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AI導入で成果を出す企業は何が違う? 業務を変えるための5つの視点とは

なぜ同じようにAIへ投資しても、成果を出す企業と出せない企業があるのでしょうか。AI時代の業務変革を成功へ導く5つの視点をひも解きます。

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はじめに

生成AIやAIエージェントの実用化により、企業におけるAI活用は新たな段階に入りつつあります。文書作成や情報検索といった個人業務の効率化だけでなく、顧客対応や意思決定支援など、企業活動そのものを変える可能性が現実味を帯びてきました。

一方で、同じようにAIへ投資していても、成果を上げる企業とそうでない企業の差は広がりつつあります。その違いを生み出しているのは、AIツールの性能やモデルの優劣ではありません。成果を上げている企業は、「AIで何ができるか」ではなく、「どの業務課題をどう変えるか」という視点から活用を設計しています。

本連載では、AI活用を個別のツール導入としてではなく、企業変革の取り組みとして捉え、業務や顧客接点などといった観点から、その可能性と実践のポイントを考察します。

第1回となる今回は、AI活用の現在地を整理した上で、成果を生み出す企業に共通する考え方や導入アプローチを解説します。

AIで変わる代表的な業務領域と本質的な「効果」

具体的な話をする前に、まずはAIで変わる代表的な業務領域と、それらにおける本質的な効果について見ていきましょう。

① 情報検索・社内ナレッジ活用 日々発生する「社内での調べ物」は、時間を大きく消費する要因の一つ。AIを活用することで、自然言語での曖昧な問いかけに対して関連度の高い社内文書を瞬時に見つけ出し、要約した形で回答を提示することが可能になります。
② 文書作成・要約 議事録の作成、報告書やメールのドラフト作成、あるいは膨大な規制ガイドラインや論文の要約などは、AIが最も得意とする領域です。ゼロから文章を執筆する手間を省き、AIが作成した下書き(たたき台)を人間が推敲するスタイルへと移行することで、文書作成のリードタイムは大幅に短縮されます。
③ 問い合わせ対応 社内外からの定型的な問い合わせに対して、過去の応対履歴やFAQデータを参照しながら、AIが高精度な回答を自動生成します。一次回答の迅速化と、担当者の負荷軽減を実現します。
④ QA・テスト・検証 システム開発におけるテスト工程や、業務ルールの適合性検証などのプロセスにおいて、AIが想定シナリオの網羅的な作成や整合性のチェックをサポートします。

⑤ 管理業務

進捗報告書や議事録の作成、各種KPIの集計、課題・リスク管理表の更新など、これまで人手で行っていた管理業務をAIが自動化し、担当者の負担軽減と業務効率化を支援します。

単なる工数削減を超えた「本当の効果」とは

これらの領域において、AIがもたらす本質的な価値は「作業時間の削減」にとどまりません。真の効果は「業務品質のばらつきの解消」と「作業の属人化・部門間のサイロ化の解消」にあります。

どのような組織においても、「特定のベテラン社員しか知らないノウハウ(暗黙知)」が存在し、それが業務のボトルネックになりがちです。AIの価値は、このような「個人の経験」や「過去の案件資料」に閉じていた「暗黙知」といった非構造化データから、必要な文脈を読み解いて瞬時に「使える知識」として再利用しやすくする点にあります。これによって、個人のスキルや経験に依存していた業務品質を底上げし、組織全体のパフォーマンスを均一化させることができます。

例えば、ある大手金融機関では、ベテランアドバイザーの提案ロジックや過去の膨大な相談記録をAIに学習させ、全アドバイザーが対話形式で引き出せる仕組みを構築しました。その結果、若手社員の提案準備時間が激減しただけでなく、顧客への提案品質そのものが全社レベルで均一化・向上するという成果を上げています。

AI導入の成否を分けるのは、「何時間削れたか」という引き算の視点だけではありません。AIによって「組織全体の能力をいかに底上げし、価値創造の総量を増やせるか」という足し算・掛け算の視点が不可欠です。

AI活用の属人化」という新たなリスクへの対策

ただし、注意点もあります。特に強く認識しておきたいのは、「AI活用の属人化(リテラシー格差)」という新たな課題です。現在、多くの企業ではAIの利用が個人の裁量に委ねられている結果、「AIを使いこなし、高い生産性を実現する社員」と、「使い方が分からずに全く恩恵を受けられない社員」との間で、深刻な生産性の格差が生じ始めています。

