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キャパ超え「オーバーツーリズム」はスマホで解決!

訪日外国人旅行者数が増えインバウンド向けの観光資源が大きな収入源になりつつある日本。過剰な混雑が発生するオーバーツーリズムの問題を解消するためのIoTやスマホの活用が注目されている。

2018年、訪日外国人旅行者数が累計で初めて3000万人を超えました(※1)。政府の後押しもあって、日本全体で観光立国へのシフトが加速し、インバウンド向けの観光資源は日本の大きな収入源になりつつあります。しかし、良いことばかりではありません。その一つが観光地のキャパシティを超えた数の観光客が訪れて過剰な混雑が発生する、オーバーツーリズムの問題です。この問題を解消するためにIoTやスマホの活用が注目されています。

インバウンドで地元住人がバスに乗れない秋の京都

2020年の東京五輪開催に合わせ、観光地としての日本への注目度は高まっています。受け入れ側である日本、特に東京ではインフラの整備が急ピッチで進められています。しかし、観光立国の取り組みはそこで終わるものではありません。これからもインバウンド需要を拡大していくために、"おもてなし"は重要な要素です。

オーバーツーリズムはそれを阻む要因です。観光客にとっても地元の住民にとっても、大きな問題をはらんでいます。路上にゴミが捨てられる、夜間でも騒音が絶えない、混雑で身動きが取れない、トイレの数が少ないために行儀の悪いふるまいがあるなど、さまざまな問題が起きてきます。

もともとオーバーツーリズムは、数年前から海外の観光業界で話題になっていました。近年は観光立国にシフトする日本でも注目されるようになっています。例えば、国内外から年間5500万人以上の観光客が訪れる京都では、多くの人が集まる紅葉の時季になると、地元住民たちがバスに乗れないという事態も起きています。

こうした事態に対して京都市が掲げているのが「分散化」です。同市では「観光地の混雑は、特定の季節・時間・場所の3つの集中を緩和する取り組みが必要」とし、(1)繁閑期にイベントを用意する、(2)「朝観光」や「夜観光」を推奨する、(3)来訪者が少ない観光地の魅力を発信する、といった独自の施策を展開しています。

こうした分散化を実現し、オーバーツーリズムを解消する手段として注目されているのが、IoTやスマホの活用です。それらを有効活用することで人の流れを把握し、対策を立て、情報を伝えるといった、観光地の過剰な混雑を回避する試みが各地で行われています。

実証実験が進む交通課題の解消

紅葉の名所として知られ、訪日外国人旅行者が大勢集まる京都・嵐山では、スマホなどのWi-Fiアクセスデータから特定の時間と場所の人出を把握し、時間ごとの混雑状況をサイトで告知するという実証実験が、2018年11月から12月にかけて行われました(※2)。

京都市観光協会が国土交通省近畿運輸局の協力の下で行ったもので、ポイントは特定の日時や場所の観光の快適さを見える化したことです。訪問日、滞在時間、訪問したいエリアなどを選択すると、「観光快適度」が確認できます。観光快適度を踏まえた観光ルートの提案も行い、来訪客を分散させることで、混雑緩和につなげようとしています。

また、富士山では登山者の状況を見える化する実証実験が行われました。消費電力を抑えながら、遠距離通信を実現するIoT向けの通信技術であるLPWA(Low Power Wide Area)を活用することで、センサーによって登山中の人の数を把握してサイトに情報を公開するというものです。

実証実験では、富士山登山口の一つである御殿場口新五合目の登下山道やハイキングコースの5カ所に計測カウンターを設置し、カウントしたデータをLPWAによって御殿場口新五合目の基地局に送信し、そこからLTE通信によってアプリケーションサーバに転送するという仕組みが構築されました。

これまでも御殿場市では、人数カウンターを設置して登山者数を把握してきましたが、そこまで人が登って確認するという作業が必要でした。2017年8月から9月にかけて行われたこのIoTを駆使した実証実験では、30分ごとに状況が更新され、人手を要することなく、詳細な状況を把握できるようになっています。

