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IOWN Open APN 入門 第3回 ~Open APN Functional Architecture Version 3.0の更新点に関連するNTTの研究ついて~

今回は『Open All-Photonic Network Functional Architecture Version 3.0』の更新点に関連するNTTの研究概要等についてご紹介いたします。

はじめに

こんにちは, NTTテクノクロス株式会社の村木と申します。
 
本連載ではIOWNの柱の一つであるAPNのオープン化にまつわるOpen APNについて記載していきます。
IOWN全体概要とそのカーボンニュートラルへの寄与については以下の連載をご確認いただけますと幸いです。
 
また, Open APNの各機器に関する説明は過去の連載記事をご確認ください。
     
    今回は『Open All-Photonic Network Functional Architecture Version 3.0』の更新点に関連するNTTの研究概要等についてご紹介いたします。
    『Open APN Functional Architecture Version 3.0』の更新点の概要は大まかに以下の通りです。
    • ・マルチラムダアクセス(1本の光ファイバ上で複数の波長(ラムダ)を用いて複数のユーザーが同時にかつ高効率にアクセスする技術)※APN-Sに関連
    • ・波長変換の追加
    • ・QoT推定(伝送品質(QoT:Quality of Transmission))
    • ・ネットワークライフサイクル管理
    • ・QKD(量子鍵配送(QKD:Quantum Key Distribution))
    Version2.0からVersion3.0への更新点の詳細については以下ドキュメントをご確認ください。
    ○目次
      

    Open APNアーキテクチャ更新点に関連する装置について

    『Open APN Functional Architecture Version 3.0』ではアーキテクチャに新たに「APN-S」という装置が追加されました。
    また, 『Version 2.0』でも言及がありましたが「APN-FX」と呼ばれる装置についての記載が詳細化された印象があります。
    そのため, 「APN-S」と「APN-FX」について簡単にご紹介させていただきます。
     
    ○APN-S(Open APN Splitter)
    APN-Sは, APN-TとAPN-Gの間の分岐に利用されます。
    この機器はオプションとして位置づけられ, 構成によっては配備されないパターンも存在します。
    データセンタ間接続等, 同一拠点に複数の波長を提供するようなユースケースにおいて, APN-SをAPN-G~APN-Tの間に挟み込むことでAPN-Gのポートや光ファイバを共有することができます。
    APN-Sは複数のAPN-Tからの上りの光信号を多重化し, APN-Gからの下りの光信号を目的のAPN-Tに転送します。
    ※機器や用途によっては下り通信を目的のAPN-Tのみに届けるフィルタリング機能は実装されない場合もあります。

    ユーザ拠点ごとにAPN-Tが配置される可能性があるOpen APNの構想上, APN-Gのポートや利用する光ファイバが膨大に必要となることが想定されるため, その効率化のために追加された機器なのではと想定されます。
     
    ○APN-FX(Open APN)
    APN-FXのご紹介の前に, Open APNの基本アーキテクチャが2層構造であることをご紹介します。
    • ・Open APN Wavelength Exchange (Open APN.WX):
      •  波長レイヤのアーキテクチャです。
      •  登場機器はAPN-T/APN-S/APN-G/APN-I/APN-Cといった機器であり, PtPの波長経路サービスを示します。
    • ・Open APN Fiber Exchange(Open APN.FX):
      •  ファイバレイヤのアーキテクチャです。
      •  登場機器はAPN-FX/APN-T(FX)/APN-Cであり, エンドポイント間を物理的なファイバで接続するファイバパスをどのように構築するかを示します。
      •  ※APN-T(FX):光ファイバーの経路を終端する光トランシーバでOpen APN.FXアーキテクチャにおける表記です。

    上記Open APN.FXに登場する機器がAPN-FXです。
    APN-FXがOpen APNエンドポイントをファイバパスで接続するためのゲートウェイです。
    APN-FXはクライアント側とインフラストラクチャ側の2つの面を持ち, クライアント側にポートのペア, インフラ側に1つのポートの接続を生成します。
    また, APN-FXはオプションでターンバック機能、すなわち2つのクライアント側ポート間の接続を作成する機能を提供することがあります。
     

