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情報システム部門はAIブームにどう向き合えばいい?

日本の労働人口の約49%は人工知能に代替可能ともといわれる第3次AIブーム。「仕事が奪われる」と考えるのではなく、AIを使いこなす立場になるために、情報システム部門はどこから手をつけ始めればいいかを紹介しています。

2016年はAIについて何かと話題になる一年でした。現在の第3次AIブームは、「AI革命」とまでいわれており、社会の構造を大きく変えてしまうインパクトがあるだろうと予測されています。野村総合研究所の研究発表によると、今後10年から20年の間に、日本の労働人口の約49%は人工知能に代替可能との推計が出ているようです。

AIの普及によって、消費者の生活が便利になる一方、「仕事が奪われる!」と危機感を煽るような論調も数多く見られます。この波は情報システム部門にもいずれ押し寄せてくることでしょう。

今回は、情報システム部門がAIを使いこなす立場となるためには何から始めるべきなのかご紹介します。

第3次AIブームのおさらい

第3次AIブームは、機械学習(マシンラーニング)や、深層学習(ディープラーニング)といわれる技術により牽引されています。AIにはいろいろな種類がありますが、ビッグデータを解析(学習)することにより、データの特徴や新たな法則性をシステムに発見させ、それらをシステムが取り込み自身で進化していく仕組みを持っています。

機械学習は、人間が定義したポイントを基に、システムが特徴や法則性を見つけ出します。そして、機械学習よりも一歩進んだ技術である深層学習は、法則性を発見するポイントもシステムまかせの技術で、人間を超えるパフォーマンスを発揮するとも言われています。

こういった技術により、大量のデータをシステムに学習させることで、従来は専門家の経験に頼っていた異常検知や異常予測も、システムにより可能となりました。実際、ビッグデータやAI技術を利用した、保守保全システムも稼働し始めています。次に、具体的な事例を見ていきましょう。

ごみ焼却発電プラントでの異常検知

事例1:日立造船ごみ焼却発電プラントでの異常検知

2014年12月より日立造船株式会社は、AI活用によって、ごみ焼却発電プラントの異常検知や、燃料の最適運転を実現する取り組みの開始を発表しました。システムに学習させたのは、長年にわたって同社が蓄積してきたビッグデータです。このビッグデータを、異常検知や異常予測をするシステムに適用しています。これにより、これまで熟練オペレーターが異常発生や対処法を判断していたのに対し、このシステムでは人が気付く前に燃焼の異常を検知することが期待されています。

事例2:Webサーバの異常検知に関する実験

情報システム部門の大きな役割である、サーバやネットワーク機器の異常予知保全に関する実証実験の事例もご紹介しましょう。例えば、システム運用関連サービスを手がけるユニアデックス株式会社は、システム運用の現場を支える熟練技術者の世代交代という問題を抱えていました。そこで、機械学習を活用したデータ分析プラットフォームを使った実験を行いました。

実験の対象となったのは、過去に障害が発生した社内文書検索システムです。サーバの過去ログを学習させ、異常発生時のログデータを自動で判別させたところ、データベースサーバでは、障害が発生する7日前に異常を検知することができました。また、負荷を分散している3台のWebサーバでは、Webサーバに障害が発生する12日前には、異常を検知したのです。

情報システム部門では、AI技術を何に活用していくべきか

では、情報システム部門は、今後どんな分野でAIを使いこなしていくべきでしょうか?活用していくに当たり、何を検討していく必要があるでしょうか?

AIを活用するために必要なことは、第一に「良質なデータ」を取り込むこと、そして第二にそのデータを分析させ、「AIを育てる」ことでしょう。蓄積された良質なビッグデータこそが、企業にとって資産ともいえる、価値あるものだとお気づきの読者の方も多いと思います。

そこで行いたいのが、現在自社にある良質なデータの洗い出しです。もしもデータが十分に蓄積されていないのであれば、将来を見据え、利用できるデータを蓄積することも視野に入れる必要があるかもしれません。

ここでは、企業に眠るデータをどのように活用できるのか見ていきましょう。

情報システム部門が利用しているデータは何か?

一般的な情報システム部門の資産であるデータは次のものが考えられます。

  • 構築済みのナレッジデータベース
  • サーバやネットワークシステムのログ
  • 社内ネット上の各種情報

情報システム部門は、蓄積されたデータを活用し何ができるか?

次に情報システム部門ならではといえる3つの活用案を提示します。

  • 活用案1:ナレッジデータベースを利用したチャットボットの作成

情報システム部門にとって最も削減したいのは、ユーザIDの申請や、機器の設置、撤去申請などの手続きやPCやネットワークなどのトラブルに対する問い合わせの電話対応に使ってしまう時間でしょう。

この問い合わせ対応をチャットボットサービスに移行すると、ユーザはチャットで質問を投げ掛けることで必要な情報を取得することができるようになります。また、情報システム部門も問い合わせの電話対応に割いていた時間を別の業務に費やすことができます。

  • 活用案2:サーバやネットワークの障害予知検知

もしも、自社でサーバやネットワークを管理しているなら、事例2で取り上げたように、システムのログデータが利用できます。ログを機械学習により分析させ、異常検知パターンを発見、学習させることにより、事前の障害検知も可能となります。すると、より担当者への負担の少ない障害対応の体制に変更ができるかもしれません。

まずは、利用価値のあるログを取得しているのか、ログの収集レベルや保持期限を確認することから始めましょう。

  • 活用案3:サイバー攻撃対策

利用を検討したいビッグデータが自社で取得できない場合は、ビッグデータを適用済みの、進化したシステムの導入も検討できるかと思います。例えば、IBMの「Watson for Cyber Security」は、IBMのデータ分析、自然言語処理、機械学習技術である「IBM Watson」を利用した、サイバー攻撃を自動防御するシステムです。

この製品は、2016年12月に三井住友銀行を含む各国の40の組織でベータテストが開始されています。認知されているウイルスやマルウェアのパターンを機械学習させ、新種のウイルスやマルウェアを検知させるのはもちろんのこと、セキュリティ担当者が常に調査しアップデートしている、ネット上の構造化されていないセキュリティ情報も取り込み、サイバー攻撃から自動防御することが可能になります。

AIを活用することで、情報システム部門は次に何をするか?

