シーンにおいて様々な無線方式の種類や使い方, ネットワークサービスを意識させない無線アクセスを最適化する技術の総称です。
- ・異なるレイヤのリソースを最適統合するマルチオーケストレータ
- 多様なターゲットを仮想化されたICTリソース群として扱い, マルチオーケストレーション機能をハブとしてレイヤの異なる複数のリソースを最適統合します。
- マルチオーケストレータは以下の3つの機能群で構成され, それぞれの機能群はAPIを通じて疎結合な形とします。
- ・オーケストレーション機能群
- ワークフローエンジンとICTリソースごとに適したコマンドに変換するアダプタ群
- ・マネジメント機能群
- 標準データモデルに基づく構成情報, 設計情報などの管理機能群
- ・インテリジェント機能群
- 設計・構築・試験から運用などのICTリソースを常に最適に保ち自律運用を可能とするAI機能群
NTTのIOWN構想の詳細については以下のNTTのページが参考になります。
・IOWN
- ・APNの進捗状況
- ・光電融合デバイスの進捗
- ・デジタルツインコンピューティングの進捗
- ・IOWNのCO₂排出量削減への取り組み~研究成果展示より~
- IOWNサービスは既に開始され, 当初掲げていた目標も一部がすでに達成されております。
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また, 各論の技術としてもカーボンニュートラルを意識した研究展示があります。
-
ソフトウェア開発にもカーボンニュートラルの波が来ていることがこの研究からわかります。
IOWN構想の未来
- ・大容量・低遅延の光マルチキャストパスをオンデマンドで任意の対地間で提供
- さまざまな「ICT・ネットワークのインフラ基盤」として以下のような用途での利用を想定しています。
- ・映像配信事業者とユーザに4K/8K等の「高臨場映像配信サービス」を提供
- ・ユーザ近傍に配置されたMEC(Multi-access Edge Computing)から無線アクセスを経由した端末まで閉域パスを提供
- ・自動運転車や工場内制御システム等の「ミッションクリティカルな遠隔監視/制御サービス」を支えるインフラ
- ・大規模データセンタ間の光伝送サービスや5G/6Gの基地局・無線制御システムとモバイルコア間をつなぐ伝送サービスを提供
- さまざまな「ICT・ネットワークのインフラ基盤」として以下のような用途での利用を想定しています。
- (出典:NTT技術ジャーナル)
- ・機能別専用ネットワーク(FDN:Function Dedicated Network)
- APNの同一ネットワークで様々なネットワーク要件を共存させるためFDNアーキテクチャを採用しています。
- 下図①~③の3種の転送サービスを提供し, そのうち①,②はAPNで新たに提供されるものです。
- ①デジタル信号転送:デジタル信号を光パスに直接マッピングする
- ②アナログ信号転送:アナログ信号を光パスに直接マッピングする
- ③パケットフレーム転送:データをパケット等にフレーム化してフレームデータを光パスに転送する
- (出典:NTT技術ジャーナル)
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- FDNを実現するアーキテクチャは下図の通りです。
- マルチオーケストレータの指示に従い, FDNコントローラがAPN/無線基盤/DCI(Data Center Infrastructure)/ネットワーク機能のドメイン間を連携させる設定制御とそれぞれのリソース割当てを行います。
- (出典:NTT技術ジャーナル)
- ・オンデマンド光多地点接続技術
- 従来集合で実施してきたイベントは現在ではリモートでの実施も増えてきおり, よりリアリティや高精細なビジュアルが期待されてきています。
- 従来専用線で提供してきたサービスは光パスが張りっぱなしになりコストが高く, サービス開始に時間がかかる問題がありました。
- FDNではコントローラとして自動設定制御ソフトウェアを導入しユーザとAPNを仲介することで, オンデマンドで必要な品質の光通信パスを提供し低遅延で広帯域な光パスを安価に提供することを目指しています。
- また, 後述の次世代無線制御技術と結合し連携することにより, 無線ユーザへの「高臨場」なサービス提供にも貢献します。