    波長変換に関する研究について

    NTTでは波長変換を活用した光伝送システムアーキテクチャ技術(Ph-EX:Photonic Exchange)として本技術の研究を実施しています。
    Photonic Exchangeに関する概要と技術要素は以下の通りです。

     

    ○概要
    APNの特徴であるユーザ間のEnd-to-End光直結パスを柔軟に提供するための技術です。
    従来の光伝送システムでは光パスのクロスコネクト機能が中心でしたが, Photonic Exchangeではこれに加えて, 異なる波長帯(C帯・L帯)を柔軟に変換する波長帯変換機能や任意の入力波長を任意の出力波長に1波長単位で変換する波長変換機能を備えています。
    APN内の光パスの波長を柔軟に変更することが可能となり, 既存設備の有効活用や波長衝突の回避や, 異なる事業者が運用するAPNをまたいだEnd-to-Endの提供, 省電力化や設備コストの削減など多くの利点をもたらします。

     

    ○技術要素
    IOWN構想における大容量・低遅延なトラフィックを低消費電力で実現するために, 以下の技術的特徴によって波長を柔軟にコントロールし多数の波長を効率よく転送します。

     

    • ・波長変換:
      •  波長単位で任意の波長に変換可能な波長変換技術により, 管理者の異なるAPN間を接続するための波長整合を可能とする。
      •  OAO波長変換(光信号を一度電気アナログ信号に変換し、再び光信号に戻すことで任意の波長への変換を可能にする方式)を活用することで, 従来のOEO(光–電気–光)方式とは異なりデジタル信号処理(DSP)を用いないため, 消費電力や遅延の面で大きな利点が得られる。
    • ・波長帯変換:
      •  NTTが研究開発を進めているPPLNを用いた波長帯変換技術により, 異なる光学仕様が求められる複数種類の光ファイバ伝送路をまたがって接続することや波長収容可能数が少ない既存ネットワークや波長収容可能数が多いAPNをまたがって光直結で接続することを可能とする。
      •  PPLN(周期分極反転ニオブ酸リチウム)を用いた異なる光学仕様の光ファイバ伝送路間や、単一波長帯を活用する既存ネットワークと、複数波長帯を活用するAPNとの間で光直結を可能にする波長帯変換技術により, 複数の波長帯を柔軟に切り替えながら光パスを構成することができ, APNの省電力性を損なうことなく波長帯の柔軟な運用が実現できる。
    • ・マルチバンド伝送長延化:
      •  光ファイバ内の多重波長数を増やすことで生じる非線形光学現象を簡易な情報で的確に推定し, 適切な光ファイバ入力強度に調整することを可能とする。
      •  本技術により, 経済的にかつ効率よく波長多重数を増やすことができる。

     
    ○参考:

    QoT推定に関する研究について

    NTTでは光波長パス伝送モード自動最適化技術(AOPP:Automatic Optical Path Provisioning)として本技術の研究を実施しています。
    AOPPに関する概要と技術要素は以下の通りです。

     

    ○概要
    APNを活用し分散しているデータセンタ間を動的に接続するDCX(データセンタエクスチェンジ)の実現に向けて, オンデマンドに光波長パスを設定する自動プロビジョニングを実現します。
    条件の異なる多ユーザ拠点の光伝送装置を遠隔監視し伝送路推定をオンデマンドに行い, 光波長パスを遠隔設定することで光波長パスの開通時間の短縮・自動化を実現します。
    複数ベンダ装置のリンク光信号品質に適した様々な伝送モードでオンデマンドに光波長パスを設定するには以下の3つの課題を解決する必要があります。
    • ・多対多の規模で短時間で効率よくEnd-to-End光パスを設計可能な新しい手法が必要
    • ・様々なユーザ間での複数ベンダ・複数伝送モードでのトランシーバモデル定義や相互接続を可能とする仕組み・手法が必要
    • ・ファイバー伝搬や光アンプ・光伝送装置・光スイッチのノイズによる光信号品質の劣化を遠隔から短時間で算出, 設定する必要がある