札幌市では市内観光の課題となっている二次交通(交通拠点から目的地までの交通手段)問題解決のため、「さっぽろ観光あいのりタクシー」の実証実験を2019年1月25日から2月24日の期間で行いました。人流データや宿泊データを基にした札幌市のオープンデータプラットフォーム「DATA-SMART CITY SAPPORO」を基に、観光客が相乗りするタクシーの乗降場所を選定。利用者はWEB(スマホやタブレット)でタクシーを予約するだけ。リアルタイムのAI処理で最適なタクシー車両を配車します。目的の降車場所まで、効率的な乗合運行を実現して、二次交通の課題を解消する実証実験でした。この実証実験の電子決済にNTTテクノクロスも協力しました。また、2019年3月5日~3月28日にも、実証実験第2弾が行われました。

観光立国日本の先駆的な存在である沖縄県でも交通課題解消の取り組みが行われています。沖縄本島の"アキレス腱"は交通渋滞です。島内に鉄道はなく、那覇空港と首里城をつなぐモノレールがあるだけで、移動はクルマ、バス、タクシーに頼らざるを得ないのが実状です。当然、中心部では交通渋滞が起きています。

こうした沖縄で進められているのが、自動走行バスの実証実験です。内閣府が推進する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の「沖縄における自動運転バスの実証実験」として2014年から始まっています。センサーを装備した自動運転バスを走らせることで、公共交通手段を充実させ、渋滞緩和につなげるのが目的です。

小型バスを使って交通量の比較的少ない公道で行われた第1ステップ、都市部の交通量の多い公道での第2ステップを経て、2019年1月からは日本初となる大型路線バスの自動運転という第3ステップの行動実証実験が行われ、1月8日から3月7日までの間に、1日往復6便のダイヤで14日間の運行が実施されました。

同様の取り組みは民間ベースでも行われています。複数のバス会社や通信事業者が協力して、バス乗り場や運行情報、観光情報を、デジタルサイネージやスマホで提供していくというものです。バスの利便性を高め、利用者を増やすことは、渋滞緩和を促します。

スマホでオーバーツーリズム問題を解決

オーバーツーリズムの解消には、スマホによる観光案内が大きな役割を果たします。観光客、特に訪日外国人旅行者の特徴はインターネットの情報をベースに行動しています。メインとして使われているデバイスは、スマホです。どの観光地でもホスピタリティを向上させるためにまず着手するのは、Wi-Fiのアクセス環境を整備することです。これはスマホの利便性を提供するのが目的です。

旅行者はスマホで集めた情報で行動することが多く、ネット上で話題になった場所に大勢の外国人が押し寄せ、オーバーツーリズムに陥ってしまうことは、珍しくありません。しかし、そのメカニズムをうまく使えば、特定の場所と日時に観光客が集中することを防ぎ、逆に観光客が減少しているスポットに観光客を集めることもできるはずです。

例えば、NTTテクノクロスが提供する「かざして案内® for Biz」は、案内看板や建物、商品などにスマホをかざすと、詳細情報などを表示するサービスです。多言語表示にも対応しています。観光地でのイベントで活用すれば、観光客は詳細なタイムスケジュールを把握できるので、最も混む時間帯を避けてイベントに参加することもできます。付近の穴場の観光スポット情報を表示すれば、比較的空いている観光スポットに送客することも可能です。

このようにスマホで観光客に情報を伝え、オーバーツーリズムを防ぐというアプローチは、デジタル時代らしい問題解決方法だといえるのではないでしょうか。

脚注

※1 日本政府観光局(JNTO) 報道発表資料(2019年1月16日)

※2 公益社団法人京都市観光協会 広報発表(2018年10月31日)

※会社名、製品名などの固有名詞は、一般に該当する会社もしくは組織の商標または登録商標です。

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