- (出典:NTT技術ジャーナル)
- ・エクストリームNaaS(Network as a Service)
- FDNの対象領域を無線アクセスに拡張させるため, エクストリーム(超低遅延・超高信頼・超大容量)な要件を満たす品質をE2Eで維持し続けるネットワークサービスをエクストリームNaaSと呼び研究開発に取り組んでいます。
- ユーザがアクセス手段を意識せず利用したいサービスを利用できること, センサ情報等あらゆる情報を制御信号として活用し予測と新たな付加価値の創出をすること, エクストリームなサービスエリア(宇宙や海中)へ拡大し無線空間の持つポテンシャルを最大化させることを目指しています。
- エクストリームNaaSの実現に重要な技術はCradio®(前述)と、アナログRoF(Radio over Fiber)を用いて無線アナログ信号をデジタル変換せずファイバに乗せて伝送し, アンテナ部の小型化・低コスト化と効率的なエリア展開を可能とするビームフォーミング技術です。
- (出典:NTT技術ジャーナル)
- ・協調型インフラ基盤サービス
- APNを活用して農業ICTなどMasS等のサービスを実現するため, 端末/クラウド/ネットワークを連携させてE2Eでサービスを実現する必要があります。
- この連携を実現するためFDNの要素である協調型インフラ基盤サービスの研究開発に取り組んでいます。
- 下図は農業ICT分野で農作業の自動化を行い, 遠隔監視・制御を実施する場合の協調型インフラ基盤の協調動作例です。
- ロボット農機が移動しローカル5Gからキャリア5Gにモバイル網が切り替る際に, 協調型インフラ基盤がプロアクティブにトラクタの移動位置とその場の通信品質を予測して, 通信品質が劣化する前に最適なモバイル通信網に切り替えるシナリオを示しています。
- (出典:NTT技術ジャーナル)
- ・4Dデジタル基盤®
- 「緯度・経度・高度・時刻」の4次元の情報を統合し多様な産業基盤とのデータ統合や未来予測をする基盤です。
- 各産業分野のパートナーと共にセンサ情報の高精度化と空間情報との統合の上, 現状分析や未来予測を通してよりよい未来に向けた行動変容に貢献することを志向しています。
- 以下の様な領域での新たな価値提供を目指しています。
- 道路交通の整流化 エネルギー・物流・緊急車両等都市アセットの活用
- 社会インフラの協調保全 環境・防災に向けた地球理解
- ・ウェルビーイング
- ウェルビーイングの1つにバイオデジタルツイン(BDT)があり, 生体関連情報のモデル化によって未知なる生体機能の推定をする技術です。
- BDTによって予防/治療/ケアの複数選択肢を導き, その効果のシミュレーションを通じて健康で将来に希望が持ち続けられる医療の未来への貢献を目指しています。
- (出典:NTT技術ジャーナル)
- ・トラフィック分類・予測技術
- 端末やサービスの多様化に伴い複雑化した通信トラフィックを予測するため, トラフィックをクラスタ分類しクラスタごとの特徴を捉えることで複雑な変動を高精度に予測する技術です。
- 特徴が類似したトラフィックをクラスタ化することでリンクごとの輻輳の有無の正確な予想を可能とします。
- ・SLA(Service Level Agreement)判断技術
- SLA判断技術では対処に必要な判断を自動化するため, 現状のサービス品質/トラフィック情報/満たすべきサービス品質を基準に評価を実施します。
- 以下の様な貢献を目指しています。
- ・評価結果を基にボトルネック区間を通過するサービス/ユーザのSLA違反に基づく対処要否の自動判断
- ・現地作業員の手配時間帯による派遣コスト増減と対処時間長延化によるSLA違反の損失増を比較した最適な派遣タイミングの判断自動化
- ・障害箇所推定技術
- 大規模ネットワーク障害で発生する多種多様なアラームから障害箇所を切り分けるため, 過去の障害アラームの障害箇所・原因の関連性から事前学習したルールを用いて障害箇所を推定し, トポロジマップ上に可視化する技術です。
- ルール条件が自動生成されるため, 保守者のスキル/ノウハウに頼っていた障害切り分けルールの形式化に貢献します。
- ・上記3つの技術(トラフィック分類・予測技術/SLA判断技術/障害箇所推定技術)を用いたユースケース
- ・プロアクティブ対処