     

    ○技術要素

    ・ビット誤り率による信号品質推定:

     ビット誤り率(BER)と信号品質(OSNR)の関係をモデル化する技術を確立し, ビット誤り率から信号品質を算出(プローブ計測)することが可能となりました。

     Link毎に代表的なモード・波長によるプローブ計測を1回実施するだけで高精度にE2E光波長パスを設計する以下の技術を確立しました。

     ・Link-by-link プローブ技術:

    Link-by-linkに品質を測定し, その和を取ることでE2Eの品質を推定する

     ・代表プローブ技術:

    モード/変調器原理/波長が違っても精度よく品質を推定, 最適モード選択可能にする

    ・光波長パスを自動設定する実験用ソフトウェアを実装:

     光伝送装置を制御して, 事前測定したトランシーバ特性情報の収集/Link毎の代表モード・波長によるプローブ計測/光パスの品質推定, 光パス設定の選択・投入を自動で実行します。

     光伝送装置にはベンダ差異を吸収するオープンインターフェースであるTIP Transponder Abstraction Interface (TAI)を活用することで異ベンダトランシーバを共通インターフェースで制御して, 異ベンダのトランシーバ間に光波長パスを確立できるようにしました。

     

    ○参考:

    ネットワークライフサイクル管理に関する研究について

    NTTでは光ネットワークデジタルツイン技術として本技術の研究を実施しています。
    光ネットワークデジタルツイン技術に関する概要と技術要素は以下の通りです。

     

    ○概要
    APNではオンデマンド型の光ネットワークサービスの実現を目指しており, こうしたサービスの提供にはネットワーク資源だけでなく計算資源も必要となるため, NTTではAPNは単なるネットワークサービスにとどまらず, 計算基盤との連携も視野に研究開発を進めています。
    多くの手作業を削減するためネットワーク運用の自律化が不可欠と考えられ, 光ネットワークデジタルツインを活用した自律化を目指しています。
    実際のネットワーク装置からデータを収集し, 仮想空間に精密なネットワークモデルを再構築, この仮想ネットワーク上で設計・分析を行い最適な制御を算出して実ネットワークに反映, これを絶えず繰り返すことで運用の自律化を実現します。

     

    ○技術要素

    ・光波長パスの伝送モード自動最適化技術:

     伝送モードとは、光伝送装置が「どのように光信号を送るか」を決める設定の組み合わせです。

     ある伝送モードでエラーなく信号を送れるか(伝送可否)を判断するのは以下の2つを同時に考慮する必要があり簡単ではありません。

     ・システム全体で発生する雑音(信号劣化)の総量

     ・伝送モードが持つ雑音への耐性

     データセンタ間通信からメトロ領域をカバーする約数100km程度までの伝送システムでは、支配的な雑音が以下の3つであることが知られています。

     ・ASE(Amplified Spontaneous Emission)雑音:

    光アンプからの自然放射増幅光による雑音

     ・NLI(Non-Linear Interference)雑音:

    波長多重した信号間の非線形効果による干渉雑音

     ・TRx(Transceiver)雑音:

    トランシーバ由来の雑音

     ここでは、多数の経路候補から雑音量が最小の経路を効率的に選ぶNTTの技術である光波長パス設定技術を紹介します。

     データセンタ間通信で想定されるメッシュ型ネットワークでは経路候補が非常に多く存在し, 伝送可否は単純な距離ではなく経路上で発生する雑音量で決まりますが, 経路数はノード数(ROADM数)に対して指数的に増加するためすべての経路について雑音量を計算するのは現実的ではありません。

     そこでNTTでは, リンク単位(ROADM間)に発生する雑音(ASE雑音とNLI雑音)を独立したガウス雑音として扱い、経路全体の雑音量はリンク雑音の和とみなすことで, リンクごとの雑音量を求めた後は最短経路アルゴリズムを使って最小雑音経路を算出する手法を考案しました。

     

    ○参考:

