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組織を強くするための「見える化」【後編】

強い企業、組織で有り続けるためには、PDCAサイクルを回し、「カイゼン」を続ける必要があります。企業のカイゼン活動を支援する「見える化システム」をどのように構築すべきか、使い続けていくための重要なポイントは何か、について紹介します。

強い企業であり続けるためには、ビジネス上の問題点を常に明確にして、全社的にPDCAライフサイクルを回し「カイゼン」し続ける必要があります。しかし、企業の戦略・戦術・アクションプランのゴールとなる達成目標を設定し、その達成目標に対する進捗度合いを「見える化」していても、いつの間にか使われないシステムになってしまっていることはないでしょうか。

前回 は、企業の戦略・戦術・アクションプランに基づいた進捗度合いを「見える化」する必要があるとお伝えしました。財務、顧客、業務プロセス・・・・などといった切り口の中から評価指標(KPI)を設定し、そのデータを企業内から収集してくる必要があります。しかし、該当するデータをそのまま集めて表示しているシステムでは、いつの間にか使われなくなってしまうことが多いようです。
そのようなことを防ぐため、今回は「見える化すべきデータはどこにあるのか?」、「データを『情報』に変えるにはどうしたらよいか?」についてお話したいと思います。

Yellowfin

1.見える化すべきデータは、どこにあるのか

意味のある情報とは

使われ続ける「見える化システム」を実現するためには、本当に必要な情報を、本当に必要な時に、本当に必要な部門(人)が見えるようにしていく必要があります。

「ERPのデータを有効活用したい」という話を良く耳にしますが、ERPに蓄積されているデータを単に表やグラフで表示するだけでは真の「見える化」にはなりません。ERPには売上などの財務KPIのデータが格納されています。しかし、ERPに格納されているデータは既に完了している「過去」のデータです。PDCAライフサイクルを回すためには、過去のデータではなく、途中のプロセス、たとえば営業中の案件数や生産数・在庫数といったデータを見ることが必要であり、このデータを見て、事業の方向性を確認する必要があります。この場合は、ERPデータと営業管理データと生産データのように、企業に散在している複数のデータを集めて「見える化」しないと、意味のある情報とはならないのです。

しかし、これらのデータが全てシステム化されているとは限りません。会計情報はシステム化されている場合が多いですが、営業情報は表計算ソフトなどで管理しているなど、現場で使われているデータはシステム化されていない場合もよく見られます。

企業内に散財するデータをそのまま見ても意味ある情報にはならない

多段階で重複が多い現場のデータ管理

次に、これらのデータを入力している子会社や拠点、部門に目を向けてみたいと思います。 本社や本部に報告するデータを作ることに多くの労力を費やしてしまい、本当に自分たちに必要な分析はできていない、という話をよく耳にします。

現場では、各担当者からチームマネージャ、さらには部門マネージャ、拠点のマネージャへと何段階もの報告が行われます。その際、組織の階層ごとにデータを集め、精査して、一つ上の階層に送るという作業が繰り返されることにより、本社や本部などのマネジメント層にデータが到達するまでに、1週間~1ヶ月の時間がかかってしまいます。組織が大きくなるほど、大きなマネジメントのタイムラグとなってしまいます。

見える化のための3つのステップ

さらに子会社や拠点、部門では、本社や本部への報告用とは別に、自部門の業務管理のために、独自の帳票を作って分析していることもよくあります。
本部用と部門独自用の管理をするということは、データの管理、分析、集計などの作業も二重化されているということです。

このように、企業の現場ではさまざまな報告業務や、自業務のPDCAのために、さまざまなデータ集計や分析を実施しています。しかも、多くの場合、これらの作業を手作業やExcelマクロを駆使して行っているため、部門間でタイミングや精度の問題で不整合が起こり、その都度人の目によりデータを精査しなくてはならない、ということが起こっているようです。

もっとスピーディーに効率的に社内のデータを活用する方法はないのでしょうか。次に、社内に点在するデータをどのように「情報」へと変えていけばよいかについてお話します。

2.データを情報に変えるポイント ~データの整合性を保つ~

各部門から集めたデータをそのまま画面表示しても意味のある「情報」とはならない、という話を述べてきました。マネジメントが事業の方向性を判断する際には、少なくとも「部門別」「セグメント別」「拠点別」など、傾向や問題を発見できるようにさまざまな切り口で集計・分析できる必要があります。一言で、「部門別」「セグメント別」「拠点別」などに集計・分析するといいましたが、実際はなかなか簡単にはいきません。なぜなら、企業内では、実は組織毎での評価尺度・単位が異なっている、ということがしばしばあるからです。いくつか例を紹介します。

  • 本社と子会社で事業セグメントの定義が異なっている
  • 販売部門、製造部門間、あるいは店舗間で製品コードや商品カテゴリコードが異なっている
  • 複数のシステムに似たような名称のデータが存在する

