IOWN Open APN 入門 第2回 ~APN-Tに関連する標準化~
今回はIOWNのOpen APNを構成する装置の内, APN-Tに関連する標準化についてご紹介したいと思います。
テクノロジーコラム
- 2025年07月18日公開
はじめに
こんにちは, NTTテクノクロス株式会社の村木と申します。
本連載ではIOWNの柱の一つであるAPNのオープン化にまつわるOpen APNについて記載していきます。
IOWN全体概要とそのカーボンニュートラルへの寄与については以下の連載をご確認いただけますと幸いです。
今回はIOWNのOpen APNを構成する装置の内, APN-Tに関連する標準化についてご紹介したいと思います。
Open APNの概要と構成については本連載の第1回を参照いただければと思います。
Open APNの概要と構成については本連載の第1回を参照いただければと思います。
○目次
APN-Tのオープン化・マルチベンダ化とホワイトボックス化
光ネットワークはこれまで単一ベンダの装置で構成される垂直統合型構成が一般的でしたが, 機能を分離し標準化されたオープンなインターフェースでシステムを構成する構想がなされています。
オープン化の導入モデルとして一足飛びにすべてのシステムをオープン化するのではなく, 段階を踏んだオープン化が検討されています。
○トランスポンダ機能の部分オープン化
光伝送装置の機能のうち, 特にトランスポンダ部分は技術革新が速く, データセンター事業者などを中心に容量拡大のために最新のトランスポンダ機能を使いたいというニーズが大きくなっていることから, オープン化の検討が一早く進められています。
部分オープン化を採用することで, トランスポンダ機能部分だけを最新の機種に切り替えるといったオープン化の利点を容易に享受することが可能となります。
○オープン化・マルチベンダ化とホワイトボックス化の概要とメリット
オープン化・マルチベンダ化:
異なるベンダーの機器やソリューションを組み合わせて使用すること。
ホワイトボックス化によってハードウェア(HW)/ソフトウェア(SW)が分離されたことで, 機能・機器単位でメーカーを選択することが可能となりました。
ホワイトボックス化:
ハードウェアとソフトウェアの分離に基づいて設計され, ハードウェアとソフトウェアの両方を自由に選択できるようにすること。
それにあわせて, 各機能の分離も行われています。
オープン化・マルチベンダ化とホワイトボックス化のメリットとして大きく以下の3点があります。
この利点は, 特にホワイトボックス化により機能分離が進みソフトウェア(SW)の柔軟性が増したことが大きな要因となっています。
・他社との差別化:オープンIFのためカスタマイズが容易, ソフトウェア(SW)への機能追加をキャリア主導で実施できる
・サプライチェーンリスク抑制:機器の一部が調達不可になった場合でも, 代替用品の調達が容易
・コスト削減:⾼機能なハードウェア(HW)/ソフトウェア(SW)が複数社間の競争によって, より安価に調達できる
オープン化の規格団体について
ホワイトボックス装置等で, オープン化・マルチベンダ化されたシステムを1つの筐体として動かすためには, ハードウェア(HW)/ソフトウェア(SW)各機能間のIFが共通となっている必要があります。
その共通IFを策定するための光伝送に関わる団体が設立されており, 主な団体を下図に記します。
この中でNTTも参画しており, トランスポンダ装置の標準化に係る規格団体がTelecom Infra Project(TIP)です。
TIPは光伝送装置やモバイル基地局などを対象としたプロダクト開発プロジェクトで, Facebookが当初から推進し, 通信事業者/製造事業者/SI事業者/スタータップ等500超の組織から構成されています。
○TIPで発足しているプロジェクト
TIP内で研究・開発が行われているプロジェクトについて下表に記します。
この中で, APN-Tに関係するOpen Optical & Packet Transport Project(OOPT)についてご紹介いたします。
○OOPTの概要
OOPTプロジェクトはオプティカルおよびIPネットワーキングにおけるオープンテクノロジー/アーキテクチャ/インターフェースの定義に取り組んでいます。
下図のように各グループごとにユースケース/Whitebox機器の仕様策定やAPI定義, 相互接続検証/トライアルなどを分担して実施しています。
○OOPTで定義されているソフトウェア関連仕様の概要
OOPTで定義されているソフトウェア関連, ひいてはオープン化・マルチベンダ化に関連する仕様は以下の通りです。
・OOPT-NOS
OOPTネットワークハードウェア用のTAIを含むSONiCおよびOpen Network Linux(ONL)に基づくOSS NOSの開発に重点をおいています。
・TAI
光コンポーネントを制御するためのベンダーに依存しないメカニズムを提供するAPIで, NOSと基盤となる光ハードウェアとの間のIFを簡略します。
・GCPy
マルチベンダ光ネットワーク向けの光伝送設計と最適化のためのOSSライブラリです。
IOWNとしてはAPN-Cに関連する技術のため本記事においては割愛いたします。
OOPT-NOSについて
NOSとはOSの中でもネットワーク機能に重点を置いたOSのことを指します。
