カーボンニュートラルとIOWN 第4回 ~NTTテクノクロスのIOWNへの取組み~
今回はNTTの環境目標達成に関わる取組みとして, NTTテクノクロスのIOWNに関する取組みをご紹介したいと思います。
はじめに
こんにちは, NTTテクノクロス株式会社の村木と申します。
今回はNTTの環境目標達成に関わる取組みとして, NTTテクノクロスのIOWNに関する取組みの一部をご紹介したいと思います。
IOWNの3つの要素であるAPNとDTCとCF, および付随するコンピューティング領域について記載します。
○目次
APNへの取組み
○ネットワーク制御基盤技術開発
既存ネットワーク, 更にはIOWNのAPNにおけるNW制御の基盤となる技術であるネットワーク制御基盤技術について紹介します。
こちらは本連載の第3回でご紹介しているため概要のみ以下に記載いたします。
(出典:NTT)
NTT東日本/西日本の提供する固定網設備を効率的に制御することを目的としたNTTの研究開発です。
以下の3つの特徴があります。
・リソースプール化による加入者高収容化
従来, 利用効率が低水準であった収容装置のリソースを一元管理し, 広範囲のユーザを効率的に収容することを可能としました。
・迅速なサービス復旧
従来, 大障害時のサービス提供停止に課題があったが, 災害時に提供可能な別リソースへの収容替え制御によって迅速なサービス再開を可能としました。
・多様な装置への制御の容易化
従来, 機種差分によってマルチベンダでの加入者収容に課題があったが, 装置ごとの設定をプラグインモジュール化し収容識別情報の変換ロジックを柔軟化することで多様な装置への制御を容易にしました。
※参考
ネットワーク制御基盤技術開発については以下のページが参考になります。
○APNコントローラ開発
NWコントローラ開発で培った技術を活かし, 高速大容かつ極低遅延APNサービスの提供と運用高度化/自動化に貢献するAPNコントローラ開発について紹介します。
(出典:NTT)
NTTはAPNコントローラ(以降APN-C)はAPNの管理運用とAPNを活用したサービス提供の普及拡大を目的として開発を進めております。
以下の2つの機能をご紹介します。
1. APN制御機能
APN制御(E2Eパス設定)技術はOpenROADM対応機器を含むAPN-Tを両端点とするE2Eパス設定に向けて以下3つの機能を提供します。
1-1. APN-Tプロビジョニング
APN-TとAPN-I/Gをシームレスに接続することを目的としたE2Eパス自動接続システムです。
パスごとのパラメータチューニングや, クライアント側に合わせてライン側の速度を柔軟に変更する速度変換を実現します。
1-2. 付加価値機能の拡張対応
APN-Cが制御すべき端末のバリエーション追加に容易に対応できるコントローラシステム構成技術の検討です。
付加価値機能群の制御シナリオの明確化, OpenROADMによる制御実装方式の検討等を実施しています。
1-3. APN-I/G制御
APN-I/G制御としてNE-OpS連携を含めた中継伝送区間(APN-I/G)のパスごとの波長割当て技術を活用します。
中継区間での障害発生時に迂回ルートの動的なパス設定を可能とします。
2. APN運用・インテリジェント機能
マルチベンダ・マルチキャリアネットワークにおけるE2Eでの運用を実現するための機能であり, 以下5つの機能を含みます。
2-1. 高解像度ネットワーク情報収集
テレメトリや後述するE2E試験エージェントを用いた情報収集により, きめ細やかで能動的な保守対応を実現する技術であり, 2つの要素技術から構成されます。
2-1-1. アダプティブ情報収集拡張技術
大容量なデータを高速に収集することを特徴とした技術であるテレメトリを活用し, 波長レイヤ(伝送レイヤ)における各種情報を従来よりも10〜20倍短い時間粒度で収集し活用することが可能となります。
また装置やネットワーク状況に合わせてデータ形式や頻度・送信先を能動的に切り替えることで高効率な情報収集も実現します。
(出典:NTT)
2-1-2. E2E試験情報収集技術
ユーザ拠点に配備可能な試験エージェントを用いて試験パケットをやり取りすることで各種試験や導通性・通信遅延等の情報収集を行います。
ホワイトボックススイッチ(WBS)やルータ, RaspberryPiのような小型端末等で動作します。
特にWBSの場合は, APN-Cを介することでエージェントの自動デプロイや細やかな試験制御が可能です。
2-2. 設備紐付け・構成情報管理