これを防ぐためには、AIの活用プロセスそのものを組織の仕組みとして組み込み、個人が試行錯誤して得た良質な知見やプロンプトを、「組織全体のナレッジベース」として蓄積していくスキームの確立が不可欠です。

このような業務ナレッジ活用の領域では、社内の非公開データをもとに安全かつ正確な回答を生成する「RAG(検索拡張生成)」の考え方が注目されています。重要なのは、AIそのものではなく、組織内に蓄積された知識や過去の経験を、必要な人が必要なタイミングで活用できる環境を整備することです。

実際、AI活用によって成果を上げている企業の多くは、単にツールを導入するのではなく、社内ナレッジの整備や共有の仕組みづくりに力を入れています。AIの活用範囲が広がるほど、組織内の知見をどのように蓄積し、更新し、再利用できる状態にするかが重要になるためです。NTTテクノクロスも、長年にわたるシステム開発や業務支援の経験を通じて、ナレッジ活用や業務定着の重要性と向き合ってきました。AI活用の成果を一過性のものに終わらせないためには、ツールの導入だけではなく、組織全体で知見を活用していくための運用設計や定着化まで含めて考える必要があります。

なぜAI活用はPoCで止まりやすいのか?

多くの企業がAI活用に取り組むようになったものの、実務への全社展開がスムーズに移行できている企業はごく一部にとどまっており、本番展開や横展開まで進む企業と、PoCの段階から先へ進めない企業の差が見え始めています。

この違いを生み出しているのは、AIモデルの性能差ではありません。AIを業務にどう組み込み、どのような運用体制で定着させるかという設計の違いです。本番展開に向けた壁として、企業が直面しやすい要因は、以下の5点に集約されます

① 業務課題ではなく「技術検証」から始めてしまう

「このAIモデルで何ができるか」という技術起点で検証を進めるため、実際の現場が抱える切実な課題と乖離してしまい、結果として使われないシステムになってしまいます。
② 現場のデータやナレッジが整っていない AIに読み込ませる社内文書や過去データが整理されておらず、ハルシネーション(もっともらしい嘘)や不正確な回答が頻発し、現場が実用に耐えないと判断してしまいます。

③ 既存システムや運用フローとつながらない

既存の業務システムや、日々使い慣れているコミュニケーションツールから独立した環境でAIを動かすため、二重入力の手間が発生するなど、現場の負担が増えて定着しません。
④ 成果指標(KPI)が曖昧 「なんとなく便利になった」という定性的な評価だけで検証を終わらせてしまい、どれほどの投資対効果(ROI)があったのかを定量的に示せず、本番展開の判断材料を経営層へ十分に示せなくなります。

⑤ 利用者教育の不足

ツールを現場に提供しただけで、プロンプトのコツや業務での具体的な活用シーンの共有を行わないため、一部の「自ら学ぶ先進的な社員」しか使いこなせない状態になってしまいます。

「精度が高いAI」より「業務で使われるAI」が重要

PoC段階ではAIの「回答精度」ばかりが議論されがちです。しかし本番運用で重要なのは、AIの精度そのものよりも、安全に利用できる仕組みと、継続的に精度を高めていく運用体制を整備することです。

実務でAIを定着・継続運用するためには、以下のような一連の運用プロセス(ガバナンスとライフサイクル)の設計が不可欠です。

① アクセス権限の適切な管理

機密情報を含む社内文書をAIに参照させる際、一般社員とマネジメント層でアクセスできる範囲を厳密に制限できているか。
② 利用ログの監査体制 誰が、どのような目的で、どのようなデータをAIに入力し、どのような回答を得たのかを可視化できているか。

③ ナレッジの継続的なデータ更新

改定される社内ルールや最新の業務データを、どのようなプロセスで更新し、AIが参照できる状態を維持するか。
④ 利用定着のための仕組み 使われなくなったAIツールを放置せず、利用頻度をモニタリングし、現場への浸透を促す体制があるか。


このような一連の本番運用プロセスを構築するには、業務を推進する「業務部門(現場)」、インフラやシステムを支える「IT部門」、そしてガバナンスを担保する「セキュリティ部門」が、組織の壁を越えて横断的な連携体制(全社的な推進体制)を築くことが求められます。

