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量子コンピュータ/IOWN DCIとは?概要や活用事例紹介 ~NWコンピューティングの処理高速化技術 第2回~

量子コンピュータの概要からNW分野における活用事例、IOWNの目指す次世代アーキテクチャ(DCI: Data Centric Infrastructure) について紹介します。

はじめに

皆さん、こんにちは。

前回の記事ではNWコンピューティングの高速化と題してGPU・FPGA・DPUのそれぞれの概要や
活用事例を紹介をしてきました。
これらは実用化され、具体的な活用が可能なレベルのものが多数でした。

今回はフューチャーネットワーク事業部だけでなく、新たにIOWNデジタルツイン事業部とも連携し、
量子コンピュータやIOWNの目指す新アーキテクチャ等、少し先を見た技術について
触れていきたいと思います。
また前回の内容も含めて、これまで触れてきた技術の比較もしてみたいと思います。

■ 目次

節番号 節タイトル
前回 1 GPUとその活用事例紹介
2 FPGAとその活用事例紹介
3 DPUとその活用事例紹介
今回 4 量子コンピュータとその活用事例紹介
5 各技術の比較
6 IOWNの目指す新コンピュート基盤DCI

量子コンピュータとその活用事例紹介

本節はIOWNデジタルツイン 第3事業部の坂上が紹介致します。

量子コンピュータには主となる「ゲート方式」と呼ばれるものと、
そこから派生した「アニーリングマシン」と呼ばれるタイプがあります。
ゲート方式の量子コンピュータは現在のCPUを利用したコンピュータとは異なり、
量子力学的な振る舞いを応用した量子アルゴリズムと呼ばれるものを利用できます。

現在は特に素因数分解などがCPUを利用したコンピュータよりも高速に処理でき、
従来のRSA暗号が高速に解かれる可能性に繋がることから、注目を集めています。

また、その派生として組み合わせ最適化問題に特化したアニーリングマシンは
既に実問題の解決に役立っています。

タイプ 特徴 2024年3月現在の利用状況
量子コンピュータ
(ゲート方式)
量子アルゴリズムを利用可能 研究段階
アニーリングマシン 組合せ最適化問題に特化 実用段階

一方で実装を行う際には特有の知識が必要となり、難易度が高い点も特徴と言えます。
例えばアニーリングマシンを扱う場合、本マシンがイジング模型を扱う為、
実世界の問題をイジング模型に変換する必要があります。
その上で、実機特有の癖なども加味して実装を行う他、返ってきた値が正しいか結果の解釈が必要となります。

IOWNが掲げるデジタルツイン・コンピューティング(DTC)には超高速・超大規模な演算処理ニーズを
満たすコンピューティング基盤が必要となると言われており、そこに従来とは異なる処理方式を取る
量子コンピュータにも期待が持たれています。

NTTグループではそんな量子コンピュータに関する研究も行っているため、以降でその一部を紹介します。

1.無線通信エリア推定技術

こちらはNTTと東京電機大学が共同で進める、障害物がある状況での無線通信エリア推定をより高精度化するための研究です。
6G/IOWN時代における無線の安定的な構築・運用の実現、さらにはそれを前提とした新サービス創出の寄与が期待されます。

例えば、6Gではより低遅延/大容量の通信が安定的に提供されるため、
安定的かつ低遅延が必要な遠隔治療やリアルタイム性の高いエンタメコンテンツの提供など、
私たちの社会に変革がもたらされることも考えられます。

ここからは無線通信エリア推定技術のより詳しい内容を紹介します。

従来は電波伝搬シミュレーションによって電波の伝搬路探索を実施し、無線通信エリアを推定していました。
しかし、この方法では電波の反射や回折の回数によって計算時間が指数関数的に増大するという問題があります。

本研究ではアニーリングマシンで利用可能なQUBOという形式に問題を落とし込むことで、
従来の電波伝搬シミュレーション方式(レイトレース法)では現実的な時間で計算不可能となるような
条件でも計算が完了することが示されました。

図1 伝搬損失最小経路の逐次探索問題への帰着 (出典: NTT Webサイト)

この結果から、これまでよりも低レベルの受信電力推定を実現することが可能になり、
高精度な無線通信エリア推定が実現できる見込みです。
また計算時間も従来技術の100万分の1以上に削減できるとされています。

2.少数のにおい成分から膨大な匂い・香りを作り出す組み合わせ最適化に関する実験について

こちらはNTTと株式会社NTTデータ、株式会社香味醗酵の共同研究で、
少数の匂い成分でさまざまな匂い、香りを瞬時に再構成する実機検証を2022年から開始しました。

この研究が進むことで、例えば映画やゲームなどのシーンに合わせた匂いを再現することで臨場的な体験を提供するなど、
私たちの生活をより豊かにすることが期待されます。
またIOWNのデジタルツインコンピューティング(DTC)ではヒトの内面まで含めた再現を目指しており、
その実現に五感も重要な要素となると考えられるため、もしかすると今後本件も関わってくるかもしれません。