- 下図は重要なビデオ会議と大規模ソフトウェア更新の時間帯が重複し対処しない場合は輻輳による品質劣化でビデオ会議が途切れてしまうような例です。
- ①「トラフィック分類・予測技術」でサービスごとのトラフィック変動を予測
- ②「SLA判断技術」でサービス品質を予測しビデオ会議のSLA違反から保守対処要のアラームを発出
- ③「障害箇所推定技術」でアラームの障害箇所・原因を推定し原因が故障による輻輳でないことを推定し, ソフトウェア更新サービスの通信経路を変更することでビデオ会議サービス品質低下の事前回避を人手を介さず実現する
- 下図は重要なビデオ会議と大規模ソフトウェア更新の時間帯が重複し対処しない場合は輻輳による品質劣化でビデオ会議が途切れてしまうような例です。
- ・プロアクティブ対処
- (出典:NTT技術ジャーナル)
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- ・複雑故障対処
- 下図は複数障害が同時発生しネットワークの様々なレイヤから大量のアラームが発生し人での分析に大きな稼働を要する例です。
- ①「障害箇所推定技術」が過去事例から発生したアラーム軍に対し瞬時に障害箇所・原因を推定し可視化
- 障害箇所を避けるよう通信経路を変更しサービスを回復させる
- 装置故障の場合は現地に作業員を派遣し復旧させる必要がある
- ②「SLA判断技術」が作業コストとSLA違反から最適な現地作業時間を判断する
- 従来大きな稼働がかかっていた複数障害対処を自動化して稼働削減と質の向上を実現する
- 下図は複数障害が同時発生しネットワークの様々なレイヤから大量のアラームが発生し人での分析に大きな稼働を要する例です。
- ・複雑故障対処
- (出典:NTT技術ジャーナル)
NTTのIOWN構想の未来については以下のNTT技術ジャーナルのページが参考になります。
要素 | IOWNで実現できる未来イメージ予想 |
オールフォトニクス・ネットワーク
(APN: All-Photonics Network)
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・コンピューティングまで光化が進み, ソフトウェア開発/提供/利用の全てにおいて電力消費が極限まで抑えられる ・データセンタ間や無線の終端までの通信が高速化されることで, ソフトウェア利用者はアプリケーションの配置場所やデータ転送量を意識せず快適な利用が行える また, 提供者もクラウド環境におけるリージョンを意識せず構築や冗長化が行なえ可用性が向上する ・クラウド環境利用/VPN通信の遅延が極限まで抑えられることで, ベアメタルサーバや常設PCの会社への設置が減少する オフィスの在り方や働き方の自由度が今以上に高まるかもしれない |
デジタルツインコンピューティング
(DTC: Digital Twin Computing)
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・ソフトウェア開発におけるシミュレートの精度が向上し障害発生を未然に防ぎやすくなる ・需要予測を事前に立てることで資源の配置が最適化され破棄されるリソースが減少し, 人的リソース不足の解消や物的な資源のムダが減る |
コグニティブ・ファウンデーション
(CF: Cognitive Foundation®)
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・APN/DTCのリソース最適化を人手を介さず実現できるようになり, サービス提供/障害復旧速度の向上やヒューマンエラーの低減がなされる ・サービスや筐体に依存しない制御基盤が構築されることで制御の規格の統一が加速し, ハードウェア開発のオープン化やソフトウェア開発の速度向上が進む |
NTTテクノクロスのIOWNへの取組み方針紹介
最後にNTTグループの一社であるNTTテクノクロスの環境目標と取り組みを簡単にご紹介いたします。
※参考
NTTテクノクロスのIOWNへの取組方針については以下のページが参考になります。
・事業内容
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[著者プロフィール]
フューチャーネットワーク事業部 第一ビジネスユニット
村木 遼亮(MURAKI RYOUSUKE)