ソフトウェアエンジニアのための「無線」入門(3)物理法則がすべてを支配するのが電波の世界
実は中学や高校の理科や物理の授業で学んだはずの電波の基礎知識を新たな視点で簡単におさらいすることで、今の、そしてこれからの世の中がどうなるのか、あるいは自分を取りまく生活や仕事の環境がどうなるのかというところを少しだけ今と違う視点で考える、そんなきっかけをご提供します。
テクノロジーコラム
- 2026年07月09日公開
はじめに
NTTテクノクロスの岩永です。
普段の生活や仕事の場での「電波」存在なんて、手元のスマホが受ける電波の強さやノートPCのWiFiの電波の強さを示すピクトグラムが何本立っているのか以上のことを気にする必要はないとは思います。もちろんアマチュア無線や何らかの業務用無線を扱える免許をお持ちの場合には少し気持ちや事情が異なるかとは思いますが、今あらためて中学や高校の理科や物理の授業で学んだはずの電波の基礎知識をおさらいすることは、今の、そしてこれからの世の中がどうなるのか、自分を取りまく生活や仕事の環境がどうなるのかを今と違う視点で考えるきっかけになるかもしれません。
そんな電波の世界、今回は「物理法則がすべてを支配するのが電波の世界」という話題に触れたいと思います。
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電波の通り抜けを改めて考えてみる
前回まででも触れてきましたが、電波の世界は物理法則がすべてを支配し、基本的な電波の挙動や周波数帯域ごとの振る舞いの特徴は通信方式などに左右されることはありません。それらの特徴のうち周波数の高低に着目して簡単に比較すると以下のようになります。
- 低い周波数の電波ほど遠くまで届き、高い周波数の電波ほど遠くまで届きにくくなる。
- 低い周波数の電波は障害物を回り込みやすく、高い周波数の電波ほど直進性が高い。
電波が通り抜けやすい素材と、電波を通しにくい素材、そして落とし穴
コンクリートの壁や金属の扉などは電波が通り抜けにくいものということは多くの方が経験的にご存じだとは思います。かたや木材やガラス等は一般的に電波を通すものとされています。もちろんそれは基本的に正しくて、実際コンクリートのマンションと木造の家屋では電波の通りが全然違います。
でも実はまるで落とし穴のように、一見普通に電波を通すように見えても電波が通りにくいものがあります。
一例を上げると、一般的にはクリスタルガラスと呼ばれるガラス材料のケイ素に酸化鉛を添加した「鉛ガラス」はどう見ても「ガラス」そのものですが、実は放射線までを含む電磁波を通しにくい若しくは通さない素材です。健康診断でバリウム検査の際にはX線を使いますが、その検査室の技師の方と検査を受ける人の間には部屋を仕切るガラス窓があり、ここで使われているのがまさにその「鉛ガラス」です。

(出典: 総務省 たのしい電波教室 電波ってなに)
そのほか、たとえば水の中では振動を使って伝わる音波は通りますが、電界と磁界の関係で伝わる電波は伝わりにくいという性質を持っています。クジラの仲間が遠く離れていてもお互いの声を聴き分けて会話しているといった話がありますが、これは音波だからこその話で、電波をつかった水中の長距離通信というのは原理的にも物理的にも非常に難しい話です。
ちなみに水中を探査するソナーや魚群探知機は音波が使われていますが、時々「水中も電波で見るんでしょ?」と間違って理解されてしまうことがあります。でもソナー(あるいはソーナー:Soner)とは第二次大戦中に当時すでに実用化されていたレーダー(Radar:RAdio Detecting And Ranging) になぞらえてSOund Navigation And Rangingという機能説明とともに生まれた機器の名称なので、当然音波が使われています。また魚群探知機は超音波のパルスを使うのですが、機器としては第二次大戦直後に世界で初めて長崎で実用化されたシステムで、今や世界中に普及している日本発の技術です。
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(出典: Sonar Principle EN - File:Sonar Principle EN.svg - Wikimedia Commons)
By Georg Wiora (Dr. Schorsch) - Self drawn with Inkscape, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=353362
低い周波数だからこそ実用化できたGPS以前の時代の測位システム
さて、それでは話を電波に戻します。電波の話をすると大抵非常に高い周波数をつかった高速通信の話ばかり取り上げられることが多いのですが、ここではその真逆の長波のお話に少し触れたいと思います。
周波数帯域としてメガヘルツの下のキロヘルツの更に下、いわば「無印」の数十あるいは数百ヘルツといった非常に低い周波数である長波帯域の電波は空気中で減衰しにくく、地球の表面と成層圏の上の電離層で反射しながら地球上の広い面を伝わる特性を持っています。高速通信のための広い帯域を確保するのは原理的に不可能なのですが、電波特性としてとにかく超長距離を減衰せずに伝わることは昔から知られていました。

