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ソフトウェアエンジニアのための「無線」入門(2)周波数と伝わりやすさ、そして通信速度

実は中学や高校の理科や物理の授業で学んだはずの電波の基礎知識を新たな視点で簡単におさらいすることで、今の、そしてこれからの世の中がどうなるのか、あるいは自分を取りまく生活や仕事の環境がどうなるのかというところを少しだけ今と違う視点で考える、そんなきっかけをご提供します。


はじめに

NTTテクノクロスの岩永です。

一般的なソフトウェアエンジニアにとって、「無線」あるいは「無線通信サービス」は「つながる環境にいる限り空気のようなもの」という存在ではないかと思います。しかしながら周りを見渡すと、スマホ、Wi-Fi、テレビやラジオの放送、スポーツの中継でグランドを動きまわっているテレビカメラ、Bluetoothイヤホン、電気などのスマートメーター、船舶電話や航空機の空路管制などは全て電波を媒介にした「無線」で繋がっています。

そんな電波の世界、今回は「周波数と伝わりやすさ、そして通信速度」についてお話したいと思います。

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周波数と伝わりやすさ、そして通信速度の関係のあいまいな理解

電波は周波数によって伝わりやすさが変化します。基本的な性質自体は物理法則が支配する世界なので、誰にも変えることはできません。その一方で、その特性から用途によって使いやすい周波数帯や使いにくい周波数帯があります。

高い周波数は遠くに届きにくい

ここで例としてWi-Fiを考えたとき、そこでは大きく分けて [2.4GHz(ギガヘルツ)帯] と [5GHzおよび6GHz帯] という二つの帯域が使われます。

[5Ghz帯や6Ghz帯] は [2.4Ghz帯] の倍以上の高さの周波数を使うため、「高い周波数の電波は低い周波数の電波よりも空気中の塵や水蒸気等で拡散しやすく遠くに届きにくい」、あるいは「高い周波数の電波は低い周波数の電波より遮蔽物を通り抜けにくく、回り込みも少ない」という物理特性の制約を明確に受けます。ただし [5GHz帯や6GHz帯] でWi-Fiが使える周波数の幅は [2.4GHz帯] より広いため、利用できるチャンネルの幅や数も大きく、同時に複数の端末を接続する、あるいは複数のチャンネルを束ねて高速通信を行うといったことが比較的容易になっています。

なお、電波の進む速度は周波数にかかわらず一定であり、通信に使うときに出せる速度は原理的には周波数の高低ではなく利用できる帯域幅に依存するということをいったん頭に置いておいてください。

周波数ごとの特性だけでなく利用方法や状況によりユーザーが使える通信速度は変わる

Wi-Fiの場合には規格毎に伝送方式や圧縮方式が異なり、それぞれに設計理論値としての伝送速度がありますが、まずルータ機器という観点から見ると、例えばこのような要素が影響します。

  • ルータと端末の間で共通に使える規格は何なのか
  • ハードウェアとしての処理能力はどうなのか
  • 接続してくる端末の数や種類はどうなのか
  • アンテナ設計はどうなのか
  • チャネルを束ねる機能がどこまで効くのか
  • MIMOはどう利用できるのか

場所の観点から見ると、常に大勢の人が歩き回っているのか比較的座っている人が多いのかは非常に大きく影響しますし、機器自体がコンシューマ用機器なのか業務用あるいは法人用とされる機器なのかでも設計要件が異なるため、どの場所にはどの接続規格や機器を選ぶべきなのかという問いに単純に答えづらいケースがあります。

周囲の他の無線機器という観点から見ると、2.4Ghz帯ではBluetoothや独自無線のマウスやイヤホン、DECTや屋内PHSなどの固定電話の子機や電子レンジなどが同じ周波数帯でひしめき合っていてお互いにとってのノイズをまき散らすことになります。5GHz帯でも屋外の気象レーダや衛星との通信に使われる帯域と干渉する部分があるため一部の帯域は屋内専用とされているなどの制限があり、日本での認証を受けた機器は干渉回避のための機能が組み込まれています。
逆に言うと、その機能が無い国内認証未取得のWi-Fiルータ等の機器は「妨害電波を出す機器」であり、それを使っている人は電波法に反したとして摘発の対象となります。絶対に使ってはいけません。

5.2GHz帯の屋外利用/上空利用の条件

(出典:総務省 電波利用ポータル 無線LANの屋外利用/上空利用について

また電波環境とアクセスポイントの設置方法を電波特性から見ると、Wi-Fiのアクセスポイントから比較的近くで遮蔽物が少なく見通しの効くところに端末があるならば高い周波数を使う方が速度的には有利ですし、アクセスポイントが比較的広い範囲をカバーしなくてはいけない状況であれば低い周波数を使わないと不都合が出る場合もあるという考え方になります。