従来運用において手動管理が中心で課題となっていた構成管理を, 管理が複雑となるAPN向けに精緻化・システム化することを目的とした技術であり, 2つの要素技術から構成されます。
2-2-1. ベンダまたがり構成関連付け技術
対向区間の光入出力解析によりAPN-T〜APN-G区間やルータ〜ROADM間など複数ベンダのネットワーク装置にまたがる区間について常に正しい構成情報を提供します。
2-2-2. 波長パス開通時連動試験技術
APN開通時に波長パスに紐付くサービスを自動特定して疎通試験を同時実施することでサービス接続性を確実に担保することができます。
2-3. マルチベンダ警報処理
複数ベンダから構成されるネットワーク構成においても、従来のシングルベンダのみのネットワーク構成と同等の保守・運用性を提供する技術です。
複数ベンダから構成されるネットワークの場合はE2E情報を一元的に集約・解析する主体が存在しないため, 故障発生時の真の要因の切り分けが困難になる課題があります。
本技術は故障発生時にAPN-Cが収集・管理する構成情報と警報情報とを瞬時に関連付けることにより, E2Eでの原因警報・波及警報の特定を実現します。
2-4. サービス・波長レイヤ相関分析
サービス・波長レイヤにまたがる種々の装置・ネットワーク情報を分析することにより平易かつ迅速な保守・運用を実現する技術であり, 2つの要素技術から構成されます。
(出典:NTT)
2-4-1. レイヤまたがり影響分析技術
サービス・波長両レイヤの収集情報/網構成情報を関連付けることにより, 故障の影響がその上位のサービスレイヤのどのユーザ通信に影響を与えているかを明確にして影響・り障把握を実現します。
2-4-2. レイヤまたがりサービス影響区間特定技術
サービス・波長レイヤ双方のデータ変動の相関分析を行うことで影響区間特定を正確かつ迅速に行うことを可能とします。
2-5. 光プロアクティブ保守
光学デバイスのモニタリングと光学的測定により予防保全をめざした技術であり, 以下3つの要素技術から構成されます。
2-5-1. APN-I/G内部の光学デバイスの劣化具合推計と故障時期の予測
光の経路に沿った連続的モニタリングと時系列的な外れ値解析を組み合わせることによって, APN-I/Gノード内光学デバイスの劣化を推計・故障時期を予測します。
2-5-2. インサービスでの光信号(波長)品質の推定
APN-I/Gノードで光信号の分岐を実現し, DSPの未使用機能(OSNR測定、CD推計、DGD測定など)を利用することで, 信号速度や変調方式に依存せず任意区間での光信号品質を推計します。
2-5-3. APN-I/Gによる伝送路〔光信号(波長)の通るトンネル〕の品質推計
APN-I/Gによる入出力光レベルの監視機能の高分解能化・高頻度化や伝送路ファイバ監視機能の実装と解析技術を開発し, 所定の区間での波形歪み・光雑音が所望の範囲内であることを推計します。
○セキュア光トランスポートネットワーク技術
こちらも本連載の第3回でご紹介しているため概要のみ以下に記載いたします。
NTTはAPNの特徴を活かしながら継続的な安全な運用を可能とするため「セキュア光トランスポートネットワーク技術」の研究開発に取り組んでいます。
APN-Tなどの2地点間の通信に対して量子計算機時代でも安全とされる暗号化機能を付加するものです。
(出典:NTT)
○DCI(Data Centric Infrastructure)
DCIコントローラソフトの開発, 万博向けDCI検証・開発に貢献するDCIについて紹介します。
DCIはAPNの高速・大容量といった特徴を生かしたNTTの新たなICT基盤です。
現在のICT基盤が抱える課題は以下のとおりです。
・スケーラビリティに対する課題
ICT基盤は大量の問合せ応答や大規模なデータ処理など様々なデータ処理に対応する必要があり, またイベント開催などに起因して急激にデータ処理要求が増加することがあります。
現在のICT基盤はこうした要求の変化に柔軟に対応するスケーラビリティが求められています。
・パフォーマンスに対する課題
仮想空間におけるデータ処理や金融における高速なトランザクション処理など, 応答時間に厳しい要件を持つデータ処理が存在します。
現在のICT基盤はこうした高い要求条件に対して特にデータ転送の観点で課題があります。
・エネルギー消費に対する課題
現在のICT基盤では様々なボトルネックが存在しており, 例としてデータ転送がボトルネックの場合にCPUはデータ転送の待ち合わせに多くのリソースを消費します。
また, GPU(Graphics Processing Unit), DPU(Data Processing Unit)といったCPUとは異なる得意分野を持ったアクセラレータへの処理分担が一般化しています。
