当社こころを動かすICTデザイン室が提供している主要サービスのひとつ、『技能継承』の取り組みを4回にわたってお伝えします。第2回は「『技能継承』の取り組みが生まれるまで」です。
おはようございます。こんにちは。こんばんは。
HCD-Net認定 人間中心設計スペシャリスト 井山貴弘です。
前回は、私個人で『技能継承』の取り組みとは?を調査し、紹介しましましたが、今回は「『技能継承』の取り組みが生まれるまで」のお話を、こころを動かすICTデザイン室大野健彦さんに伺っていきたいと思います。
『技能継承』の取り組みが生まれるまで
質問者:井山
回答者:こころを動かすICTデザイン室 大野健彦さん
技術者に技能とは何かと聞くと、『勘と経験』と答えられる
早速ですが、そもそも継承する元となる「技能」とはなんなのでしょうか?
いい質問ですね。私もこの取り組みを始めてすぐ現場の技術者に「技能」とは何なのか聞いてみました。すると、ベテラン技術者から「うーん、やっぱり勘と経験かな~」という答えが返ってきました。
なるほど。かなり抽象的な回答ですね。ではベテランでない、若手技術者の方はどのような回答をされましたか?
若手技術者は「先輩を見ていると、勘と経験かなと思います」という答えでした。
そうなんです。「勘と経験」が具体的になにを指すのか、詳しくインタビューをしたところ、
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柔軟な問題解決
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突発事象へ臨機応変に対応
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わずかな違いを見分ける
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広範囲な知識
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マニュアルにないことも知っている
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教えるのがうまい
といった特徴を持つことがわかりました。
はい。『技能継承』の取り組みをはじめて最初に気づいたことは、「技術者に技能とは何かと聞くと、『勘と経験』と答えられる」ということでした。
この気づきから、『技能継承』の取り組みでは、ベテラン技術者が保持している技能、すなわち「勘と経験」を、ドキュメント化して若手に共有することを行おうと思いました。
勘と経験=暗黙知。文書化したり、他人に伝えることは難しい
業務に必要なことをドキュメント化して残すこと、いわゆる引継ぎ資料の作成は、IT業界にいると当たり前に行うことにも思えますが、技術職だとそのようなことは行われないのでしょうか?
業種についてはあまり関連がないかもしれません。どの業種でもつくっている方はいると思います。しかしベテラン自身が「勘と経験」をドキュメント化すると、
といった問題が発生します。
確かに、読む気にならないような固いドキュメントってありますよね。結局質問しないとわからないような内容のものも。
そうなんです。ベテランががんばって作成したにも関わらず、読まれない問題がでてくる場合が多いです。
調査した結果、ベテランの知識には2種類あることがわかりました。単純作業としてドキュメント化しやすい形式知はいいんですが、「勘と経験」というのは、いわゆる暗黙知と呼ばれるものだとわかりました。
はい。暗黙知とは、例えば先人たちは以下のように述べています。
なかなか取り扱うのが難しそうなのがわかりますね。
なるほど。がんばってもいいドキュメントにならないのは、個人に起因する問題ではなく、共通的な問題なんですね。
そうなんです。そこで気づいたことは、勘と経験とはつまり暗黙知。それを文書化したり、他人に伝えることはとても難しい。ということでした。
そもそも文書化するのも伝えるのも難しいものであると。
はい。だから、現場において、技術者自らがが、暗黙知をドキュメント化する手法を確立することが大事だと考えました。
ワークショップで手順は出てくるが、暗黙知はほとんど出てこない
まず業務を分割して、そこから暗黙知を考える、ということを試しました。
作業の中で難しい、時間のかかる場所に注目して、考えてもらうために、暗黙知抽出ワークショップを開催しました。その中では、複数のベテラン技術者が議論しながら暗黙知を抽出・整理していきました。
なるほど。これならば作業に必要な暗黙知が出てきそうですね。
はい、私もそう思いました。しかし、結果的には笑い話も含めて、2つ気づきがありました。1つ目は、笑い話として紹介しているんですが「ベテランのワークショップは盛り上がらない」ということです。
盛り上がらないは言葉が強過ぎですが、技術者のみなさんなので、ワークショップの場に慣れていませんでした。私が初めて実践したときは、何をやるんだ、という雰囲気でした。その後も飲み会やワークショップを重ねることで、最終的にはとても仲良くなったのですが。
コミュニケーションをとる方法は、飲み会以外の方法もたくさんあるので、必ずしも飲み会が必要というわけではありません。でも技術者たちと仲良くなる、つまり信頼関係を築く、というのは作業の裏にある暗黙知を引き出す中で大事な要素だと思います。ほかの企業とやった際も、最初に飲み会をやっていただいたおかげで、ぐっと打ち解けてワークショップをできたということもあります。
もう1つ、これは本当に困った話なのですが、「ワークショップで手順は出てくるが、暗黙知はなかなか出てこない」ことです。
それは困るというか、ワークショップの目的が果たせないということですよね。
そうなんです。ワークショップで暗黙知を出したかったんですけど、ベテランはどこがポイントなのかわからないんです。
ベテランにとっては、思い出せないくらい自然なことなんです。作業をやっている瞬間には思い出せても、あとから思い出そうとしても難しいんです。
ワークショップの中で、作業を分割して、そこにある技能が何かと考えようとしてもなかなか技能が出てこない。
言葉に出てこない。意識していない「勘とか経験」。それがまさに暗黙知なんですね。
はい。だからベテラン自らによる暗黙知のドキュメント化が難しいんです。
でもその壁に当たったことで、『技能継承』をサービス化できることになる、大きな気づきがありました。
ベテラン自らドキュメントを書くよりも、インタビュー等で引き出してこちらでノウハウ集としてまとめたほうがよいのではないかと思い至ったんです。
つまり、専門家が客観的にベテランから暗黙知を引き出してドキュメント化すればいいと。
はい。ここに気づいてからの展開は早かったです。自分たちが暗黙知を引き出すために、なにができるか、なにをすればよいか考えることが主体となりました。
今振り返って、暗黙知が出てこないという大きな壁にぶつかったとき、諦めないでよかったと思います。常に楽観的に考えて取り組んでいたことも良かったと思います。
発想転換するのに、気持ちの部分以外でなにかありましたか?
そうですね。『技能継承』に取り組む前に、いろいろなことをして経験を積んだのが良かったと思います。暗黙知を抽出するために、エスノグラフィ、ワークショップデザイン、参加型デザインなどの知見も役立ちました。
大野さん自身の、勘と経験でなく、気持ちと経験の賜物ですね。
そうですね、そういう意味では自分の持つ『技能』も役立ったと思います。
今回は、『技能継承』の取り組みが生まれるまでをテーマに質問を進めてまいりました。みなさまも産まれる瞬間に立ち会えたかと思います。
次回は、『技能継承』の取り組みから得たノウハウを伺っていきたいと思います。『技能継承』の取り組み以外でも使えるノウハウも聞きたいと思いますので、どうぞお楽しみになさってください。
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