実際、数年前に弊社で「見える化システム」を導入した際も、「売上」という定義一つとっても、営業部門、開発部門、経理部門で意識している数字や売上を認識するタイミングが違っていました。同じように、営業拠点によって「受注確度」の判断基準も曖昧でした。しかし、正しい経営判断をするためには、このようなデータの解釈を共通化し、見える化する際に採用するデータ項目をきちんと定義する必要があります。

ただし、全てを統一して全社が全く同じコードや指標で判断するということも現実的ではありません。1つのデータを、全社統一コード・基準でも、部門や拠点独自のコード・基準でも柔軟に適用できないものでしょうか。

3.「見える化」を実現への、効果的なICT活用法

見える化のための3つのステップ

「見える化イコールICTを導入すること」ではありませんが、ICTを有効に活用することにより、スムーズに、タイムリーに見える化を実現できます。「見える化」を実現する際に、ICTは大きく3つの場面で効果を発揮します。

【データ収集】

EAIという技術により、企業内に存在する複数のデータを自動で定期的に集め、データベースに格納することが可能となります。元となるデータは必ずしもデータベース化されている必要はなく、従来から活用しているExcelファイルでも問題ありません。

データを集める途中で、変換テーブルなどを使ってコードを統一したり、共通化されたデータ定義に変換したりすることが可能です。あわせて部門独自のコードを残すことも可能です。また、他のデータとの整合性を確認することにより、いままで自視で実施してきた「精査」も自動で実現可能となります。

【データ蓄積】

集められたデータは大容量データベースに格納されます。データベースには何年分ものデータが蓄積されますので、前年、前々年との比較や、年間の月別、日別の値の推移などに活用できます。

【データ集計・分析】

集計にはBIツールを活用します。BIツールの機能により「部門別」「セグメント別」「拠点別」など自由な軸で瞬時に集計できます。そして、マネジメントや現場担当者自らが自由に集計し結果を表やグラフなどを使ってビジュアルに確認したり、定期レポート化して公開することが可能となります。

さらに、目標値や閾値を設け、その値を超えて(下回って)いたら、数値を赤で表示して注意を喚起したり、さらにはEメールなどを活用してマネジメントや担当者に対しアラートを発行することも可能です。

見える化のための3つのステップ

このように、ICTを活用することにより現場におけるデータ収集、精査、レポート作成といった部門の各階層で発生する手作業を削減し、同時にコードの統一やデータの変換を行いデータベースに蓄積することにより、「部門別」「セグメント別」「拠点別」など経営判断に必要な集計、レポートを実現することが可能となります。

「見える化」のスモールスタートは可能

冒頭、「強い企業であり続けるためには全社的にPDCAサイクルを回す必要がある」「PDCAサイクルを回すには見える化が必要である」と述べました。このことから、「見える化」システムは全社なシステム再構築を伴う大掛かりなものと考えがちです。しかし、ICTを導入することが「見える化」ではなく、ICTは「見える化」のために活用するものです。すべてシステム化されてなく、手作業の部分が残っていても問題ありませんし、システム化されない方が効率が良い場合もあります。

「見える化」の初期ステップでは、たとえば、一番売上が高く、品目が多いセグメントにのみ導入する、損益に直結する在庫の情報のみを「見える化」するなど、導入効果が高い部分に導入し、「見える化」の効果を実感し、徐々に範囲を広げていった方が良いと感じます。

4.永続的な「見える化」実現に向けて

企業の戦略・戦術・アクションプランのゴールとなる達成目標を設定し、その達成目標に対する進捗度合いを「見える化」するためのシステムを構築しても、時が経つにつれて形骸化してきてしまっているということも聞きます。私は、2つの原因があるのではないかと考えています。

1つは、「見える化」されているデータが事業環境の変化に追従できていないのではないか、と言うことです。追従できない原因は幾つか考えられますが、タイムリーに「見える化」システムを変更できるようにするためには、「評価指標は変更されるもの」として、指標の変更に柔軟に対応できるような設計をしておくことが重要です。今まで見えなかったことが見えるようになると、更なる課題(評価指標)が出てくるのが通常です。そのため、見える化システムでは特に柔軟性が重要になります。

もう1つは、「見える化」が会社全体、組織毎、そして個人個人のPDCAのプロセスに組み込まれていないのではないか、と言うことです。今回、「組織を強くするための見える化」と題して述べてきましたが、「見える化」システムとは、経営者が迅速かつ効率的に経営判断のためだけのものではありません。それと同じくらい、部門やチームのデータを「見える化」して、従業員個人が自己の目標に何処まで達しているのか?どれくらい足りないのか?を確認し、モチベーションを高め自己改善していくためにも使われるべきだと考えています。

従業員の多くは、自己の活動が会社の戦略にあっているのか、自己の活動が評価につながるものなのかがわからなくなっている状態です。従業員一人ひとりの活動によって強い企業を作り上げていくことをサポートするのが、真の「見える化」の目的だと考えています。

Yellowfin

著者プロフィール
中島 陽子
中島 陽子

NTTテクノクロス株式会社