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熱中症の緊急時対応 ~ 発見から救急処置までの判断基準と応急マニュアル ~

近年、熱中症のリスクが深刻化する中で企業の熱中症対策が義務化されました。本コラムでは企業で必要な熱中症の予防・対策について解説します。

■はじめに

 本記事は、職場で熱中症が疑われる人を発見した際に、119番通報の判断から応急対応(重症化防止)までを整理した実務向けガイドです。厚生労働省・環境省の指針および改正労働安全衛生規則に基づき、「何を見て」「どの時点で」「何をすべきか」を解説します。

 前回の記事(「熱中症の予防方法 ~ 3つの基本対策と実践ツール ~」)では、職場における熱中症の予防対策について解説しました。本記事ではその続編として、実際に熱中症が疑われる事態が発生した場合の「重症化を防ぐための緊急時対応」に焦点を当てます。適切で迅速な初期対応により重篤化を防ぐことができます。

 総務省消防庁の統計によると、熱中症の救急搬送車のうち重傷者(3週間以上の入院が必要)は毎年約23%を占め、死亡に至るケースも年間100名を超えています(※1)。厚生労働省のマニュアルによれば、職場での熱中症による死亡災害の多くは初期の症状の見逃しや応急処置の遅れが原因とされています(※2)

 本記事では、厚生労働省などのガイドラインおよび労働安全衛生規則に基づき、緊急時の判断基準、応急処置の実践方法、組織的な対策体制の構築について解説します。

■目次

  1. 熱中症発生時の緊急時対応の基本フロー(119番通報の判断基準)
  2. 組織の熱中症対策の体制構築について
  3. まとめ

■熱中症発生時の緊急時対応の基本フロー(119番通報の判断基準)

緊急度の判定と119番通報の基準

 熱中症が疑われる症状を発見した場合、最初に行うべきは「意識の確認」です。熱中症は「I(軽症)」「II(中等症)」「III(重症)」の三段階に分類されていますが、以下の症状がある場合は119番通報が必要とされています(※3)

  • 意識障害(応答が異常、または呼びかけに応じない)
  • 吐き気(自力で水分を摂取できない)
  • 体温40℃以上または皮膚が熱く乾燥している(発汗の停止)

 これらの重症の特徴が見当たらない人でも、頭痛や倦怠感があり、応急処置後も症状が改善しないといった場合には医療機関への搬送を検討しましょう。

 改正労働安全衛生規則では「重篤化を防止するための措置の実施手順の作成」が事業者に義務付けられました。下記の図のような実施手順を作成して準備しておく必要があります。

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・図3-1-1「応急処置の基本フロー」

 また、通報時には焦らず正確な情報を通報できるように、以下の点を確認しておいてください。

  • 発生場所と状況、活動内容
  • 傷病者の年齢・基礎疾患の有無・直近の体調
  • 傷病者の意識レベル・体温・脈拍、発汗状態
  • 実施済みの応急処置の有無

 これらの情報を日頃から確認できるように、職場で体制を整えておくことがの重症化防止として重要になります。



熱中症における応急対応(重症化を防ぐ3つのポイント)

 実際に熱中症が疑われる方がいる場合、どのように対応すればよいのでしょうか。のマニュアルでは、応急処置を

  1. 環境改善
  2. 身体冷却
  3. 水分・塩分補給

の三段階で実施することを推奨しています(※4)。前述のように、応急処置で改善しない場合には119番通報や医療機関への搬送も検討してください。なお、以下で説明する「環境改善」「身体冷却」「水分・塩分補給」は、前述の緊急時対応フロー図における初期対応を具体化したものです。図とあわせて理解することで、現場での判断が容易になります。

 応急処置のポイントを順番に見ていきましょう。

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・図3-1-2「緊急措置」

1. 環改善境

 涼しい場所への避難:エアコンの効いた室内、風通しの良い日陰へ移動させます。移動困難な場合は日傘などで日射を遮ったり扇風機やうちわで送風を行う、水で濡らしたマットを敷くなど現場で可能な限り環境改善を行い、周囲の人に協力を求めて安全を確保します。

