情シス不要論は本当?これからの情報システム部に求められる役割とは
クラウド活用や外部の事業者へのアウトソーシングなどによって、情報システム部に求められることも変わってきました。これまでの開発・保守を主な業務とする「守り」の情報システム部から脱却し、ビジネスに貢献する「攻め」の情システム部に転換することが重要だといわれて久しいですが、具体的にどのようなことが求められているのでしょうか? これまでの役割を見つめ直し、これからの情シスが取り組むべきことを考えます。
特集記事
- 2017年01月16日公開
クラウド活用や外部の事業者へのアウトソーシングなどによって、情報システム部に求められる役割も変わってきた――読者のなかには、そう感じている方も多いかもしれません。
これまでの開発・保守を主な業務とする「守り」の情シスから脱却し、ビジネスに貢献する「攻め」の情シスに転換することが重要だといわれて久しいですが、具体的に何をしたらいいかわからないという声も聞こえてきます。今回は、情報システム部のこれまでの役割を見つめ直し、これからの情シスが取り組むべきことを考えます。
「情シス不要論」はなぜ生まれたか?
情報システム部に対する不要論が注目されるきっかけのひとつが、ガートナージャパン株式会社が2013年に実施した調査結果です。これは毎年、全世界で4,000人を超えるCIOを主な対象に、CIOが抱える次年度の課題について調査しているものです。
プレスリリースで公開されている調査結果によれば、IT戦略上、「ITコストを削減する」の優先順位が世界的にランクを下げているようです。これは、IT戦略において「ビジネス・ソリューションを提供する」が相対的に重視されているためで、ITの位置付けが「コスト削減」のような「守り」から、成長戦略に貢献するという「攻め」にシフトしつつあると言えるでしょう。
上記のような背景があり、企業のシステムを守るだけの従来型の情報システム部も、成長戦略により貢献できる「攻め」の姿勢が求められるようになりました。いわゆる「情シス不要論」は、このような文脈で言われるようになったわけですが、あくまで従来型の情報システム部に変革が迫られているだけであり、情報システム部そのものがまったく必要なくなると言われているわけではありません。
また、日本では「ITマネジメントとITガバナンスを改善する」が1位になっているのに対し、「ビジネス・ソリューションを提供する」が10位圏外になっており、世界との認識の差が大きいことも浮き彫りになりました。ビジネス戦略での優先度に対する回答では「企業成長を加速する」より「新商品や新サービスを開発する」という項目の方が上位に来ていることも合わせて考えると、企業全体の視点よりも、具体的な視点が重視される傾向にあるというのが、日本の特徴といえるでしょう。
しかし、これからの時代は、日本でも「攻め」へのシフトが求められています。これまで日本で続けてきたような、具体的な視点を重視した情報システム部のあり方だけでは、企業の競争力を高めるためには十分とはいえません。グローバル化の時代において、日本企業が競争力を高め、生き抜いていくためには、日本でも諸外国と同様に、「成長戦略に貢献するために、情報システム部にできることは何か?」を意識することが必要です。
また、「優先するテクノロジー」を尋ねた質問で最も多かったのは、「アナリティクスとビジネス・インテリジェンス(BI)」となり、その後に「モバイル・テクノロジ」「クラウド・コンピューティング(SaaS/PaaS/IaaS)」が続きました。モバイルやクラウドが重視されていることは、これまでに情報システム部が担ってきた業務のあり方が変化していることを意味しています。
さらには、過去に作られたルールに基づいている現在のIT戦略は将来の期待に応えられないものになっており、これまでのルールの変革が必要な時期にあることも指摘されています。
開発・保守業務における情シスのあり方の変化
では、情報システム部が変革し、グローバル化の時代に合わせたあり方を実現していくためには、何が必要なのでしょうか?まずは、社内における情シスのあり方がこれまでどのように変化してきたのかを振り返ってみましょう。
従来の情報システム部では、自社で基幹系システムを開発し、それらのシステムの保守が業務の中核を成していました。しかし近年は、このような保守中心の業務が少なくなっています。その背景には、クラウドや外部サービス利用などの普及があります。
