AI活用に求められる「学び」とは何か――NTTグループ「NTT Kaggler会」の取り組みに見る実践のヒント
NTTグループ共催「NTT Kaggler会」を通じ、AIを業務価値へつなげる実践的な学びの在り方をご紹介します。
広報ブログ 第81回
- 2026年07月14日公開
AI活用が進む現在、企業に問われているのは、技術の導入そのものではなく、それをどのように実務に組み込み、価値へとつなげていくかである。
では、その価値を生み出す力は、どのように育まれるのか――。
その問いへの一つのヒントが、NTTグループのNTT東日本、NTTドコモ、NTTテクノクロスが共催した「第1回NTT Kaggler会」にあった。Kaggleは、世界中の企業や研究機関が課題を出題し、参加者がデータ分析やモデル開発の精度を競うAIコンペティションプラットフォームである。本イベントでは、このKaggleを題材に、初心者から経験者までが実践的に学ぶ場として設計されている。
企画者の一人として本イベントを支えたのが、NTTテクノクロスの広瀬友貴だ。広瀬はKaggleのコンペティションで銀メダルを獲得するなど、継続的に取り組みを重ねてきた。その関わり方は、単なる個人スキルの向上にとどまらない。自らの技術を他者の学びへとつなげ、その輪を広げるという、もう一つの価値のあり方を体現している。
本記事では、広瀬の姿を通じて、AI時代に求められる技術者像とAIを業務に取り入れ、価値創出へつなげるための実践のヒントを紐解く。
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NTTテクノクロス 広瀬友貴
1. AI活用を支えるKaggle人材とは──広瀬の役割
広瀬友貴は、NTT Kaggler会当日、企画者の一人としてイベントを支えていた。
「参加された皆さんには、まずKaggleの楽しさを知っていただきたいと考えています。仮説を立て、検証し、改善する――その過程を繰り返しながら、真の答えに近づいていく。未知の領域を探索する過程をゲーム感覚で体験できる、それこそがKaggleの一番の魅力です。そうした体験が、普段の業務で直面する問題解決のきっかけになればと思っています」
2. なぜKaggleに取り組み続けるのか
──よりよい解法へたどり着きたいというエンジニアの"さが"
広瀬はなぜKaggleに取り組み続けるのか。
「できなかったことができるようになる、これが自分にとっての喜びでありKaggleの一番のやりがいだと考えています。新たに知識を身に付けられるという点に加え、最新論文や技術ブログを読んで知った知識を、Kaggleという実践の場で経験に昇華できる。また、チームで取り組むことで気付かなかった視点が得られたり、教えることで理解が深まるなど、さらに成長できます。この実践に勝る経験の場を通じて、自分のペースで学びを深め続けられるならば、ペースを落とすことはあってもやめる理由はありません」
こうした思考に至るまでには、多くの試行錯誤の積み重ねがあったという。
「自信を持った仮説を組み込んでも逆にスコアが下がってしまったり、上位参加者に自分のスコアを上回る解法を示されて、それまでの努力が水の泡になってしまったり、心折れる場面に多々直面するのがKaggleでもあります。大事なのはそこで折れずに、それはなぜかと疑問を持って取り組み、一歩でも先に進むこと。そうした苦労の先にメダルがあります。目の前の問題に疑問を持ち、その先のゴールを見据えて手を動かし、ぶつかり続ける。それが今の自分のベースになっています」
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Kaggleでは正解は与えられない。試行錯誤を繰り返すことで、少しずつ前に進んでいく。そのプロセスをチームで共有しながら結果を得る。その面白さと難しさが、継続の理由となっている。こうした姿勢は、業務課題にAIを適用する場面にも重なる。期待した結果が出ないときに、その理由を問い直し、次の改善につなげる力こそが、AI活用を業務価値へ近づけていく。その進め方は、業種・業界を問わず、多くの業務でそのまま応用できる。
3.KaggleがAI活用に強い理由とは──"実践の場"としての価値
Kaggleの価値は、単にモデル構築と精度の向上にとどまらない。
先端技術を「導入する」視点から、顧客価値を「創出する」視点へと転換させる点にある。
「モデルを動かすことよりも、直面している問題がなぜ起きているのか、このデータはどのように取得されたのかといった、背景を理解することの方が重要だと考えています。これは実務でも同じで、お客様がやりたいことをそのまま実現するのではなく、本当に必要としているものを見極め、最高のアウトカムを生むことが価値です。お客様と向き合い、並走しながらたどり着いていくことが求められます」
この言葉から示されるのは、「この技術は誰のどんな価値につながるのか」を問い続ける視点である。
これらの過程で、広瀬にも考え方の変化が生まれた。
「Kaggleが業務の役に立つのか、という点は定期的に議論になります。メダルを獲得する前に、自分でも考えてみたことがあるんです。普段の業務では、プロダクトの検討や最先端の研究、アジャイル開発など、さまざまなフェーズ、プロセスに関わる機会があります。その中で、良い開発サイクルとは何か、顧客価値を最大化するアウトカムとは何か、を常に考えています。
そうした中で気づいたのは、よく知り、疑問を抱き、理解にとどまらずに体験し、検証するという姿勢は、Kaggleでも変わらないなということ。
そこから、単に精度を上げることにこだわるのではなく、"なぜこの特徴量なのか""なぜこの結果になるのか"を問い続けるようになりました。その視点の変化によって、Kaggleと業務の経験が相互に影響し合うようになり、大きな転機になったと感じています」
Kaggleでは、課題設定、仮説構築、モデル検証、改善という一連の流れを実践できる。それは技術を試す場ではなく、顧客価値を生み出すための思考とプロセスを体感できる実践の場であり、業務課題にAIを適用するための考え方を身に付ける場でもある。
4. NTT Kaggler会とは