そしてこの両方の条件を満たすためにオフィスなどで天井にWi-Fiのアクセスポイントを取り付けることがあるのですが、これについては機会があれば改めてご紹介したいと思います。

FMラジオがAMラジオより狭い範囲しか届かない理由

次に、周波数の高低が電波の到達距離に影響する例をAMとFMのラジオ放送で見てみたいと思います。

日本でのAMラジオ放送は526.5KHz(キロヘルツ)から1606.5KHzを使っていますが、これは76.0MHz(メガヘルツ)から99.0MHzを使うFMラジオ放送に比べて遠くまで届きやすい性質を持っています。つまり広域の放送の目的のためにはAM放送で使っている周波数の方が一つの送信所からカバーできる面積が広いという特性が生きるのですが、歴史的経緯から狭い帯域幅しか使えず、より良い音質で聞けるFM放送のために必要な帯域幅を確保できないという問題があります。

MITI_FMとAM.jpg

(出典:総務省|放送政策の推進|AM局の運用休止に係る特例措置 より抜粋)

AM放送を取り巻く状況から見える、低い周波数を使うのは実は本当に大変だという話

このAM放送が遠くまで放送を届けることができるという特長は災害時などに大きな意味を持つことは既に知られているのですが、実はこのAM放送のためには周波数帯域の電波の持つ特性や特徴から非常に大規模な送信設備が必要で、その維持のための負担が放送事業者の経営を圧迫するほど大きいものです。またインターネットの普及なども影響してこのままではAM放送事業自体が維持できないという問題が令和5年1月の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(第15回)」にて「FM転換に関する取組について」として提議され、総務省としてもパブコメなど必要な手続きを経たうえで 令和6年12月13日の「「AM局の運用休止に係る特例措置に関する基本方針」の改定案に対する意見募集の結果及び同基本方針の改定」の発表により各放送事業者の経営判断により民間AMラジオ放送事業者が運営負担の大きいAM局を休止して負担の小さいFM局に事実上転換することを容認しており、すでにいくつかの放送局がFM放送に転換してAM放送を休止しています。

低い周波数の電波であればあるほど、それを利用するためには実は非常に大規模な設備が必要になるというのはあまり知られていないのですが、AM放送でいうと地上100mを超える高さの鉄塔が必要だし鉄塔周囲の地面の環境に条件が必要だし、強大なアンテナ出力が必要なので送信機器設備も非常に大がかりな上に周辺環境にもそれなりに影響があるので設置場所の選定要件が非常に厳しいなど、実は結構大変な世界です。

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周波数と伝わりやすさ・伝わりにくさの関係

周波数による伝わりやすさについて例を上げてご紹介しましたが、改めてまとめるとこちらのようになります。

  • 低い周波数の電波は高い周波数の電波よりも遠くに届きやすい
  • 高い周波数の電波は低い周波数の電波に比べて遠くに届きにくい

ちなみに高い周波数の電波も大きな出力で送信すれば遠くに届くのではないかという話があります。これはある意味で正しいのですが、ある意味では正しいとは言い辛くもあります。例えば、前述のとおり周波数が高くなればなるほど空気中の塵や水蒸気の影響を受けやすくなり、その特性はアンテナから出る電波が「大出力」であろうが「小出力」であろうが変わらないというのは、そのなかの大きな理由の一つです。

何故高速通信は広い帯域を必要とするのか

よく道路の幅に例えられる話なのですが、電波の速さは光の速さと一緒なので、車に例えると「走行速度は一定」の状態です。天変地異などで地球上の物理法則が変わらない限り、それが変わることはありません。
そしてそれを通信で使うためには電波の振幅を利用します。これが道幅です。

音声やデータなどで必要とする振幅はそれぞれですが、特定の中心周波数からの振幅を必要とするとき、その量を増やすためには幅を大きくする必要があります。たとえば526.5KHzから1606.5KHzを使う日本のAM放送では100Hzから7,500Hzの音声を送る各放送波のために最高周波数の2倍の15KHz単位でチャンネルが割り当てられていますが、電波はデジタル信号のようにスパッと切ることはできずどうしても隣のチャンネルと干渉して打消しあってしまうので、自分の通信(あるいは放送)のために使える幅はもっと狭くなります。

それに対して76MHz付近から90MHzを使って50Hzから15,000Hz = 15KHzの音を送るFM放送は送る音の最高周波数(15KHz)の10倍を超えるチャンネル当たり200KHzの幅が割り当てられています。実際FM放送の音質の為にはこの帯域幅が必要で、そのためにAM放送よりも広く割り当ててあります。