計算リソースの効率的な活用や適切な役割分担はICT基盤全体の電力効率最適化を実現します。
こうした課題に対処することを目的としてIOWN Global Forumが提案する新しいICT基盤のアーキテクチャがDCIです。
(出典:NTT)
DCIはOpen APNのネットワーク環境を前提として各アプリケーションに対して「プログラマブルなエンド・ツー・エンドのデータパイプライン」を提供し, 各アプリケーションの機能を実現させます。
・Open APN
さまざまな拠点間を光波長パスでダイレクトに接続することを可能としたネットワークで, IOWN Global Forumによってアーキテクチャの提案がされています。
大容量かつ低遅延である特徴を活かして, ネットワーク上の機器/装置間の距離や場所によらずすぐ近くにあるようにデータを転送することを可能とします。
・データパイプライン
様々なアプリケーションが要求するデータ処理等の機能を実現する統一されたストリームです。
データの取得/解析/分析/表示/蓄積といったアプリケーションの機能を実現するためのリソースを抽象化して表現します。
下図は監視カメラの映像をメタデータを基に集計・分析するシステムのデータパイプラインの例です。
(出典:NTT)
・データパイプラインの実現
データパイプラインの構成要素を以下に記します。
・ホストボード
一般的なサーバにおけるマザーボードに相当。
・機能カード
ホストボード以外のNIC/GPU/DPU/SSD等の部品に相当。
・DCI物理ノード
「ホストボード」と複数の「機能カード」を組み合わせたもの。
・ノード内インタコネクト
DCI物理ノード内でホストボードと機能カードを接続するもの。
・ノード間インタコネクト
DCI物理ノード間を接続するネットワークで一部の機能カードは直接このノード間インタコネクトにアクセスできます。
・DCIクラスタ
DCI物理ノードを複数集めて構成される計算インフラ。
・DCIゲートウェイ
DCIクラスタ間を接続するゲートウェイにあたり, 他のDCIクラスタとOpen APNで接続されます。
上記のようなDCIクラスタによってアプリケーションごとにデータパイプラインを実現する仕組みとして, DCIクラスタ内の機能カードやホストボードをピックアップして, 論理サービスノード(LSN:Logical Service Node)を構成します。
データパイプラインの構成例は下図のとおりです。
DCI物理ノードやDCIクラスタをまたがった柔軟なデータパイプラインを設定できることがDCIの特徴となります。
(出典:NTT)
○移動固定融合(O-RAN/OREX)
次期基地局アーキテクチャであるO-RAN/OREXの導入や付加価値向上へ貢献する移動固定融合について紹介します。
・O-RAN(Open RAN)
無線基地局の仕様をオープンかつ標準化することにより, まざまなベンダの機器やシステムとの相互接続を可能とする無線アクセスネットワーク(RAN)のことです。
(出典:NTT docomo)
オープン化によって以下のようなメリットが生じます。
・サプライチェーンリスクの低下
ベンダロックインの解消によりさまざまな国や地域で柔軟な無線アクセスネットワークの構築が可能なります。
・適正価格
新規ベンダの参入機会が広がることによって機器の高止まりを防ぎ, また汎用サーバーの活用などによりコスト低減につながります。
・品質向上
ドコモのノウハウを活用して各ベンダの強みを融合させたマルチベンダ接続の仮想化基地局(vRAN)によって安定した通信環境を提供します。
真のOpen RAN実現に向けて以下のステップをおいています。
・STEP1:フロントホールのオープン化
NTTドコモではO-RAN ALLIANCE準拠のインターフェースを用いた専用ハードウェアで複数ベンダのRUとCU/DUの相互接続を実現しました。
また, 2020年3月に世界ではじめて全国規模でOpen RANの5Gサービスを開始しました。
・STPE2:仮想化
STEP1で培ったノウハウを活かし, よりオープンな仮想化基地局の検証を進めています。
海外の通信事業者の多様なニーズに柔軟に対応できるだけでなく, 通信事業者要望ごとに最適なRANをパッケージ化し導入から運用まで責任を持って提供します。
・STEP3:インテリジェント化
より複雑化するオペレーションに対してAIなどが基地局を自動制御することでRANの最適化を図り, 通信品質のさらなる向上や運用コスト低減を実現します。
・OREX®
NTTドコモと多様なグローバルベンダが連携して提供するOpen RANサービスブランドです。