ここからは実験の概要を解説していきます。
株式会社香味醗酵では人の感じるすべてのにおいの情報をデジタルデータとして記述し、40万種類以上の匂い分子をデータベースに保持しています。
そこから求める匂いを再構成することは組合せの多さから難しく、試作と評価を何度も繰り返す必要があります。
そこでアニーリングマシンを利用することで、より効率的な匂いの再構成を目指しています。

図2 各社の担当と実験の概要 (出典: NTTデータ Webサイト)

使用されるアニーリングマシンはNTTが開発するLASOLVという光イジングマシンであり、
本実験を通してより大規模な組み合わせ最適化問題の計算に取り組み、IOWN時代の社会的問題の解決の足がかりとなることが
期待されます。
またIOWN自体においても、例えばAPNでの複雑な光の波長割り当て問題や機械学習の一部を実施する等の活用が
考えられています。
[参考] NTT Webサイト

図3 LASOLVの概要 (出典: NTT Webサイト)

[付記] 量子コンピュータに耐えられる暗号化の仕組みについて

記事のなかで量子コンピュータにより従来のRSA暗号が高速に解かれる可能性がある、
と紹介しましたが、NTTでは量子コンピュータ時代を見据えた研究も実施しています。
具体的にはQKD(量子鍵配送)やPQC(耐量子計算機暗号)技術に着目し、
量子コンピュータでも破ることのできない鍵交換の研究を実施しています。

[参考] NTT Webサイト

なお、この研究はIOWN時代のセキュリティ技術(IOWNsec)としても期待されるものです。
IOWNsecにおいては複数のセキュリティ技術を組み合わせる事で、各セキュリティ技術の
メリット・デメリットを補完しつつ、1技術が危たい化しても耐えられるようにする
仕組み(MFS)が検討されています。

図4 MSFのイメージ例(出典: NTT Webサイト)

上記実現の1方法として、柔軟に鍵交換暗号アルゴリズムを切り替えられる
「Elastic Key Control技術」も発表されています。

図5 MFSの1実現例 Elastic Key Control技術(出典: NTT Webサイト

各技術の比較

ここまで第1回も含めて、様々な技術要素をみてきました。
以下に各技術要素の一般的な特徴をまとめてみました。

技術要素 価格
(相対評価)
実用化に向けて 実装難易度
(ソフト開発者目線)
使いどころ
(得意な領域)
注意点
(苦手や制限等)
GPU 並列処理可能なもの 分岐処理。
(CPUの方が早くなりがち)
FPGA × ネットワーク通信処理や
機械学習等、様々
載せられる処理は回路容量により
制限がある
DPU ネットワーク通信処理 DPU内のCPUは
HOSTほど高速ではない

量子
コンピュータ
(ゲート方式)

× × ×

量子アルゴリズムを
利用した処理
(素因数分解など)

まだ商用レベルではない

アニーリング
マシン
(simulatedを
含む)

× × 組み合わせ最適化問題 実用化されているが、
問題設定が難しい

※ 上記はどのグレードの製品・デバイスを活用するかによって変わる為、一般的な傾向としてお考え下さい。

上記の通り、各技術要素とも得意分野も異なる為、実施したい事にあわせて選択する事や
CPU含めて他技術と組み合わせて使うのが良いと考えられます。

[付記] 次世代NWに向けた技術コンセプト・キーワードについて

これまで上記表で示した各技術要素が通信分野のどういったところで活用されるか一例を記載してきました。
また、その紹介とあわせてOREXIOWNといった具体的なブランド・施策にも触れてきました。

このような次世代NWに向けた取り組みは他にも行われていますが、
技術の進化によって生まれた新たなコンセプトや技術キーワードが加味されている事が多いです。

ここでは参考として、筆者が特に最近重視されていると感じたり
目にするコンセプトや技術キーワードの一例を以下表で紹介します。

コンセプト・技術キーワード 概要 メリット/備考
オール光ネットワーク

NW(通信路内)をすべて光化することを目指す。

IOWNにおける一要素(APN)にもなっており、
Open APNとしてオープン化も進めている。

大容量・低遅延・省電力化を実現する。
例えば光から電気に変更するトランスポンダが不要となることでNWコンポーネントが減り、
省電力化となる。

コンピュートリソースの効率的な活用も観点にある(※)ものの、
現状はあくまで通信路の諸元向上が
メイン。

※ 次節参照

エッジコンピューティング 通信の送信元から宛先までの間(NW内)にデータ処理基盤を
設け、情報処理(データ加工やAI処理)を行う事。

NW内に流れるデータ量の削減や、
データ処理基盤と送信元が物理的に
近い位置にある場合は一部処理は
低レイテンシー化が可能となる。

web3

あるサービス提供を受ける際に特定企業にだけデータ配置や
提供をしたりやり取りするという形態を避け、複数で
データ管理や処理の分散化を行う試み。

ブロックチェーンの活用と合わせて議論されることが多い。
サービス・データの可用性が向上し、
セキュリティ観点でも向上する事が多い。
量子ネットワーク 量子コンピュータや量子センタ等の量子ノードを繋いで
量子情報を送信するNW。
量子NWでしか実現できないこと
(量子ノード同士を繋ぐ為、
 量子ノードで実現した事を
 オーバーヘッドを最小化・最大限
 活用できる)がある一方、コスト高。

