夜間見回りの負担を減らし、牛の命を守る。アニマルウェルフェアとAIが拓く畜産業の未来
「U-motion」と「BUJIDAS」の取り組みが評価され、第13回NTTグループサステナビリティカンファレンスで最優秀賞を受賞しました。
広報ブログ 第80回
- 2026年06月10日公開
2026年5月28日、第13回NTTグループサステナビリティカンファレンスにおいて、NTTテクノクロスの取り組み「アニマルウェルフェアとAIが拓く畜産業の未来」が最優秀賞を受賞しました。本カンファレンスは、NTTグループ各社が取り組む持続可能な社会に貢献する施策を披露・共有する場として2013年より開催されており、今回は17カ国・地域から集まった161施策のエントリーがありました。
NTTテクノクロスが受賞した取り組みは、デザミス社と共同開発した牛専用のセンサーで牛の行動データを可視化する「U-motion」*1と、牛舎内のカメラ映像をもとにAIが牛の姿勢を判定し、起立困難につながる兆候を検知すると、音で牛の自発的な起立を促す「BUJIDAS」*2を活用し、アニマルウェルフェアの向上と現場負担の軽減を実現したものです。
夜間見回りを前提としてきた従来の現場に対し、「データによる見守り」と「AIによる支援」という新たな仕組みを構築し、アニマルウェルフェアと同時に持続可能な畜産の未来への貢献を実現しました。

1. 持続可能な畜産には何が必要なのか?
こうした状況の中で畜産農家を悩ませているのが「起立困難」という事故。
起立困難とは、牛が寝たまま自力で起き上がれなくなる状態を指します。長時間横たわることで内臓に負荷がかかり呼吸困難に陥るなど、命を落とすリスクが高まります。
このリスクを未然に防ぐためには、牛の状態を把握するための見回りは不可欠です。しかし、夜間を含めた対応は体力的・精神的な負担が大きく、人手不足も相まって大きな課題となっています。
さらに、起立困難の状態を発見した場合でも、体重1トン近い牛を人の手で立たせることは容易ではなく、現場の負担を一層増大させています。
NTTテクノクロスのエンジアである赤野間と大家は当社の畜産DXの取り組みを支えてきました。赤野間は、夜間見回りを重ねる現場の厳しさを目の当たりにし、次のように語ります。
「朝、牛舎を訪ねると、死亡事故に遭った牛に向き合い、悲しみに暮れる農家さんの姿がありました。経済的損失もありますが、何よりも大切に育ててきた命を無事に送り出せなかったことへの深い悲しみを目の当たりにし、なんとかして負担を軽減したいと強く思いました」

2. なぜ今、アニマルウェルフェアが重要なのか
農家がこうした課題を抱える⼀⽅で、和牛は、日本の牛肉の中でも、柔らかな肉質や繊細かつ芳醇な味わいが高い評価を得て、海外市場での需要が拡大しています。⽜⾁の輸出は今後も成長が見込まれており、その中で国際⽔準のアニマルウェルフェアへの対応も急務となっています。
東京農工大学農学部の新村 毅教授は次のように説明します。
「アニマルウェルフェアとは、動物への配慮の考え方であり、動物の幸せを重視し、飼養期間中の生活の質を身体的にも精神的にも豊かにすることを目指すものです。現在、この考え方は国際的に広がりを見せていますが、日本はやや遅れをとっている状況にあります。今後、日本の畜産業が国際的な競争力を高めていく上で、非常に重要な鍵になると考えています」

3. 現場の知恵から生まれた──「BUJIDAS」が変えた見守りの仕組み
現場の課題に向き合う中で、NTTテクノクロスは現場の知見をもとに起立困難を予防する「BUJIDAS」を開発しました。
開発の背景には、エンジニアが約10年にわたり全国の農場に足を運び続けてきた経験があります。現場での対話や見回りへの同行を重ねる中で、エンジニア自身が牛の状態変化やリスクの兆候を体感してきました。
試行錯誤を重ねる中で出会ったのが、起立困難の兆候がある牛に働きかけ、自発的な起立を促すという現場の知恵でした。この知恵が、解決の方向性を大きく変える転機となりました。
このときの様子について、大家は次のように振り返ります。
「『起立困難になりそうな牛は、声をかけて起こすんだよ』と農家の方に教えていただき、実際にその様子も見せてもらいました。これこそ現場の方しか知り得ない暗黙知だと感じました。
そこで、当社で培ってきた技術を組み合わせて実証実験を行いました。スマートフォン越しに、試しに声をかけてみたところ、画面の中で寝ていた牛がゆっくりと体を起こしたのです。遠く離れた場所からでも牛を見守り、救うことができる――その手応えを強く感じた瞬間でした」