Open RANの導入から運用までに必要なものをすべて揃えた3つのOpen RANサービスを「OREX Packages」として, 世界各国の通信事業者へ提供します。
・OREX RAN
さまざまなベンダ製品を組み合わせることが可能となるOpen RANの特徴を活かしたコストパフォーマンスの高い基地局を提供します。
・OREX SMO
無線アクセスネットワークの運用業務に加え, ネットワークの最適化の自動化機能を統合したO-RAN ALLIANCEが規定する標準仕様に準拠したソフトウェアを提供します。
・OREX Service
「OREX RAN」および「OREX SMO」の導入時/導入後に必要なサービスなどを提供します。
(出典:NTT docomo)
DTCへの取組み
○コンピューティングPF
仮想データレイクの開発や事業会社への導入支援, IOWNテストベッドへの導入・運用支援による分散コンピューティング環境での新ビジネス創出に貢献するコンピューティングPFについて紹介します。
NTTのIOWNでは, さまざまな業界におけるサイバー空間のモノやヒトのデータを自在に組み合わせてシミュレーションを可能にするDTCを提唱しています。
DTCの実現のため, データを適切に処理し高度に演算するための環境を実装するプラットフォームがIOWNコンピューティングPFです。
IOWNコンピューティングPFでは各IOWN技術を実装しデータ収集/分析を行い新規価値創造への寄与を目指しています。
こうしたIOWN技術の検証環境がIONWテストベッドです。
(出典:NTT)
・仮想データレイク
IOWNコンピューティングPFにおけるデータハンドリングを実現するための技術の一つが仮想データレイクです。
DTCで構成される仮想/現実世界には様々なステークホルダが存在しており, データの高速な伝送の実現だけでなく, 立場の違うステークホルダ間でセキュアにデータ交換を行えなければなりません。
仮想データレイクは多拠点に位置する異なる組織・企業が管理している遍在データを仮想的に集約・一元化し, データ利用者がオンデマンドに必要なデータのみを効率良く取得・活用することを可能にします。
そのため, データ利用者が必要とするデータをメタデータに基づいて探索・発見する機能, データ提供者が定めたポリシーに基づいて許可されたデータのみをデータ利用者に表示・利用させてガバナンスを維持する機能などを備えます。
○バイオデジタルツイン
hitoe®や心電関連アプリ開発といったSaMD開発に関するメディカルサービスを紹介します。
NTTは, 心身の状態の未来予測を通じて医療の未来の実現に貢献するため, 2020年11月に医療健康ビジョン「バイオデジタルツインの実現」を発表しました。
DTCによって人それぞれの身体および心理の精緻な写像(バイオデジタルツイン:BDT)を実現することを目指しています。
心身の未来を予測するためには臓器機能のデジタル写像化, 生体情報の測定, 複眼視的心身状態の予測シミュレーショ, 体内の超ミクロ領域での診断・治療, 中枢神経系からの信号に沿った四肢動作の制御などが必要となります。
(出典:NTT)
・hitoe®
心電図はICTの発達と機械学習等の情報処理技術の進歩により, ヘルスケアなどの新たな領域に活用の場を広げつつあります。
NTTは着るだけで生体情報の継続測定を可能にする機能素材「hitoe®」を東レ株式会社と共同開発しました。
hitoe®を介して検出された心拍変動や心電波形は,小型専用装置によってスマートフォンやタブレットへ無線伝送され,アプリケーションで手軽に確認できます。
(出典:NTT)
※参考
バイオデジタルツインについては以下のページが参考になります。
CFへの取組み
○インクルーシブコア
6G/IOWN時代のサービスを実現する基幹となるネットワークのアーキテクチャであるインクルーシブコアについて紹介いたします。
6GやIOWNの時代においては以下ような通信サービスそのものまたは環境変化として4つの多面的な『融合と協調』が進むことが想定されます。
・「サイバー空間」と「物理空間」の融合と協調
物理空間の情報をサイバー空間の情報へ相互に対応づけ、両空間を常時同期させるためにネットワークとサービスを高度に連携し, 大容量・低遅延な通信や高品質で両空間の情報流通を実現します。
・「コンピューティング」と「ネットワーク」の融合
従来, 「通信」を提供するネットワークと「情報処理」を行う端末とサービスのコンピューティングを分離しサービスを効率的に実現していました。
