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データベース移行について考えるシリーズ ~第1回 移行先によるコストの比較~

システムの移行先によるコストの違いについて、ある社内システムを例にご紹介します。

はじめに

昨今、「クラウド」という言葉も一般的なものとなり、クラウドサービスを利用する企業は増え続けています。 クラウドの分野における最近の動向を、総務省の「通信利用動向調査(企業編)」の令和2年版(最新)から確認すると、「クラウドサービスの利用状況」ではクラウドサービスを一部でも利用している企業の割合は68.5%となっています。皆様もシステムのクラウド化については一度は検討化された機会があるのではないでしょうか?

一口にシステムのクラウド化と言っても、検討するべきことは多岐にわたります。システムの移行性確認(移行可能かどうかの評価)に始まり、移行後に発生する非互換部分への対応や対応できない場合の代替案の検討等、状況に応じた移行計画を策定しなければいけません。アプリケーションの移行はもちろん必要ですが、システムが扱うデータの移行についても検討が必要となります。

今回の連載ではシステムのクラウド化のうち、特に移行で注意が必要であるデータ移行(データベース部分)にフォーカスをあてた解説を行います。

オンプレミス環境からの移行で不安なことと言えば・・・

既存システムのクラウド移行を考えたときにどういったことが課題としてあがるでしょうか?

多くの方は、クラウド化ということで漠然とした不安を持たれることもあるかと思います。

例えば、

  • ・クラウドに移行することでコストがどう変化するのか?今より下がるのか?上がるのか?
  • ・クラウド移行って、具体的に何を検討すればよいかわからない。
  • ・Amazon Aurora等の完全マネージド型サービスを使ってみたいが、運用上の注意点はないか?
  • ・激甚災害対策用の環境を持つ構成だけど、クラウド環境でも同等の構成が組めるのか?

今回、これらの悩みについてシリーズを通じてお答えしていこうと思います。 初回である今回は多くの方が移行検討で最初に考えるであろう「クラウド化することでコストはどう変化するのか?」について紹介します。

本記事はオンプレミス環境からパブリッククラウド(AWS)へのデータベース移行を主題とした全3回のうちの1つ目の記事となります。

  • 第1回 移行先によるコストの比較
  • 第2回 DB移行におけるハマりがちなポイント解説(仮)
  • 第3回 激甚構成を持つシステムの移行で必要なサービスと構成例(仮)

移行先によるコスト見積もりの比較結果

社内システムの移行によるTCO(Total Cost of Ownership)削減効果について

ここでは、ある社内システムを例にデータベースの移行先によって、TCOがどのように変わるのかをご紹介します。

※TCOとは、コンピュータの導入や管理維持に関わるすべてのコストの総額を指します。

本書が想定するクラウド移行の契機について

システム構築にあたりハードウェアを購入した場合、同時に故障等のトラブルに備えて保守サービスを利用することになります。 保守サポートには期限が設けられているため、いずれ保守サービスが切れるタイミングがあり、このタイミングがシステムのクラウド化を検討する契機の1つであると考えます。

移行対象システムで使用するデータベースの要件

以下の要件の元、移行コストの見積もりを行います。

  • ・商用DBMS製品を使用
    • ・比較的安価な標準的なライセンスを使用している
    • ・商用製品特有の機能等は使用していない(異種DBへの移行難易度は低い)
  • ・DBサイズ:300GB
    • ・年々増加の傾向がある
  • ・性能要件
    • ・厳密な目標値は定められていない(数人が同時操作を行っても滞りなく業務が行えれば良い)
  • ・冗長化構成あり(激甚サイトなし)
    • ・切り替え時間は10分以内
  • ・バックアップ
    • ・週次フルバックアップ、日次差分バックアップを取得
    • ・クラッシュ時に最新状態に戻せること

比較対象

導入で述べたように本記事では、データベースに絞った形で移行先によるコストの変化を確認します。また、移行先のパブリッククラウドはAmazon Web Services(AWS)とします。

今回比較対象となる移行先は以下の3通りとします。

aws_db_migration_configuration_plan.png

各構成におけるユーザの分担は以下のとおりです。

aws_db_migration_stack.png

図で示すとおり移行先の構成によって、ユーザの分担範囲が変わります。コストの評価では、これらの差分がどうコストに反映されるか検討する必要があります。

  • ※ 比較対象についての補足
    • 今回の比較では、DB移行+システムのクラウド化にフォーカスしているため、商用DBMSを利用するケースはオンプレミス構成のみとして、DBMSを変えずにクラウドサービスへ移行するパターンは上げていません。