MITI_AM放送とFM放送.png

(出典:総務省 AM放送とFM放送より抜粋)

ではAM放送で使う周波数帯域で200KHzの幅を使えればFM放送並みの音質で放送できるかというとそもそもAMとFMという方式の違いがあるので実際には無理なのですが、仮にAM放送で使う周波数帯域で変調方式としてのFMで放送をすると考えた場合には原理的には間違いとは言い切れません。でも狭い帯域を少数のチャンネルだけで踏みつぶしてしまいますので、現実的ではありません。

なお、これがもっと上のGHz(ギガヘルツ)あるいはTHz(テラヘルツ)といった帯域だと割り当て単位も非常に広くとれるので、結果的に高速通信を実現しやすくなります。もちろん単純な音声放送ではなくデータ通信の場合には帯域をさらに細かく分割したり重畳あるいは時分割で多重化しつつ雑音と信号を精密に選り分けるといった高度な伝送技術を使えるので、単純な帯域幅でのメリットをさらに補強する高速通信が可能になります。逆に言うと、そういう技術を使うためにも高速通信は広い帯域を必要とするということです。

つまり、一定の速度で走る車の量を増やすためには道幅を広げるしかないという話です。

何故高い周波数で広い帯域を使えるのか

既に半分くらい前項で触れましたが、高い周波数の場合には割り当て単位が低い周波数に比べて広いという特性があります。伝送方式とかの条件を全部忘れてものすごく乱暴に説明すると、ある量の情報を送るために必要な伝送帯域幅が一定としてそのためのチャンネルがMHz単位の帯域で100チャンネルとれるとしたとき、GHz単位の帯域だと1000倍の10万チャンネル取れるというイメージです。

あるいは、伝送に10MHz必要とする通信をMHz単位の帯域では物理的に100チャンネルしか割り振りできないけれど、GHz単位の帯域だとそもそも面積が1000倍なので10万チャンネル取れるというイメージです。あくまでもイメージですが。

ただし利用できる実際に割り当てられる周波数がどの帯域のどの程度の帯域幅なのかは前回以前に触れたとおり日本であれば総務省が決定した帯域から一定の割り当てを利用する形になることに加え、扱う周波数が高ければ高いほど無線機器自体が通信を維持するために高度な技術が必要になります。

更に無線の前後でのデータの圧縮伸長、エラー訂正処理、更には気象条件や地形や建物などを含めた様々な条件を考慮する必要があるのでこのような乱暴なイメージと実際の運用は少々異なるのですが、あくまでもイメージとしてそういう方向で考えていただいて良いと思います。

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おわりに

今回は「周波数と伝わりやすさ、そして通信速度」と題してお話させていただきましたが、次回「実は物理法則がすべてを支配するのが電波の世界」という話題についてお話させていただきたいと思っています。

近いうちにまたお会いしましょう。

それでは。

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ソフトウェアエンジニアのための「無線」入門シリーズ紹介

ソフトウェアエンジニアのための「無線」入門は以下のようなシリーズ構成を予定しています。
掲載回
タイトル
概要
第一回
そもそも電波って何なのか
そもそも電波とは何を言うのか、電波が伝わるとはどういうことなのか等から「電波」について紐解いてゆきます。
第二回
周波数と伝わりやすさ、そして通信速度
「周波数が高いと速度が出せる」と「周波数が低いと遠くまで飛ぶ」という関係を通信だけでなく
放送の例を使ってご紹介します。
第三回
物理法則がすべてを支配するのが電波の世界
電波の挙動は全て物理法則に則っていて、誰もそれを変えることはできないという話を簡単な例でご紹介します。
第四回
電波での通信は信号とノイズの闘い
電波は光やケーブルとは桁違いにノイズの影響を受けるというお話をご紹介します。
第五回
アナログの頃のテレビ放送には時報があった
電波の速度は変わらないのにデジタル放送になって時報が消えた謎から、電波から見ると
どうしようもない遅延の話と光通信の意味のほんの入り口までをご紹介します。
第六回
スマホで使える周波数のお話
周波数の割り当ての話を「スマホで使える周波数」という切り口で分かりやすくご紹介します。


なお、内容については変更する場合があります。あらかじめご了承いただけますようお願いいたします。

連載シリーズ
テクノロジーコラム
著者プロフィール
岩永 慎一
岩永 慎一

[著者プロフィール]
フューチャーネットワーク事業部 第二ビジネスユニット
岩永 慎一(Shin'ichi IWANAGA)