オープン化・マルチベンダ化, ホワイトボックス化においてはデータセンタネットワーク装置向けNOSの開発が先行しており, ネットワークOS内部に組み込まれる機能のいくつかはOPC(Open Compute Project)が策定したデータセンター用定義から流用されています。
ネットワークOSはデータセンター用/光伝送用/L2/L3スイッチ用と用途ごとに対応OSが分かれています。
また, OcNOS・SONiCなど用途別に各NOSを拡張させる場合もあります。
主なNOSを下図に記します。
○Goldstoneの概要/構成図
NTTが開発したNOSであるGoldStoneについて概要を紹介いたします。
Open Compute Project(OCP)で開発されたOpen Network Linux(ONL)やTIPなどのオープンソースプロジェクトの成果を組み合わせた装置組み込みソフトウェアです。
Edgecore社のホワイトボックスプラットフォームCassini向けプロトタイプネットワークOSとして開発が開始し, Wistron社のプラットフォームGalileoにも対応しています。
APN-T対応装置にも用いられるNECが開発したNEC NOSのベースOSとしても採用され, 利用が広がっています。
現在はIOWN網での利用が主目的ですが, 将来的にはEthernetスイッチASICを含まない従来型トランスポンダやROADM,光ファイバアンプなどのラインシステムのOSとしての利用も想定されています。
Goldstoneのシステム構成は下図の通りです。
OSとしてONLを使用し, その上でコンテナオーケストレーションツールを使用していることで, 機能追加が容易となっています。
下図の例では運用コントロール, ベンダ独自機能が追加されています。
○Goldstoneの外部からの制御/監視イメージ
受信処理については統合管理レイヤー(sysrepo)で各デバイスを集中管理しています。
プラグインをデバイスごとに用意し, データ収集を実施しています。
TAIについて
TAIは光伝送部品の制御をベンダ非依存で行うためのAPIです。
オープン化・マルチベンダ化はデータセンタネットワーク装置が先行しており, Switch ASIC用のAPIとしてSAIが存在しています。
SAI(Switch Abstraction Interface)定義を流用し光伝送向けに開発したものがTAIであり, TAIはGoldStone以外のNOS(OcNOS、SONiCなど)にも採用されています。
○(参考)SAI(Switch Abstraction Interface)とは
SAIはベンダ非依存でパケット転送(主にスイッチASIC)を制御するC言語のAPI仕様で, OCPにおいて標準APIとして承認されています。
SAIは主にスイッチASICベンダから提供され, SAIを用いることでOS開発時に特定ベンダ依存コードを減らすことができます。
※ASIC(Application Specific Integrate Circuit)は特定用途向け集積回路であり, スイッチにおいてはパケット転送やVLAN処理などの用途で用いられています。
○TAIの役割について
光網においては各ベンダ間の差異を吸収しアプリケーションがベンダを意識せずに制御/管理することを目的に利用されています。
アプリケーションから呼び出されるトランスポンダアプリが使用しています。
○TAIの実装方法について
TAIの実態はC言語のヘッダファイルの集合で, トランスポンダ作成ベンダはこのヘッダファイルに適合したライブラリを提供します。
TAI(ヘッダ定義)が共通化されることで, アプリケーション開発ベンダはトランスポンダ開発ベンダに依存せずにアプリケーション開発を行うことができます。
○TAIの制御方法について
TAIの制御方法については以下の通りです。
・TAI Object
TAI module/TAI network interface/TAI host interfaceをTAI Objectと呼び, 固有のID(OID)が作成時に振り分けられます。
・TAI module
TAI network interface/TAI host interfaceはTAI moduleに属しており, TAI moduleのOIDを使用してAPIへのアクセスを行います。
・attribute
各TAI Objectはattributeを持っており, 情報の取得・設定はattributeで行います。
○TAIのマルチベンダ対応について
TAIに依るマルチベンダ対応方法について解説します。
複数のベンダモジュールを使用する場合, TAIのライブラリもベンダごとに異なります。
この差を吸収する方法として, 多重化用TAIライブラリが用意されています。
TAIを多重化することで, ベンダごとに振られたOIDを再度全体として一意に振り直し重複を解消します。
おわりに
今回はAPN-Tに関連する標準化についてご紹介いたしました。
次回はIOWNのOpen APNを構成する装置の内, APN-GやAPN-Iの標準化についてご紹介したいと思います。
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著者プロフィール

村木 遼亮
[著者プロフィール]
フューチャーネットワーク事業部 第一ビジネスユニット
村木 遼亮(MURAKI RYOUSUKE)