こうして生まれたのがBUJIDASです。本プロダクトは牛の姿勢をAIが判定し、起立困難につながる兆候を検知した場合に音で行動を促します。カメラによる非接触型の仕組みにより、牛にストレスを与えず、アニマルウェルフェアに配慮した"見守り"を実現しています。さらに、24時間常時稼働が可能となり、人による巡回に依存しない新たな管理手法を実現しました。
従来の人による見回り中心の運用から、「データによる見守り」と「AIによる支援」を組み合わせた管理へと転換することで、現場の負担軽減と管理精度の向上を両立しています。
この取り組みの背景について、大家は次のように振り返ります。
「今回の開発で重要だったのは、現場で働く農家の方々との信頼関係を築いてきたことです。10年間、現場に向き合い続ける中で技術とノウハウを積み重ねてきましたが、そうした関係の中で、暗黙知ともいえる知恵に出会うことができました。その一つが"声をかける"という対応です。あの日の『起立困難になりそうな牛は、声をかけて起こすんだよ』という一言は、今でも忘れることができません」
4. 夜間見回りが前提だった現場はどう変わったのか
BUJIDASの導入により、現場にどのような変化が生まれたのでしょうか。
2024年4月からBUJIDASの協力農場として実証実験にご協力いただいている園畠畜産の園畠 章さんは、約170頭の肥育牛を飼養する生産者です。長年にわたり起立困難に向き合ってきた園畠さんは、次のように語ります。
「起立困難は畜産農家にとって非常に重要な問題です。一度起立困難となると牛の力ではどうしようもないため、それを防ぐには毎晩の見回りを徹底するしかありませんでした」
見回りは不可欠である一方、肉体的にも精神的にも大きな負担を伴います。常に事故の可能性と隣り合わせであることも、現場の大きなプレッシャーとなっていました。
BUJIDASの導入後の変化について、園畠さんはこう続けます。
「導入してから事故はゼロになりました。カメラから音で知らせてくれ、スマートフォンにも通知が届くため、画像を確認しながら判断できます。当初は半信半疑でしたが、使ってみるともう安心感しかないですね。見回りの不安がなくなったため、夫婦で初めて県外に泊まりで旅行に行くこともできました」

こうした変化は、ICTを活用した単なる業務効率の向上にとどまりません。夜間見回りに縛られていた働き方を見直し、現場で働く人の暮らしそのものに、静かで前向きな変化をもたらしています。
5. "アニマルウェルフェア×効率化"を両立した価値
本取り組みでは、アニマルウェルフェアの向上と現場負担の軽減という、両立が難しいとされてきた課題を同時に解決しました。牛の状態をデータで可視化し、AIによって適切な対応を促す仕組みにより、動物への配慮と業務負担の軽減を両立しています。
新村教授は本取り組みを次のように評価しています。
「日本の畜産業は今、持続可能性の岐路に立っています。現場の知見を活かしたこのサービスは、動物にやさしいアニマルウェルフェアを達成し、畜産業を未来につなぐ力になると思います」

6. 現場の知を価値に変える──畜産DXのこれから
今回の取り組みは、現場で培われてきた知見とデータ・AIを組み合わせることで新たな価値を生み出しました。本取り組みの根底にある考え方について、赤野間は次のように語ります。
「我々は技術に強みを持っていますが、技術だけでは見えないこともあります。だからこそ、現場に行き、現場の声に向き合うことで暗黙知に出会い、それを技術の力で形式知に変えていくことが重要だと考えています。
自称、"日本一農場に通うエンジニア"として、これからも畜産農家のお力になりたいと思っています」
NTTテクノクロスは今後も、現場に寄り添いながら持続可能な社会の実現に向けた価値創出に取り組んでいきます。

*1 「U-motion」は、デザミス株式会社の登録商標です。
*2 本プロダクトは起立困難の発生を100%防げるものではありません。
*ページに記載した会社名、製品名などの固有名詞は、一般に該当する会社もしくは組織の商標または登録商標です。
* 所属・役職及び本記事の内容は執筆時点のものです。
導入事例
肥育において「起立困難」は、今も変わらず大きな課題です。
時間との勝負であり、人手や体力にも大きく依存するこの課題に、現場ではどのように向き合い、どのような変化が生まれたのでしょうか。
長野県の肥育農場での実践と、「楽をする」農業を目指した取り組みをまとめた事例をご覧いただけます。
BUJIDASが肥育牛を起立困難から救い「楽をする」農業を実現する 長野から描く畜産農家の未来像とは?
▶ https://www.ntt-tx.co.jp/case/kitayatufarm_2509/
サービス紹介
本記事で紹介したように、起立困難の予防や夜間見回りの負担軽減など、肥育現場の課題に対して、AIによる見守りという新たな選択肢が広がりつつあります。
畜産DXやアニマルウェルフェアへの対応を検討されている方は、以下のサービス紹介もあわせてご参照ください。
関連リンク
「第13回NTTグループサステナビリティカンファレンス」にてNTTテクノクロスが推進する「アニマルウェルフェアとAIが拓く畜産業の未来」が最優秀賞を受賞(2026.6.10)

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