AIを活用することで現行業務の生産性を上げ、新たな時間を生み出したならば、情報システム部門にはこれまで手が回らなかった上位レイヤーの仕事に取り掛かれることが期待できます。

上位レイヤーの仕事とは、社内に新技術の利用の可能性を説明し、取り入れた場合に予想される、新たな企業価値を提示していくことが考えられます。

例えば、先の記事「"情シス不要論"は本当?これからの情報システム部に求められる役割とは」でも紹介した他部署とのコラボレーション事例として、新たな技術を取り入れることによりどんなことが可能となってくるのか、いくつか具体例を見ていきましょう。

事例3:ForeSight Voice Mining

NTTソフトウェア株式会社の「ForeSight Voice Mining®」は、自然言語処理技術を利用した、音声によるビッグデータを分析するソリューションです。日々、カスタマーサービスに寄せられる膨大な音声データを、高度な音声認識技術により瞬時にテキストデータに変換し、データベースに蓄積していきます。テキストに変換されたその通話から抽出されたキーワードを利用し、過去に蓄積されたデータから最適な回答候補をオペレーターの画面に表示するのです。

これにより、サービスを熟知していない新人のオペレーターでも、熟練のオペレーターと同等の対応が可能になります。また、「顧客の声」は、経営陣にまで伝わらずに埋もれてしまうことがあります。ForeSight Voice Miningの定量的・客観的な顧客音声データの分析では、思わぬ経営課題を発見することも可能です。埋もれてしまっていた課題に対応することにより、売上や顧客満足度の向上、業務効率の改善を図ることができる好例といえるでしょう。

事例4:日本生命のプロモーション効果分析

次に、株式会社NTTデータの自然言語処理技術を利用した「なずきのおと」には、「そとのおと」というSNS上のデータを分析する機能があります。こちらの機能を使った事例を紹介します。

日本生命保険相互会社は、広告やキャンペーンの若年層への効果を測定するため、SNS上での反応を調査しています。「なずきのおと」導入前は、ともに「日生」の文字を持つ、「日生劇場」と「日本生命」とを区別することや、単語の解釈を文脈から行うことが不可能でした。ところが、本サービス導入により、本来分析するべきデータのみを、発信者の文脈通りに受け取ることができるようになったといいます。

これにより、広告やキャンペーンの効果の現実的な測定が可能となりました。また、効果の上がりそうな次の施策を、測定結果から導き出すこともできるのです。

こういった新技術を利用したビジネスソリューションの導入は、それを必要とする各部門が考えていくべき事柄かもしれません。しかし「AI技術は玉石混交」といわれています。そんな中、どういった技術が利用可能で、どこに利用価値のあるビッグデータが転がっているのか。何を利用するのが自社にとってリーズナブルであるのかの見極めは、情報システム部門による技術的な面での手助けが必要となってくるでしょう。

AIを取り入れるためにはどこから手をつけるべきか

AIを取り入れるためにはどこから手をつけるべきか

では、情報システム部は、どこから手をつければいいのでしょうか?

将来の社会像のイメージを持つ

一般社団法人 人工知能学会では、人工知能が社会に与える影響についてのセミナーやシンポジウムが開催されています。具体的な将来の社会像を持つために参加すると、今何をするべきかが見えてくるかもしれません。

常に情報を収集すること

技術的に先行している企業の発信する情報やサービスには、常に意識を向けておくことが重要です。NTTグループのcorevoやIBMのWatsonなどがあります。また、Google Cloud PlatformTMサービス、Amazon Web ServicesTM、Microsoft®Azureでは、クラウドサービス上での、ビッグデータ分析関連ツールや、機械学習機能など、彼らが開発した人工知能技術を利用することができます。無料トライアルを、調査目的で利用をすることも情報収集に役立つでしょう。また、関連ベンダーによる無料のツール体験セミナーへの参加も情報収集の役に立ちます。

関係者と話をする

それから関係のあるベンダーの担当者と話をすることも必要かもしれません。ベンダーが今後どのように動いていくのか、彼らの持っている最新技術は何か。それらと自社の特性との関係性も見極めていく必要があるでしょう。

正解でなくてもロードマップを作る

テクノロジーの進化は激しいので、次に何が起こるのかについて予測するのは誰にとっても困難です。それでも、新技術をどう取り入れていくのか自社のロードマップを作ってみましょう。

最後に、技術にはいつもイノベーションのジレンマによる落とし穴があることは常に意識しておくべきでしょう。安定した、優良な市場を持つ者ほど、現状を破壊するイノベーションを避けるあまり、気が付いたときには、新技術の対応に大きく後れてしまっていた。ということもあり得るのです。冷静な情報収集を意識的に行い、新技術にどう対応するのかを常に考え、議論していくべきでしょう。

参考:

※文中に記載した会社名、製品名などの固有名詞は、一般に該当する会社もしくは組織の商標または登録商標です。

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