上記は一見矛盾があるようにも見えます(例えばエッジコンピューティングとweb3)が、
どれか1つの技術で次世代NWが作り上げられるわけではなく、技術要素と同じようにそれぞれのメリット・デメリットを
考慮した上で最適化を目指した、様々な技術を連携・織り交ぜたNWとなっていくのではないかと思います。

IOWNの目指す新コンピュート基盤DCI

最後にIOWNで目指すNWコンピューティング基盤の構成要素の新アーキテクチャについて触れましょう。
これまで紹介してきた技術要素を活用する事でコンピューティング高速化は実現できるかと思いますが、まだ課題も残ります。
一例をあげるなら、各技術要素は基本はサーバ単位での活用となり、他サーバとの連携も含めて活用する場合は
方法含め意識する必要がある点があります。

この問題点をもう少し深堀すると、以下があげられるかと思います。

No. 課題
1 スケールアウトした際の効率性に難がある。
サーバにはCPUやメモリ、その他様々なリソースを積んでいる為、
スケールアウトすると不要なリソースまで増えてしまう
2 各リソースはサーバ単位に動く。
スケールアウトした上で各リソースを統合的に使いたい場合、
他サーバとの連携を意識した作りにする必要があり、不要な処理が必要となる。
例えばサーバ間通信も増える点が挙げられる。


これらの課題を解決する為、DCIと呼ばれるアーキテクチャが現在検討されています。
以下でDCIについてもう少し詳しく紹介します。

DCIは実施したい処理に合わせてリソースを最適な組み合わせで活用するためのアーキテクチャとなりますが、
構成例は以下のようになっています。

図6 DCIの構成イメージ例 (出典: NTT Webサイト)

DCIノードは「ノード」とあるように1台のマシンを指しますが、
GPU等のアクセラレータを複数搭載できることを前提としたアーキテクチャであり、
各アクセラレータ間で直接やり取りを行うためのノード内インターコネクトがあることが
特徴となります。

このアーキテクチャを使った例が以下となります。

図7 DCIの活用イメージ(出典: NTT Webサイト

上記図では「ホストボード」「機能カード」という言葉が登場していますが、
ホストボードはCPUやメモリを載せたマザーボード、機能カードはGPUやDPU等の
アクセラレータと読み取っていただければ、と思います。

上記のようにノード間は光によるノード間インターコネクトで直接接続し、
ノード内もホストボードを経由せずアクセラレータ間で直接やり取りを行う、というイメージが
わかるかと思います。
インターコネクトでは光技術を活用する為、きわめて高速なやり取りが可能となる見込みです。

このように各リソース同士を直接光でつなぐインターコネクトが重要となりますが、
これはディスアリゲーテッド・コンピューティングとして研究が進められています。

図8 ディスアリゲーテッド・コンピューティングのイメージ(出典: NTT Webサイト)

さて、DCIをもう少し広い範囲で構成図を見たのが以下図となります。

図9 DCIの概要イメージ ( 出典: NTT Webサイト )

DCIはデータセンター(DC)での活用を想定しており、DC間もAPNで接続する想定です。
よってDC間も光でのやり取りとなるため、物理的な距離が離れていても遅延なく
まるで1つの基盤のように扱う事が可能となる見込みです。

上記はAPNの具体的なユースケース(=分散型DC)として、米国や英国での検証も行われています。
[参考] 低遅延通信「APN」で分散型DC実証、NTTが目指すモノ --ニュースイッチ

DCIノードの実現には、上記で触れた「ディスアリゲーテッド・コンピューティング」アーキテクチャを
採用した「スーパーホワイトボックス(SWB)」と呼ばれる筐体が活用されると予測されます。
SWBには光電融合デバイスも活用されている事からIOWN2.0以降も継続で研究開発される見込みです。

図10 IOWNのロードマップ(出典: 総務省公開 NTT資料

このようにIOWNでは光技術を活用し、本節の最初に上げたような現状のコンピューティング基盤の課題克服を目指した、
次世代のコンピューティング基盤を実現することも考えられています。

また、この新コンピューティング基盤アーキテクチャはGPUやDPU等のリソースをより効果的に活用するための技術です。
よってアーキテクチャが変わってIOWN時代に移行しても、GPUをはじめとする本記事で取り扱ったリソース・技術要素は
コンピューティング処理高速化技術として、ますます重要となっていくと考えます。

おわりに

本記事では2回にわたりNWとコンピューティングの融合とコンピューティングの高速化技術、
そして次世代NWのコンセプトや活用事例について触れてきました。

本記事、またはそれ以外のネットワーク関連に関しての問い合わせやご意見がございましたら、
以下にご連絡ください。

よろしくお願いいたします。

本件に関するお問い合わせ

NTTテクノクロス
フューチャーネットワーク事業部

山口 佳輝

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