こうしたKaggleの特性は、「NTT Kaggler会」の設計にも色濃く反映されている。
「Kaggleではコンペのお題と、ある程度整理されたデータが与えられます。AIスキルを磨こうとしたとき、How(どう解くか)に集中できるのはAIへの入口として非常に適していると考えています。
また、AIはもはや技術者だけのものではなくなっています。ビジネスオーナーや経営層の解像度の高さが、競争優位性を高めることにつながります。そのため、職種や役職の枠組みにとらわれず、初心者でも参加でき、経験者と同じ場で試行錯誤できる環境をつくることが大事だと思っています」
NTT Kaggler会は、講義形式の研修ではない。参加者同士が実際に手を動かしながら理解を深め、学び合う場として設計されている。
そこでは、「実践を通じて考える」プロセスそのものが価値となる。参加者は、業務課題をAIで解く際に必要となる進め方を体験できる。
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5. AI時代に求められる人材とは
「AIは既に『技術』という枠組みを超えつつあり、これまで実現できなかった課題に取り組むことができる世の中が来ています。だからこそ、AIを"使う"のではなく、AIに"働いてもらう"ために視点をスイッチする必要があります。
今まで以上に問題のフィールドに深く入り込み、社会やお客様の問題に向き合う必要があります。例えば医療や農業の専門的な領域についても理解を深め、AIが成果を出せるようにその領域の知識と解くべき課題をつなげる手助けをしていくことが大切だと思っています。
単に『AIを使う』のではなく、『AIが仕事を完了させ、価値を生み出す状態をどう設計するか』――それが、AI時代に目指すべき姿なのかもしれません」
技術はあくまで課題解決の手段である。
AI活用において求められるのは、技術そのものの理解だけではない。業務や課題を踏まえたうえで、どこにAIを適用し、どのような成果につなげるかを考える視点が重要となる。求められているのは「技術を使える人材」ではなく、「技術によって価値を生み出せる人材」である。さらに、その知見を周囲と共有し、組織へと広げていくことも重要な役割となる。
広瀬自身もその点を強く意識しているという。
「Kaggleは競争の場でもありますが、それ以上に"学び合いの場"でもあります。正解が一つではないので、それぞれどんなアプローチで解いたのか、成功だけではなく何をしたら失敗したのかも重要な知識です。データサイエンティストが多い中でソフトウェアエンジニアとしてどう実装し、どのようにソースコード管理をしたのか。ありとあらゆることが知見として求められ、その共有が歓迎される非常に素晴らしい文化が構成されています。そういった中に身を置き、自分にできるところからGIVEを始めて、歓迎され、認められることでさらに成長していく。こういった循環そのものが大きな価値だと感じています」
6. AI活用を定着させる条件とは
広瀬とともに今回のイベントを推進したNTTドコモのPrincipal Data Scientistの宮木健一郎氏は、こうした取り組みの意義を次のように語る。
「AIは技術単体で成立するものではなく、サービス設計や業務理解と切り離すことはできません。実際の現場で価値を生み出すためには、技術と業務の両方をつなげて考えられる人材が必要です。
これまでのAI活用には、コーディングができないなど、"できない理由"がありましたが、現在は環境が整い、その多くは解消されつつあります。AIは一部の専門家だけのものではなく、より多くの人が関わるべきフェーズに入っています」
この指摘から、AI活用が"専門領域"から"組織全体の取り組み"へと移行しているという現実が見えてくる。その定着には、技術そのものの高度化以上に、業務と接続された形で活用できる人材の存在が不可欠となる。
今回のNTT Kaggler会について宮木氏は、
「技術者だけでなく、実務に関わる方にもAIを身近に感じてもらい、活用の裾野を広げることを目的としていました」
さらに、「広瀬さんのように実践経験を持つメダリストが関わることで、具体的なイメージを参加者が持てたことは大きかったと思います。今後もNTTグループ各社が連携しながら、この取り組みを広げていきたいと考えています」と今後の展望を示した。
NTTドコモ Principal Data Scientist 宮木健一郎氏
7. 学びが価値を生む、AI人材育成とAI活用の今後の展望
今回の取り組みを広瀬は次のように振り返る。
「自分の経験を還元することで、垣根を超えて組織全体の力につながればと考えています。
NTTテクノクロスの諸先輩方が築いてきた『自ら学び、高めあう文化』を自らも受け継いでいくと同時に、自分にしかできない形を見つけてより進化させていければと思います。一方で、まだ自分自身も学びの途中ですが、引き続き文化を体現する姿が若手社員のロールモデルとなれれば嬉しいですし、その中で得た経験を少しずつ周囲に共有しながら、組織全体の力につなげていければと考えています。今後も、これまで培ってきた技術をAI活用につなげ、価値創出に貢献していきたいです」
Kaggler会で見られたのは、単なるスキル習得の場ではなく、一人の学びが、他者の学びを生み、やがて組織全体の力へとつながっていく姿。その循環こそが、AI活用を支える本質といえるだろう。
AIはもはや特別な誰かのものではなく、学び続けるすべての人に開かれた領域である。そして、そのような"学びの積み重ね"が、組織の中で少しずつ広がっていくことが期待される。AIを学ぶことは出発点にすぎない。その学びを自部門の課題に当てはめ、検証と改善を繰り返すことが、AI活用を定着させる鍵となる。そして、その積み重ねが、業務価値の創出へとつながっていく。
まずは、みなさんもKaggleに参加してみてはどうだろうか。その経験が、AI活用を業務価値へつなげるきっかけとなり、一人の学びを組織の力へと変えていく第一歩につながるはずだ。
* 所属・役職及び本記事の内容は執筆時点のものです。
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