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R5年度版情報通信白書 ~高速化技術とクラウド 第6回~

R5年度の情報通信白書を読み解きながら将来のネットワークについて考えてみました

NTTテクノクロスの山下です。今回は2023年7月に総務省が発行した「令和5年度版情報通信白書」から、今後の通信について考えたことを書いてみます。

情報通信白書とは

情報通信白書とは、総務省が毎年発表している情報と通信についての報告書です。

「情報通信の現況及び情報通信政策の動向について国民の理解を得ること」を目的としています。

昭和48年から毎年発行されており、令和5年7月に発行されたものが51回目の刊行となっています

R5版情報通信白書概要

情報通信白書は、大きく分けると2部に分かれ、トータルでは5章におよぶ、割と大きな読み物です(PDF版で300ページを超えています)

情報通信白書の構成を簡単に解説します。

1部は、その年に特化したことが「特集」として50ページ程度にまとめられています

2部は、情報通信に関する様々なデータ(トラフィック量や、クラウド事業の売り上げ規模、5G人口カバー率などの具体的な数値)と、日本政府の情報通信政策で構成されています


例えば、その年に特化したトレンドについて知りたければ第1部を読む。毎年気にしているデータや政府の政策を読むのであれば第2部を読むといった読み方ができそうです。

とはいえ、とても大きなドキュメントではあるので10ページほどでまとめたものが概要として公開されています。時間がない方は、こちらを眺めてみるだけでも有用だと思います。

図1.情報通信白書の構成(データ集などは除く)

「特集」である第1部は「新時代に求められる強靱・健全なデータ流通社会の実現に向けて」というタイトルでした。

現代社会における生活の多くの部分がインターネット上のサービスを利用・依存する部分が多くなっており、それがゆえに故障や障害発生時の影響も甚大となるため、より「強靭」なインフラの整備が求められることを中心に記載されていました。また、SNS上のフェイクニュースや誹謗中傷などの課題についても言及されており、これらを克服して「健全」なデータ流通が行われることが望ましいとも書いてありました。

これから成長が見込まれる成長分野の技術として、第1部第3章では

Web3、メタバース・デジタルツイン、生成AI

について動向が記載されており、個人的に興味深かったです。以下に、自分なりに注目したポイントを2つご紹介します。

注目ポイント1:将来の通信量増加予測

まず1点目は通信量増加傾向についてです。 図2に第4章第2節にある「インターネットトラヒックの推移(固定系・移動系、ダウンロードトラヒック)」を引用します。

私が2021年にブログをはじめて書いたブログでも通信量の増加傾向については触れましたが、通信量の増加傾向は変わらず、というよりか一層増えているようにも感じます。この点について、情報通信白書では「我が国の固定系ブロードバンドサービス契約者の総ダウンロードトラヒックは、新型コロナウイルス感染症の発生後に急増した。」と述べています。新型コロナウィルスに基づく緊急事態宣言発令は2020年1月31日でした。コロナウィルスによるリモートワークの増加・拡大が固定系トラフィックの増加に大きく影響を与えていると読めます。

情報通信白書からのデータ引用

図2.インターネットトラヒックの推移(固定系・移動系、ダウンロードトラヒック)

注目ポイント2:低消費電力化が求められている

2番目のポイントは情報通信インフラの省電力化についてです。白書の第3章第2節には以下の文があります。

「特に、地球温暖化等の環境問題が深刻化する中、情報通信インフラの省電力化が課題となっており、電気通信と光通信を融合させることでネットワークの高速化と大幅な低消費電力化を実現する光電融合技術を活用したオール光ネットワーク技術*14が注目されている。」

NTTグループでは、「排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする」を意味するカーボンニュートラルを環境目標としており、それを実現する技術としてのIOWN(アイオン)に期待が高まっています。 IOWNについては、関連する国際的な実験や協力に関するニュースも多く、日本だけでなく世界的にも注目されています。
<関連ニュース記事>
「IOWN」、日米英で実験へ NTT、データ拠点連携(共同通信) - Yahoo!ニュース
NTTと中華電信、IOWNによる国際ネットワーク接続の実現に向けた基本合意書を締結 | ニュースリリース | NTT (group.ntt)
NTTのIOWN技術仕様が国際標準化へ、ITU-Tで公的標準策定の推進へ合意

ネットワークの低消費電力化におけるメリットには以下のようなものがあると思います

A)エネルギー価格高騰による経費圧迫を低減化できる(あるいは、エネルギー価格変動の影響を減らすことができる)

B)将来のエネルギー関連の法規制が登場する可能性

C)環境にやさしい企業であるという企業イメージの獲得

環境問題やエネルギー高騰、通信量の増大は日本に限らず世界共通の課題なので、低消費電力で高速大容量なネットワークを構築することも世界的にも求められているのではないかと推察します。

ネットワークの低電力化へのアプローチ

前のセクションで述べたように、電気通信事業者には以下のような課題があります。

1)通信量は、これからもどんどん増える
2)一方、サーバ機器も同様にネットワーク機器の電力消費も低電力化が求められる

これを実現するには、複数のアプローチが考えられます。

アプローチ1)IOWNが提唱するAPN(All Photonics Network)

