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Salesforce MVP 鈴木貞弘の「Agentforce 匠指南」シリーズ 第2回: 現場の匠が解剖するAgentforceのアーキテクチャ

本記事では、長年のSalesforceエコシステムでの経験と、最新のAI技術への取り組みを通じ、新しいブログシリーズ「Agentforce 匠指南」を始めます。全5回にわたり、Salesforceの未来を担うキーテクノロジーであるAgentforceについて、基礎から応用、そして展望までを、私の「匠の視点」で徹底的に紐解いていきます。

1. はじめに:Agentforceの「内部構造」を知ることで見えてくるもの

前回の第1回では、Agentforceの基礎とその革新性について、私の匠としての視点からお話ししました。Agentforceが単なるAIツールではなく、自律的にビジネスプロセスを推進するエージェントであること、そしてその頭脳であるAtlas Reasoning Engineの仕組みを解説しました。
前回触れたように、AgentforceSalesforceエコシステムを根本的に変革する可能性を秘めています。

今回は、そのAgentforceを「動かす」ための内部構造、つまりアーキテクチャに焦点を当てます。現場で長年導入プロジェクトを推進してきた私からすると、アーキテクチャの理解は単なる技術知識ではなく、導入時の成功を左右する鍵です。なぜなら、しっかりした設計がなければ、どんな優れたAIも宝の持ち腐れになってしまうからです。
特に、2025年の最新アップデート(Agentforce 3のリリース)では、応答速度の向上やセキュリティの強化が図られ、より大規模な実務適用が可能になりました。さらに、Command Centerの導入により、運用監視が容易になったことも特筆すべき点です。この回では、主要コンポーネントを分解し、私の経験に基づく設計ポイントを交えて解説します。
この回を読み終えた頃には、貴社のビジネスにAgentforceをどう組み込むかのイメージが湧くはずです。

2. Agentforceの主要コンポーネント:自律性を支える4つの柱

Agentforceのアーキテクチャは、SalesforceData CloudEinstein AIを基盤に構築されており、柔軟性とセキュリティを両立しています。また、Summer '25リリースでData Cloudとの統合が強化され、リアルタイムデータ処理能力が向上しました。

このAgentforceの核となるのが、自律性を支える4つのコンポーネントです。これらを一つずつ解剖していきましょう。

2.1. エージェント定義:エージェントの「役割」と「スキル」を設定する基盤

Agentforceの起点は、エージェントの定義です。これは、エージェントが何をするのか、どんな役割を担うのかを決める部分で、SalesforceAgent Builderを使って視覚的に構築できます。Agent Builderは、これらのトピックとスキルを設計・管理するための統合開発環境(IDE)であり、ユーザーがエージェントの「スキルセット」を構築するためのUIです。

ここで重要なのは、2025年のAgentforce 3アップデートで追加された「Skills」コンポーネントです。Skillsは、エージェントの能力をモジュール化し、再利用可能にする仕組みです。例えばヘルスケア業界における患者スケジューリングやメディア業界における広告提案生成など、100以上のプリビルドされた業界特化スキルが提供されています。これにより、エージェントの導入時間が短縮され、定義フェーズにかかる時間が半分近く速くなりました。なお、エージェントを定義する際には、重複スキルを避けるのがエージェントをうまく動かすコツです。

2.2. トピック設定:ユーザーの意図を「解釈」するゲートウェイ

次に、トピック設定です。これは、ユーザーの自然言語入力(クエリ)を解釈し、エージェントがどのアクションを取るかを決定する部分です。Atlas Reasoning Engineがここで活躍し、クエリをトピックにマッピングします。

2025年のSummer '25リリースでは、トピックの精度が向上し、ウェブ検索統合が標準化されました。これにより、エージェントはSalesforce内のデータだけでなく、外部ウェブ情報をリアルタイムで参照可能になりました。トピック設定のベストプラクティスは、クエリのバリエーションを複数登録し、曖昧さを減らすことです。Agentforce 3AI-driven提案機能を使えば自動で生成できますが、最終的には開発者やビジネスユーザー、データサイエンティストが協力して、顧客が実際に使う言葉を反映させ、クエリの精度を高めていきます。また、トピックでAI-driven schedulingのような新機能をトリガーし、スケジュール調整を自動化することも可能です。

2.3. Apexアクション:Salesforceの実行力を引き出すカスタム処理

Agentforceの強みは、Salesforceネイティブのアクション連携です。特にApexアクションは、カスタムコードで複雑な処理を実現します。例えば、トピックからトリガーされ、Apexでサポートケースを作成し、メール通知を送る流れです。

Agentforce 3では、アクションの観測性(Command Center)が強化され、実行中のアクションのボトルネックを特定し、リアルタイム監視可能に。また、レイテンシーが50%低減されたことで、大規模アクションの実行がスムーズになりました。設計時、私のコンサルではApexをモジュール化し、再利用性を高めることを推奨しています。セキュリティのため、Apexクラスに適切な権限を設定することも重要です。

2.4. セキュリティと権限:Trust Layerで「信頼」を確保

最後に、セキュリティです。これはAgentforceTrust Layerが担い、データアクセスを厳格に制御します。Salesforce ShieldData Maskingを活用し、エージェントの行動をログ化・監査します。権限は、ユーザーロールに基づき、読み取り/書き込みを制限します。

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3.  匠視点の設計ポイント:大規模導入事例から学ぶ

これらのコンポーネントを組み合わせる際、私の経験からいくつかのポイントをお伝えします。
これまで大規模プロジェクトにAgentforceを導入した際、特に重要だったポイントを抽象化して共有します。

 ・スケーラビリティの考慮: エージェント定義でSkillsを活用し、トピックを階層化。Apexアクションのボトルネックを避けるため、並列処理を設計。Agentforce 3の低レイテンシーで、ピーク時のカスタマーサポート問い合わせ急増に対応し、オペレーターの負荷を大幅に削減することができます。

 ・統合の工夫: Salesforce外のシステム(例: 社内ERP)と連携する場合、フローやApexでカスタムコネクタを作成します。セキュリティで最小権限原則を適用し、データの保護を行います。また、ウェブ検索の統合により、リアルタイム情報活用で顧客満足度を向上させることも可能になります。

 ・注意点とTips: 大規模導入時は、トピックのオーバーラップを避け、セキュリティの監査ログを定期レビューします。プロトタイプを作成してイテレーションを繰り返すことで、導入コストを抑えつつ、効果を最大化できます。

これらのポイントを実践すれば、Agentforceは単なるツールではなく、ビジネスの「デジタル労働力」へと進化します。

4. 次回予告:Golden Hoodie保有者が教えるAgentforceの実装ステップ

2回では、Agentforceのアーキテクチャを解剖し、現場での設計知見を共有しました。次回、第3回は「Golden Hoodie保有者が教えるAgentforceの実装ステップ」と題し、ステップバイステップの構築ガイドをお届けします。Agentforce 3の新ツールを使った実装で、顧客サポートエージェントのサンプルを基に、環境設定からフロー連携まで、匠のTipsを交えて解説します。お楽しみに!

連載シリーズ
Agentforce匠指南
著者プロフィール
鈴木 貞弘
鈴木 貞弘
2000年にNTTテクノクロスの前身であるNTTソフトウェアに入社。Service Cloudでのコンタクトセンター構築案件に数多く従事。Salesforceエバンジェリストとして2017年に日本人初の非開発者系MVP、Golden Hoodie Awardを受賞。2023年にはSalesforce MVPの殿堂入り。日本で初開催となるAgentforce Community Tourを主催するなど業界の先駆者(Trailblazer)として活躍中。