TCO(Total Cost of Ownership)の比較結果

今回の移行コストの見積もりでは、既存環境の踏襲であるオンプレミス環境と比較すると、異種データベースへの移行も含めたとしてもクラウド環境に移行することでTCOは2年以内には回収できることがわかります。

また、最もTCOが低いものはAmazon Auroraを使用したモデルとなります。クラウドサービスに掛かる利用料はEC2の構成のほうが安くはなりますが、障害発生時の対処やパッチ適用等の運用コスト、DBサポート費用を計上した結果トータルのコストはEC2の構成のほうが高くなったためです。

aws_db_migration_cost_comparison.png

上図は各構成で掛かるイニシャルコスト、ランニングコストとして、以下のものを計上し年次での積算値を求めた結果です。

「PostgreSQL + EC2」、「Amazon Aurora PostgreSQL」に移行する場合のイニシャルコストの全ては、商用DBMSからPostgreSQLへの移行に掛かる費用です。ここでは、ハードウェアを購入するよりも、異種DBMSへの移行に掛かる費用が高いものとして見積もっています。

また、「PostgreSQL + EC2」、「Amazon Aurora PostgreSQL」のイニシャルコストに差があるのは、マネージドサービスを利用するパターンではDBの運用設計に掛かるコストがEC2を利用するケースと比較してボリュームが小さくなるためです。

aws_db_migration_cost_factor.png

※見積もりに関しての補足:

  • ・EC2及びAmazon Auroraはリザーブドインスタンスを使用し、割引を最大限活用しているものとします。
  • ・上記で計上しているのは一般的に想定される項目に絞っているため、考慮すべき全量ではない点ご注意ください。

コストが変動する要素の説明

上記で提示した結果はあくまで一例での結果となります。

今回見積もり対象としたシステムのデータベースの要件は多少粗いものになっていますが、実際はもっと細かく決められているものであり、システムの構成も複雑な場合もあります。システムの実態によって、見積もりのコストは上下します。ここでの結果は全てのケースで当てはまるわけではない点、ご注意ください。

  • ・データベース移行に掛かる費用
    • ・商用DB特有の機能を使用したシステムである場合、異種DBへの移行は現在の見積もりよりも大きくなることが想定されます。
    • ・また、異種DB間での非互換のSQLを多数使用している場合も同様にデータベース移行コストの増加に繋がります。
  • ・クラウドサービス使用料、ハードウェア購入費
    • ・システムがシングル構成である場合や、扱うデータサイズが小さいケースであれば、クラウド環境でのランニングコストは現在の見積もりよりも下がります。逆にデータサイズが大きくなるとランニングコストも増加するため、2年以内での回収は困難になることも予想されます。
    • ・また、今回のケースでは性能要件は緩い想定ですが、高い要件が厳密に決まっているが特定の期間しか負荷が掛からないようなシステムではオンプレミス環境のイニシャルコストの見積もりが現在より高くなります。

移行によるコストの見積もりが不十分であった場合、せっかくクラウドへの移行を果たしても、逆にコストが増加してしまい、再度オンプレミスへの移行が必要となってしまったというケースも存在します。

最後に

今回はデータベースの移行先によるコストについて述べました。

システムのクラウド化の検討ポイントは、システムの利用状況や要件によって移行先でのコストが変動するということです。システムに最適な移行先の見極めること、また、移行に掛かるコストを見積もり移行計画を立てるためには、データベースとクラウド環境の両方のスキルが必要となります。 システム移行は事前の準備が重要です。ここでの検討が甘いと予期せぬトラブルを抱えることになるため、注意する必要があります。

システムの更改を機にクラウド環境への移行を検討しているが、不安を抱えている方はぜひ弊社にご相談ください。

今回のシリーズでは、クラウド化に向けた情報を部分的ではありますが紹介させていただいます。 現在利用されているシステムがクラウド環境に移行できるのか?、クラウド環境の見積もりのやり方はどうすればよいか?、クラウド環境における性能トラブル発生時の対処方法やノウハウを知りたい、クラウドに特化した運用面での注意点があるのか?等々、これらのお客様が固有に抱える悩みについても解決することができます。 移行アセスメントのご相談からも受け付けておりますのでご相談ください。

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DBMS担当