アプローチ2)既存のネットワークを大容量化・低電力化する

それぞれについて検討してみましょう。

図3.未来のネットワーク実現のための2つのアプローチ

アプローチ1)IOWNが提唱するAPN(All Photonics Network)

弊社ブログでも、カーボンニュートラルとIOWNに関するブログをいくつか投稿しています
<関連ブログ>

カーボンニュートラルとIOWN 第1回~NTTの環境目標の実現への取り組み~ | NTTテクノクロスブログ (ntt-tx.co.jp)

カーボンニュートラルとIOWN 第2回~NTTの環境への取組み~ | NTTテクノクロスブログ (ntt-tx.co.jp)

IOWNは、APN(All Photonics Network)、DT(Digital Twin)、CF(Cognitive Foundation)の3つの要素で構成されます。IOWNによりどのように環境負荷が低減できそうかは、上記のブログに詳しく書いてあるので、本記事ではネットワークの大容量化・低消費電力化に寄与度が高いと予想できるAPNに特化して検討していきます。


APNの目標性能は以下の通り。
  • ・電力効率を100倍
    • ネットワークから端末までできるだけ光のまま伝送する技術と光電融合素子という新しいデバイスの導入を検討しています。
  • ・伝送容量を125倍
    • マルチコアファイバなどの新しい光ファイバを用いた大容量光伝送システム・デバイス技術の導入を検討しています。
  • ・エント・ツー・エンド遅延を200分の1
    • 情報を圧縮することなく伝送するなど、さまざまな新技術の導入を検討しています。
    • ⇒2023年3月サービス開始の「IOWN 1.0」で目標達成済み

これまでも伝送路には光が使われていましたが、それをより高度化したり、デバイスそのものの処理に光を使うことにより低電力化・大容量化を行うようです。

図4.IOWNの特徴(出展 NTT)

IOWNによりネットワークの低電力化・大容量化は進みそうです。ただ、IOWNは、まだ始まったばかりです。ロードマップとしても2030年が視野に入っており長期的な取り組みだと考えます。
では、APN以外にネットワークの大容量化・低電力化の手立ては全くないのでしょうか?アプローチ2では、既存のネットワークにおける大容量化や省電力化について検討してみます。

図5.IOWNのロードマップ(出展 NTT)

アプローチ2)既存のネットワークを大容量化・低電力化する

既存のネットワークは全く低電力化する方法はないのでしょうか?そんなことはありません。

低電力化には様々な手法がありますが、ここでは、パケット処理を行うネットワーク機器(あるいはサーバ)に着目して低電力化について考えてみます。

以下の表のNo.1, No.2は、1台の機器のパケット処理能力を高めることです。1台の処理能力が高まれば、例えば、それまで5台で処理していたものを1台で処理できるようになれば単純に4台分の電力が削減できます。

※処理能力を高るために新たなリソースを追加したりするので、正確には、単純に4台分の電力削減にはならない可能性もあります。

No.3は、パケット処理が忙しくないときに、CPUコアのクロック周波数を下げたり、CPUをスリープ状態にすることにより消費電力を削減する方法です。

No.1~3は、仮想化されていない機器にも適用可能です。

No.4は、トラフィック量が増えてきたら機器の台数を増やすオートスケーリングの採用です。ソフトウェアが仮想化されている必要がありますが、トラヒックが少なければ台数を少なくできるため、省電力。トラフィックが増えてきたら台数を増やしてトラフィックに対応できるためサービス品質の低下を防ぐことができます。

                              表1.低電力化の手法

分類 No. 手法 参考
同一処理においてCPU利用効率化を高める 1 DPDKを利用して、カーネルバイパスにより無駄な処理を省略(1台のサーバでのパケット処理効率が従来に比べて高い) NW高速化技術比較(後編)
2 SmartNICを利用してハードウェアオフロードにより処理最適化(同上) SmartNIC ~DPDK入門 第15回~
ソフトウェア側で処理量を判断することによって電力消費量を抑える 3 トラフィック量に応じてアプリケーションレベルからCPUをsleepしたり、CPUのクロック周波数を変更することにより消費電力を抑える DPDK Power Management
4 オートスケーリング(トラフィック量に応じて機器の台数を変更する)



図6.既存ネットワーク省電力化の一例

上の図は、手法のNo.1~4を組み合わせて利用して低電力化を行うイメージです。実際には、システムによっても低電力化の効果が異なったりする可能性がありますが、低電力化の手段は用意はされています。

今回は、情報通信白書の読み方から、これからのネットワークに求められる大容量化・低電力化について検討してみました。
DPDKについては「DPDK入門」として詳細をブログ公開しておりますのでご興味をお持ちの方はご訪問ください。

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山下 英之
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フューチャーネットワーク事業部 第一ビジネスユニット
山下 英之(YAMASHITA HIDEYUKI)