しかし, 「サイバー空間」と「物理空間」を常時同期し続けるため, 端末やデバイスとサーバは大量の情報を処理できる能力が必要とされます。
これに対し, ネットワークが1つの機能として「情報処理(コンピューティング)」を備え, 端末やサーバでの情報処理を仲介・支援することで, エンドツーエンドのサービスを効率的に実現するために必要な情報処理と情報交流が効率化・加速されます。
・「移動通信」と「固定通信」の融合と協調
6Gでは衛星・海中・自営無線など無線アクセスの多様化進み, IOWNでは光通信基盤を使った固定アクセスが広がることで, 様々な特徴・特性を持った移動/固定回線が利用可能となることが想定されます。
一方で, サービスは様々なアクセス回線上で必要な品質・機能面でのネットワーク要件を達成する必要があることから, 多様なアクセス回線を適応的に使い分け, それらの回線種別や品質によらず一定の機能や品質を担保し共通的なサービスを利用する必要があります。
・「アナログ」と「デジタル」の融合と協調
IoTの普及によるセンサなど様々なデータのデジタル化とパケット通信が進んでいますが, ロボットや車など様々な機器の内部の制御信号などは必ずしもパケット化されていません。
パケット化処理には電力消費/遅延/コストの増加など課題があるため, すべての情報を正確・迅速に物理空間情報をサイバー空間にマッピングするには, パケット化されていないデジタル信号やアナログ信号をネットワークを介して通信し多様なデータ・通信形式による情報交流を実現する必要があります。
この多面的な『融合と協調』のため, 端末/デバイス・ネットワーク・アプリケーションの情報処理や情報流通をエンドツーエンドかつシームレスに連携させる必要性が高まっています。
特に, 近年期待が高まっているCPS(Cyber-Physical Systems)やAI統合型コミュニケーションのサービスでは, 利用環境(サイバー空間および実空間)や端末・場所の制約や機能の制約を超えることが求められています。
NTTではこの融合と協調を実現するための基幹となる6G/IOWN時代のネットワークアーキテクチャ【インクルーシブコア】についてのアーキテクチャの策定, 標準化, 技術開発を含む研究開発に取り組んでいます。
・インクルーシブコアのコンセプト
・従来のネットワークサービス
ネットワークサービスは通信サービスを提供し, サービスに必要な情報処理アプリケーションはクラウドもしくはデータセンタ上のサーバと端末上に配備されます。
この結果, 情報処理機能を端末とクラウドに集中させネットワークを介する情報量を最小化する形でサービスは実現されていますが, 一般的に端末が保持する計算資源や機能に差があることから, 端末の機能/処理性能の制約により利用可能なアプリケーションが制約されるなどの課題がありました。
・現在の5G時代のネットワークサービス
5Gではクラウド技術をベースとするアーキテクチャが採用され, またMEC(Multi-access Edge Computing:5Gで分散処理を実現するエッジコンピューティング技術/規格)の導入により, 情報処理を行うサーバアプリケーションが通信ネットワークのエッジ近傍に配備可能となることで, 主に低遅延化を必要とするアプリケーションを用いたサービスが提供されています。
・インクルーシブコアのコンセプト
今後は仕様や技術の共通化が進み, コンピューティング基盤をNFV(Network Function Virtualization:ネットワーク仮想化)とMECで共用して展開・構築されていくことが予想されます。
さらに, RAN/vRANの展開が進むことで, よりエッジ装置にも仮想化・クラウド技術が適用され, 技術的な共通性からMECアプリケーションがネットワークのエッジだけでなくRANも含め広域に展開されコンピューティング基盤のリソースを共用します。
そして最終的に下図で示すような、インクルーシブコアで想定しているネットワーク全体にコンピューティングリソースが遍在する環境の実現が期待されます。
インクルーシブコアは, このようなネットワーク上に遍在するコンピューティング基盤上に, ネットワーク機能とアプリケーション機能を混在させ密に連携することでコンピューティングサービスを実現します。
このコンピューティングサービスは, 端末/クラウド/ネットワーク内のコンピューティング機能など分散しているコンピューティングリソースを複合的に組合せ, ユーザのサービスに必要な情報処理と通信機能を一体で構成します。
・インクルーシブコアのサービスユースケース