これらを利用することによって、業務部門における顧客管理システムや、経理部門における会計システムといった、それぞれの部署に必要なシステムやソフトウェアを、ユーザー部門が自ら調達するといったことも可能になりました。ユーザー部門が情報システム部の力を借りることなく、ベンダーと直接やりとりし、システムの導入を進めたり、パッケージソフトを購入することが増えれば、情報システム部の役割も当然変化してきます。
とはいえ、これまでのような社内の基幹系システムの開発や運用、保守に時間を割く必要がなくなったからといって、情報システム部自体が必要なくなるのかといえば、決してそのようなことはありません。その役割を大きく転換していくことが求められており、その求められている役割というのが、将来の期待に応えたIT戦略を立て、業務に貢献することなのです。
他部門との連携や「共創」が求められている
従来型の開発・保守に特化した業務から脱却した情報システム部が今後求められるのは、いかに自社のビジネスに貢献していくかであるといわれています。しかし、情報システム部門が単独でビジネスに貢献していくことは難しいのではないでしょうか。
そこで必要になるのが、業務部門や企画部門に出向いて現場の人たちから直接要望や意見を聞き、ニーズをくみ取ることです。ユーザー部門で自らクラウドサービスといったものを利用するようになったとして、社内のITインフラをめぐるさまざまなニーズやポリシー、情報システム部のサポートが必要なことは数多くあるはずです。テクノロジーに関するノウハウやサポートをはじめ、さまざまな面で各部門と密接に関わりながら問題を解決していくことが必要になるでしょう。
さらに、業務部門や企画部門だけでなく、分析チーム、ビジネスパートナーといった、さまざまな部門や人々との「共創」や連携をしながら業務を進めるに当たっては、これまで以上に広い知識も必要になります。つまり、情報システム部が不要になるということはなく、新しい形での関わり方が求められているということなのです。
ビジョンを描き、自社に貢献していく姿勢も必要
このような新しい形での情報システム部の業務の進め方においては、コミュニケーション能力が非常に重要になることはいうまでもありません。これまでのような、社内システムの保守を中心とした業務では、事業部門と直接コミュニケーションを取る機会はあまりなかったかもしれません。しかしこれからは、さまざまな部門や組織との相互理解を深め、協調しながら業務を進めていくことが必要になります。そのためには、それぞれの人たちの求めているものを正確にくみ取る能力が欠かせません。
また、自社の生産性を上げる仕組みをつくり、自社のビジネスに貢献することも、情シスの重要な役割になります。具体的には、顧客データを分析してマーケティングに活用したり、メールの誤送信などの日常の業務によるミスの発生を事前に検知して防止したりといった業務にAIを活用することもが考える必要が出てくるでしょう。
さらに、システムに関する部分だけではなく、自社の業務全体のビジョンを思い描いたうえで何が必要なのかを考え、的確に判断する力も必要になってくるでしょう。情報システム部が自社の業務に貢献していくためには、今までのような開発スキルやテクノロジーだけでない、経営面に関することを含めた幅広い知識や能力が求められているのです。
変化していく意欲を持とう
テクノロジーを取り巻く状況は激しく変化を続けています。情報システム部についても、それは例外ではありません。従来のシステムの保守という役目から、テクノロジーを自社の業務にどのように生かすのかを考えることや、各部門で必要とされていることを正確に捉え、それぞれのニーズに応えていくことといった、新しいスタイルへの転換が求められているのです。
時代が変わっても、情報システム部そのものが不要になるということはありません。ただし、時代の変化に対応し、社内で必要とされる情報システム部であり続けるためには、柔軟に変化していくことが必要です。これまでのやり方にとらわれるのではなく、積極的に他部署と交流したり、新しいことの導入を検討したりするなどのチャレンジが求められているのではないでしょうか。
では、経営変革を図ろうという企業においては、どのような考え方や取り組みが求められ、そして、そのために情シスは何をすべきでしょうか?
「スピーディな経営が求められる今、情シスがなすべきこととは?」もぜひお読みください。