「何を効率化するか」ではなく「業務をどう組み替えるか」

AIの飛躍的な進化に加え、「AIエージェント」のように自律的にタスクを処理できる時代が近づくことで、「自分たちの仕事が奪われるのではないか」という不安も聞かれます。しかしAIの本質は「人を代替する存在」ではなく、「人がより付加価値の高い業務に集中できるようにする存在」です。AIを単なる「答えを出す主役」として位置づけるのではなく、「人が正しい判断を下すための精緻な判断材料を瞬時に整えてくれる優秀な伴走者」として、再定義する必要があります。

つまりAI活用で重要な視点は、「どの作業を効率化(省力化)するか」という局所的な視点ではなく、AI前提で「業務フローをどう組み替えるか」であり、それによって「人がどのような成果を上げるか」です。

それでは、これからのAI時代において、人間にしか担えない、そして人間が集中すべき役割とは、どのようなものでしょうか。それを示したのが以下の図です。

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① 問いを立てる(前提・ゴールの設計)
AIは与えられた問い(プロンプトやインプット情報)に対して最適な処理を行いますが、「何を解決すべきか」「何のためにこのタスクを行うのか」という目的意識を設定することはできません。ビジネスの前提を設計し、的確な問いを立てることは、人間にしかできない最重要の役割です。

②AIの出力を検証・評価する
AIの出力には常に不正確な情報や偏りが含まれるリスク(ハルシネーション)があります。その出力が妥当であるか、倫理的に問題がないか、自社の文脈に合致しているかを検証し、承認(評価)する役割は人間が負わなければなりません。

③ 業務判断(意思決定)を行う
AIが提示した複数の選択肢やシミュレーション結果をもとに、最終的な経営判断、あるいは実務上の意思決定を下すのは、その結果に責任を持つ人間です。

④ 改善サイクルを回す(AIを育てる)
AIの出力に対して、「この回答は正しかった」「この部分は修正が必要だ」というフィードバックを人間が適切に返し、AIを継続的に「教育」していく必要があります。

⑤ 例外対応・個別最適化された顧客対応を担う
マニュアルや過去データにない例外的なトラブルが発生した際、相手の感情や文脈を深く汲み取り、個別最適化された柔軟な対応を行うことは、人間ならではの高度なスキルです。

「ヒューマン・イン・ザ・ループ」という循環モデル

現場の担当者が「AIに仕事を奪われる」と不安を抱くのではなく、「自分の持つプロフェッショナルな知見をAIに学習させ、AIの出力をさらに自分が評価して磨き上げていく」という共生関係を組織の中に実装することが、AI活用を成功させる最大のカギとなります。

このように、業務プロセスの中に「人間の判断」を組み込み、人とAIが役割分担をしながら相互に高め合っていく設計思想を、「ヒューマン・イン・ザ・ループ(Human-in-the-Loop)」と呼びます。AIの自律性を高めつつも、主導権と最終責任は常に人間が握り、相互にエンパワーし合うサイクルを回し続けること。これこそが、AI時代における理想的な組織像であり、持続可能なナレッジ蓄積のあり方なのです。

おわりに~AI活用の第一歩は業務の棚卸しから

AI導入を検討する際、多くの企業が「どのAIツールを導入するか」というツール起点で考えてしまいがちです。しかし、本質的な成果をもたらす「業務の組み替え」を実現するためには、その第一歩として「徹底的な業務課題の棚卸し」からスタートしなければなりません。

まずは「AIをどこに使えるか」を探すのではなく、日常の業務フローにおいて、以下のような「痛み」や「ボトルネック」が生じている業務領域を洗い出すことが肝要です。

・情報の探索時間:情報やデータを探すことに、必要以上の時間を費やしている
・業務の属人化:作業が特定の人に依存しており、その人が休むと業務が滞る
・品質のばらつき:担当者の経験やスキルによって成果物の品質に大きなばらつきがある
・情報の散在:判断を下すための材料やナレッジが、社内のあちこちに散らばっている

こうした現場の痛みがある場所にこそ、人とAIの役割を再定義し、プロセスを組み替えることで大きな改善効果をもたらす「真の活用ポイント」が隠されています。まずは小さな業務領域から取り組んでもかまいません。現在のプロセスを可視化し、AIとの協働を前提とした「業務の組み替えの設計図」を描くこと。それこそが、AI時代における企業変革の確かな第一歩となるはずです。

次回の第2回では、AI活用による変革が最も期待されている「顧客接点・コンタクトセンター(CX・EX設計)」を取り上げ、AI活用の最新潮流と具体的な設計アプローチについて解説します。

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