社内でUXデザインを推進するための2つの取り組み(その1:業務支援)
現在、社内でUXデザインを推進するために『業務支援』『普及・育成』という2つの取り組みを実施しています。今回紹介するのは、その1つ目の取り組みである『業務支援』です。
(366)日のUXデザイン 第6回
- 2018年11月30日公開
おはようございます。こんにちは。こんばんは。
HCD-Net認定 人間中心設計スペシャリスト 井山貴弘です。
もうすぐ12月、プロ野球やJリーグなど、スポーツ界では、シーズンを終えて移籍市場が賑わいを増す、ストーブリーグが開幕しはじめています。
選手たちは、報酬は?チームのビジョンは?自分が活躍できそうか?など、たくさんの要素から自分にとって魅力的なチームを探すのだと思います。
会社勤めだとストーブリーグな期間はなく、常に自由市場ではあるわけですが、やはり魅力的な会社に勤めていることが理想です。
そんな理想を叶えるために、会社を渡り歩き続けることもできますが、会社を少し変えてみることも面白いと思います。
そこで今回から2回に渡って「社内でUXデザインを推進するための2つの取り組み」を紹介していきたいと思います。
デザイン会社ではない、もしくはデザイン思考が浸透していない会社に在籍する、「社内でUXデザインを推進したい!」という志を持っている担当のみなさまは、おそらく1度は大きな壁に当たっていると思います。
『UXデザインを推進しようとしても、チームや上司から理解を得られないっ!』そんな声をよく耳にします。
開発が業務のメインとなる当社も、そんな壁のある会社のひとつでした。
...と完全な過去形にするために、UXデザイン推進担当として、社内で2つの取り組み『業務支援』『普及・育成』を実施しています。
今回紹介するのは、その1つ目の取り組みである『業務支援』です。
1つ目の取り組み:業務支援
具体的には、既存製品のリニューアル、新製品立案やWebサイト立ち上げの検討など、UXデザイン手法を用いて、それらを実現する支援を行っています。
詳しくは、連載記事「みんなに愛される『CipherCraft/Mail 7』のつくり方」で紹介しておりますのでぜひリンク先よりご覧ください。
『UXデザインを推進しようとしても、チームや上司から理解を得られないっ!』という文化の中で、 支援を進めようとしたときに、重要だと感じられたポイントは、3つありました。
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a)気づかせて
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b)少しずつ
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c)巻き込む
単語としては不可思議ですが、語呂良くスローガンになるようにしてみました。
では、順番に紹介していきます。
a)気づかせて
どんなに使いづらい製品であっても、製品担当がその製品に愛着を抱き、使い慣れてしまうと、どうしても「使いづらさはない」、それどころか「使いやすい」と思い込んでしまうころがあります。
そして、今でも売れている!製品を見直す必要はない!むしろ機能を増やさないと!...と、ユーザの使いやすさを追求せず、パンフレットに載せる機能一覧を充実させることに懸命になってしまうことがあります。
製品に限らず、社内向けのシステムでも、同じような光景が見られるのではないでしょうか。
直近のコスト優先で、古かったり、使いづらかったりするシステムを使い続けていて、システムのためだけに行う作業がたくさんある。
長く使い続けたベテラン社員は、システム投入のためだけにある作業フローを守ることをいつしか正しいこととして受け入れてしまい、作業を黙々とこなすも、新入社員は、なんでこんな無駄なことをしているんだろう?と疑問を抱えて、モヤモヤして、いつしか愛社精神を失う事態にまで...。
本来、利用者を楽にするためにあるはずのシステムが、むしろ利用者に負担をかけている。システムの型にはめるための作業を無理強いさせている。
こういった状態を『システムのパワハラ』と表現するのが、周囲で流行っています。
この『システムのパワハラ』という言葉が世間に広く定着してくれれば、人に負荷をかけるシステムのおかしさに気づき、自然と淘汰されていくと思いますが、それには相当の時間がかかるどころか、そもそも定着するかもわかりません。
そこで、私たちUXデザイン推進担当では、自社製品について『勝手にユーザテスト』『勝手に専門家評価』を行って、各製品担当に、無理やりに使いづらさを気づかせる取り組みをしました。
勝手にユーザテスト
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製品やサービスの標準的な操作シナリオをつくる
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何人かのユーザ役の方に、声を出しながらシナリオに沿って操作してもらう
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操作している様子をビデオで撮影する
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開発担当さんに、撮影したビデオを見ていただく