    QKDに関連する研究について

    NTTではセキュア光トランスポートネットワーク技術として本技術の研究を実施しています。
    セキュア光トランスポートネットワーク技術に関する概要と技術要素は以下の通りです。

     

    ○概要
    量子コンピュータの登場により既存の暗号方式の危殆化リスクが高まっているため, 以下の実現を可能とする暗号化技術です。
    • ・耐量子計算機暗号を含む複数の暗号方式の切り替え・組合せによるリスク低減
    • ・機能構成のディスアグリゲーションによる様々なプラットフォームでの機能提供

     

    PQCとQKD等複数のセキュリティ方式を組み合わせることで双方のデメリットを補完し, より広範な脅威に対応可能な選択肢をユーザに提供可能なアーキテクチャを規定しました。
    • ・QKD:
    •  メリット:情報理論的安全性(無限の計算能力を持った攻撃者に対する安全性)を有する鍵交換技術。
    •  デメリット:長距離の鍵配送には鍵リレーを行う第三者ネットワークが必要であり内部攻撃のリスクを回避できない。
    • ・PQC:
    •  メリット:PQC活用した鍵交換方式はソフトウェアで実現可能であるため, 厳密にエンドポイント間で鍵交換が可能。
    •  デメリット:安全性は計算量的安全性(現実的時間では実行不可能であるという仮定に依拠した安全)であり、将来的に危殆化する可能性がある。

     

    ○技術要素

    ・耐量子計算機暗号(Post-Quantum Cryptography, PQC):

     量子コンピュータが登場しても解読されにくいPQCは、既存の量子アルゴリズムに対して効率的に解くことが困難な数学的問題を利用して設計される。

     一方でPQCであっても将来的に安全が保障されているわけではなく, 新たな攻撃が発見される可能性を考慮する必要がある。

    ・クリプトアジリティ(暗号の機敏性):

     将来的に新しい攻撃アルゴリズムの発見に備えるため米国国立標準技術研究所 (NIST)が提唱する概念である。

     暗号方式の危殆化や新たな暗号アルゴリズムの登場の際に, 迅速に暗号方式を切り替え, 既存のネットワークやシステムへの影響を最小限として検証期間を短縮することを目的とする。

    ・クリプトアジリティとElastic Key Control技術:

     NTTが開発したElastic Key Control技術は耐量子セキュアトランスポートの要素技術であり, クリプトアジリティを具体化する鍵交換技術である。

     ユーザー要求/暗号アルゴリズム解読リスクに応じて, 暗号アルゴリズム切り替え/組み合わせが実現できる。

     また, ライブラリとして実装可能な暗号方式であれば, 容易に選択肢に加えることができる。

    ・クリプトアジリティと光トランスポートのディスアグリゲーション構成:

     クリプトアジリティの実現には, 光伝送装置のオープン化と暗号処理のディスアグリゲーション構成が必要なため, NTTは以下のような構成を提案した。

     この分離によって光伝送装置のNOSに依存しない暗号処理が可能となった。

     ・鍵管理部:

    受け取った共通鍵の情報を独立して管理し, 下位の暗号処理(MACsecやOTN暗号化など)に依存しない鍵管理を行う機能部

     ・セッション鍵管理部:

    光伝送装置間のセッション鍵を管理し, 下位の暗号処理に依存する部分とインターフェイスする機能部

     ・暗号処理部:

    物理的なハードウェアで高速に暗号処理を行う機能部

     

    ○参考:

    おわりに

    今回は『Open All-Photonic Network Functional Architecture Version 3.0』の更新点に関連するNTTの研究概要等についてご紹介いたしました。
    次回はIOWNのOpen APNを構成する装置の内, APN-GやAPN-Iの標準化やOpen APNの進捗状況についてご紹介したいと思います。

    本件に関するお問い合わせ

    NTTテクノクロス
    フューチャーネットワーク事業部

    村木 遼亮

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    著者プロフィール
    村木 遼亮
    村木 遼亮

    [著者プロフィール]
    フューチャーネットワーク事業部 第一ビジネスユニット
    村木 遼亮(MURAKI RYOUSUKE)