インクルーシブコアのネットワークを中心にユーザ端末の機能や役割の一部を肩代わりするサービスユースケースの一例として, リアルタイムな超高解像度映像中継やメタバースなどの3Dなどの映像配信を行うユースケースを紹介します。
このようなユースケースでは, 端末に高解像度映像を視聴状態に応じて描画する高度な映像処理機能やハードウェア機能性能が求められます。
端末性能の制約や場所を問わずこのような高度なサービスするためには, ユーザ端末において実行する処理/機能をネットワークやクラウドなどの端末以外のシステム上で実現し, その結果を即座に端末上で表示だけするといった方法が考えられます。
これにより, 機能や性能の制約をネットワークサービスで代替するため, 端末の機能や性能の制約によらないサービスが可能となります。
また, 端末とネットワークサービス間の通信は, 上位のアプリケーションが意識せずプロトコル非依存の抽象化APIレイヤを介して, 6G/IOWNのネットワークの特徴を生かした高速/大容量通信可能とし高精細な3D画像・映像アプリケーションを容易に開発可能な環境を提供します。
他にも以下のようなユースケースが想定されます。
・インクルーシブコアのアーキテクチャ
インクルーシブコアではネットワークに加え端末やクラウドのコンピューティングリソースも利用して, サービスや端末のアプリケーション機能とネットワーク機能を一体で構成します。
インクルーシブコアが実現するコンピューティングサービス機能は, コンピューティングリソースを端末やユーザに提供する機能であり、6G向けに検討が進んでいます。
コンピューティングサービスを実現するためには, 6Gコアネットワーク機能としてユーザや端末個々のコンピューティング機能の起動制御を実施します。
また, 6Gコアネットワーク機能ではユーザデータ通信(U-Plane機能)に追加してコンピューティング機能とそのデータ転送を担います(D-Plane機能)。
※参考
インクルーシブコアについては以下のページが参考になります。
NTTテクノクロスの取組み
一例として, DTCバイオデジタルツインの分野でNTTテクノクロスは「hitoe®ウェアラブル心電送信システム」を開発し, 2023年7月に販売開始しました。
これは以下の3つを一式としてリアルタイムに心電図を表示・保存するシステムとして構成されています。
・株式会社パラマ・テックのテレメトリー式心電送信機「心電送信装置 HMTX1」
・東レ・メディカル株式会社の単回使用心電用電極「hitoe®メディカルベルト電極」
・NTTテクノクロスのヘルスソフトウェア「hitoe® ECG viewer」
今後もNTTテクノクロスはIOWNの実現/高度化に向けて貢献してまいります。
NTTテクノクロスの取組みについての所感
NTTテクノクロスの取組みについての所感を以下に記載いたします。
○APNの高度化
すでにAPN Step1は商用提供が始まっておりますが, APNの今後のStepを見据えてセキュリティの向上, 運用の自動化といったサービス品質の高度化に向けた取組みを実施しております。
○コンピューティング基盤の開発
APNによって実現される「低遅延」「大容量化」「低消費電力」なNWを前提とした新たなコンピューティング基盤の実現に向けた取組みを実施しております。
○所感
IOWNにはAPN, DTC, CF, および付随するコンピューティング領域といった要素がありますが, 現状NTTテクノクロスとしてはAPN/コンピューティング関連領域の業務に多く携わっております。
上記より, DTCといったアプリケーションや, CFといった制御機能が動作する基盤となる部分から順に固めていっている印象があります。
今後, IOWNの基盤部分が確立された暁には光技術を用いて「低遅延」「大容量化」「低消費電力」かつ経済成長を加速させるようなDTC/CF関連のアプリケーションが開発されていくものと想定されます。
また, 特に革新が進んでいるAI分野の基盤となるデータセンタは電力/水資源等の使用量が年々増加していっており, APN/コンピューティング関連領域におけるデータセンタの低消費電力/低遅延を実現する基盤が作られると, 環境にも配慮した新しいAI生成基盤ができていくのではと考えられます。
おわりに
今回はNTTテクノクロスのIOWNに関する取組みを紹介いたしました。
次回はこれまで紹介してきたIOWN構想の進捗状況などをご紹介したいと思います。
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著者プロフィール
村木 遼亮
[著者プロフィール]
フューチャーネットワーク事業部 第一ビジネスユニット
村木 遼亮(MURAKI RYOUSUKE)