(出典:Subionospheric VLF Propagation / Department of Physics, University of Otago)
(筆者注:電離層下におけるVLF伝搬の概略図。VLF電波は、地球と電離層下端(夜間は約85 km)によって形成される導波管内を伝搬します。)
事実、1940年代半ばから2000年頃にかけての時期に地球上に複数の送信局を設置して電波を送信し、地球上のあらゆるところで受信した各拠点の電波の位相差(到達時刻の差と理解していただいて良いです)を利用して位置を特定するロラン(LORAN: LOw frequency terrestrial RAdio Navigation)やオメガ(OMEGA)あるいはデッカ(Decca)といった全地球測位システムに使われていた時代がありました。
ただし誤差が数キロに及ぶなど殆ど海上でしか実用にならず、それらも今やGPSなど高精度の測位系に置き換えられてサービスを停止していますが、これらは一様に低い周波数の電波は減衰しにくく遠くまで届くという特徴を最大限に使った事例でした。なおGPSは太陽風などの影響や技術的あるいは安全保障上の観点から妨害を受けることを含め利用に支障が出ることがあるのですが、それらの影響を受けない長波の特徴を生かした全地球測位システムとして過去のロランを発展させたeLORAN ("enhanced" LOng Range Aid to Navigation) というシステムの規格が策定されるなど、電波帯域として今後も有効に利用できないか検討が進んでいるようです。

(出典: スタンフォード大学 Early GPS/PNT Research eLORAN)
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電波は光の速さで伝わる
音波は空気の振動で伝わり、気温15℃の空気中で秒速340mで伝わるとするのが一般的です。それに対して電波は磁場と電界の変化を介して伝わり、媒体や状況により多少の変化はありますが伝搬速度は秒速約30万kmで、光と同じ速度です。しかも磁場と電界の変化は空気を必要としませんから、宇宙空間でもそのまま伝わります。
ただし空気中で塵や水分、そしてもちろん地形や建物などの影響を受けて拡散して減衰したり反射したりしますし、その影響は前述の通り、高い周波数の電波ほど強く受けます。それに対して宇宙空間では塵や天体などの密度が非常に低いため、遠くからの電波が大気圏の中とは比較にならないほど減衰せずに地球まで届くからこそ、人工衛星と通信ができるし電波天文学も成立するわけです。ただし地上で受信しようとすると当然大気の影響は受けますし、そもそも非常に微弱な電波の中から目的の電波をより分けて分析するために大規模なパラボラアンテナ等の受信設備に加えて高度な分析システムも必要になります。

(出典:国立天文台)
国立天文台 https://www.nao.ac.jp/
国立天文台 周波数資源保護室 / 電波天文学とは https://prc.nao.ac.jp/freqras/radio_astronomy.html#radioastro
電波は空間の影響を受けながら伝わっていくもの
このように電波は周波数によって伝わりやすさの特徴が異なりますが、更に電波が伝わる空間上にある様々な環境や状況から直接影響を受けます。
ここが、無線通信が有線通信とは根本的に違うところですね。
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おわりに
今回は「物理法則がすべてを支配するのが電波の世界」と題してお話させていただきましたが、次回「電波での通信は信号とノイズの闘い」という話題についてお話させていただきたいと思っています。
近いうちにまたお会いしましょう。
それでは。
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ソフトウェアエンジニアのための「無線」入門シリーズ紹介
ソフトウェアエンジニアのための「無線」入門は以下のようなシリーズ構成を予定しています。
掲載回 |
タイトル |
概要 |
第一回 |
そもそも電波って何なのか |
そもそも電波とは何を言うのか、電波が伝わるとはどういうことなのか等から「電波」について紐解いてゆきます。 |
第二回 |
周波数と伝わりやすさ、そして通信速度 |
「周波数が高いと速度が出せる」と「周波数が低いと遠くまで飛ぶ」という関係を通信だけでなく |
第三回 |
物理法則がすべてを支配するのが電波の世界 |
電波の挙動は全て物理法則に則っていて、誰もそれを変えることはできないという話を簡単な例でご紹介します。 |
第四回 |
電波での通信は信号とノイズの闘い |
電波は光やケーブルとは桁違いにノイズの影響を受けるというお話をご紹介します。 |
第五回 |
アナログの頃のテレビ放送には時報があった |
電波の速度は変わらないのにデジタル放送になって時報が消えた謎から、電波から見ると |
第六回 |
スマホで使える周波数のお話 |
周波数の割り当ての話を「スマホで使える周波数」という切り口で分かりやすくご紹介します。 |
なお、内容については変更する場合があります。あらかじめご了承いただけますようお願いいたします。

[著者プロフィール]
フューチャーネットワーク事業部 第二ビジネスユニット
岩永 慎一(Shin'ichi IWANAGA)