箇条書きにすると、このようにとっても単純です。ユーザ役については、当社社員のみで行った例もあります。
製品に自信を持っていた製品担当のみなさまも、実際に迷う動作や、ため息、いらいらした様子などを見せることで、製品が抱えていた課題に気づいていただくことができました。
勝手に専門家評価
ユーザテストと併せて「ニールセンのユーザビリティ10原則」などを活用した、専門家によるヒューリスティック評価を実施しました。
そこでは、自社製品だけでなく、競合製品も評価を行い、それぞれ、どこが優れていて、どこに課題があるか、どこを伸ばせばよいかを、しっかりと理解いただくことを重視して、丁寧な資料に仕上げます。
自社製品の良さ、強みを取り上げて、気持ちを上げさせる、ここを直せばもっと良くなる、というストーリーを描いてみせることも、支援に繋げるためには重要なことです。
このようにユーザテストや専門家評価を、製品担当から依頼される前に行い、課題に気づかせて、気持ちも上げて、UXデザイン手法を用いたリニューアルを検討していただく。
こうして、UXデザイン手法を適用させる製品を増やしてきました。
b)少しずつ
本来、UXデザイン手法は、この工程のこの部分だけ用いればいい、というものではなく、工程を一通り行い、回し続けることが重要です。
とはいえ、既存の開発手法に慣れ親しんだ製品担当が、UXデザイン手法を取り入れて、というか乗り換えて開発を行うのは、とても難しく、ハードルが高いものです。
ユーザを知ることの大切さを理解し、一部だけでも開発に組み込んでいただき、徐々にUXデザイン手法にシフトできるうように...。
調査→分析→デザイン→テストという流れで行うUXデザイン工程の中で、支援内容をサービスメニュー化して提供するようにしました。
製品担当から困りごとと対応期間を伺って、テーマを決めて...
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調査工程:ユーザインタビュをする、競合調査をする
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分析工程:ペルソナをつくる、シナリオをつくる
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デザイン工程:ワイヤーフレームをつくる、プロトタイプをつくる
など調整して、UXデザイン手法を適用できる項目を決めていきます。
最初の依頼では、アプリの管理画面のみについて、ユーザ評価とワイヤーフレーム提案をした案件がありました。
その対応でしっかりと実績が残せたことで、次の依頼では、ユーザの声に沿ったヘルプ画面の検討、そして次の依頼では、アプリ全体のリニューアルに対して、UXデザイン手法の全工程を適用させるまでに拡大した例もあります。
正しい姿ではないとしても、いきなり全てを適用するのではなく、少しずつでも実績を重ねていく。
そうして、信頼を得ていくことも大事かと思います。
c)巻き込む
UXデザイン手法を使ったリニューアルや、新規サービスの検討を行うとき、UX推進担当が単独で作業を行うのは、取得したデータの分析や専門家調査など、限られた項目のみにしています。
ペルソナやカスタマージャーニーマップ、シナリオなどの作成時は、 各手法の意味とやりかたの説明も行いながらのワークショップ形式にして、 製品担当を巻き込んで、一緒に作業するようにしています。
機能追加一辺倒だった製品担当の方も、実際に体験されることによって、ユーザの声を聞き、深く理解することの大切さを知っていただけます。
それにより、UXデザイン手法の有効性、そして開発に与える効果を納得してもらうことができています。
これ以上書くことのないシンプルなことですが、説明やワークショップ、要員調整にかかる負担を背負ってでも、担当を巻き込むことで、その後が変わります。
一度、手法を体験していただいた製品担当の方からは、ありがたいことに、継続的に、別案件になっても声がかかるようになっています。
以上が、UXデザイン推進のために取り組んでいる『業務支援』の3つのポイントでした。
UXデザインを実践されている方からすれば、当たり前のことや、まだまだなこともたくさんあったかと思いますが、0から1にする難しさの、少しの参考になればと思います。
また、気づかせて少しずつ巻き込む、という進め方は、UXデザイン推進以外にも適用できるかと思います。ちょっとした一歩を踏み出して、今いる会社を魅力的にしてみてはいかがでしょうか。
次回はもう1つの取り組み『普及・育成』についてお話したいと思います。
個人的には、来年2月に第一子が産まれる予定なので、わが子の育成もとっても気になっていたりします。
※「CipherCraft」はNTTテクノクロス株式会社の登録商標です。
※その他会社名、製品名などの固有名詞は、一般に該当する会社もしくは組織の商標または登録商標です。
2001年入社時より、Webシステムを中心にユーザ向け画面のデザインを担当。 2015年秋よりUXデザイン推進担当として、社内外にUXデザインを広める役割を担う。 2017年、HCD-Net認定人間中心設計スペシャリスト資格取得。 結婚披露宴のお色直しで新婦と共に「ふたりの愛ランド」を歌いながら登場するなど、面白く楽しませることが好き。