 衣服の調整または脱衣:ネクタイ、ベルト、靴など体を締め付けるものを緩め、可能であれば衣服を脱がせて体表面からの放熱を促進します。作業着やヘルメットなどの装備も速やかに外すことが望ましいでしょう。

2. 身体冷却

 重症者の救命は体温をいかに早く下げるかが重要になります。頸部(首の両側)、腋窩(わきの下)、鼠径部(太ももの付け根)のように太い血管が走っている部位を重点的に冷やすことで、全身を効果的に冷却できます。

 以下のような方法で速やかに身体を冷却しましょう。

  • タオルで包んだ氷嚢・保冷剤による直接冷却
  • 全身を冷水につける or シャワー(ホースから水道水を散布)
  • 濡れタオル+送風(扇風機、うちわ)
  • 霧吹き+送風

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・図3-1-3「身体冷却の例」

3. 水分・塩分補給

 傷病者の意識があり、自力で摂取可能な場合、経口補水液や0.10.2%の食塩水を少量ずつ何度も摂取させます。スポーツドリンクも有効です。一度に大量に摂取せず、コップ半分程度を数分おきに与えます。

 傷病者の意識がない、または朦朧としているなど問題がある場合、水分摂取には誤嚥のリスクがあるため絶対に行わないでください。この場合には速やかに119番通報し、救急隊の到着まで身体冷却を継続します。

応急処置QA

Q1. 意識がない人に水を飲ませてもいいですか?

A1. 絶対に飲ませてはいけません。意識障害時の経口摂取は誤嚥により窒息や肺炎を引き起こす危険があります。119番通報し、冷却を継続してください(※4)

Q2. 氷がない場合の代替冷却方法は?

A2. 冷たい缶飲料・ペットボトルを頸部・腋窩・鼠径部に当てる、濡れタオル+送風、霧吹き+送風などが有効です。たとえ氷や大量の冷水がない場合も、その場で可能な方法で冷却を開始することが重要です(※4)

Q3. 体温は何度まで下げればいいですか?

A3. 体温39℃以下を目標とし、38℃まで下がれば冷却を緩めます。ただし、意識障害がある場合は体温測定より119番通報と急速冷却を優先してください。

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・図3-1-4「緊急措置急速冷却する体温の目安」

■組織の熱中症対策の体制構築について

 令和76月から施行された改正労働安全衛生規則では、次のように定められています(※5)

  • 熱中症の重篤化による死亡災害を防止するため、熱中症のおそれがある作業者を早期に見つけ、その状況に応じ、迅速かつ適切に対処することが可能となるよう、事業者に対し、「早期発見のための体制整備」、「重篤化を防止するための措置の実施手順の作成」、「関係作業者への周知」を義務付ける。

 具体的には、下記の2項目が事業者に義務付けられました。

  1. 熱中症を生ずるおそれのある作業()を行う際に、「熱中症の自覚症状がある作業者」、「熱中症のおそれがある作業者を見つけた者」がその旨を報告するための体制(連絡先や担当者)を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に対して周知すること
  2. 熱中症を生ずるおそれのある作業を行う際に、作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察又は処置を受けさせること、事業場における緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先及び所在地等など、熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置に関する内容や実施手順を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に対して周知すること

 ※ WBGT(湿球黒球温度)28度又は気温31度以上の作業場において行われる作業で、継続して1時間以上又は1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれるもの

 予防方法については、前回の記事を参考に「作業環境管理」「作業管理」「健康管理」の3つの観点から体制整備を実施していきましょう。措置の実施手順については、この記事で前述している緊急時対応の基本フローを参考にして準備してください。

 ここではさらに追加的な体制構築、関係作業者への周知における役割分担について補足します。

熱中症対策の年間計画

 厚生労働省の熱中症予防対策ガイドでは、5月から9月の時期に熱中症への重点的な対策が推奨されています(※6)。ここではさらにそれ以外の時期を含めた年間計画による対策のサイクルをおすすめします。

  • 34月「整備・準備期間」:クールワークキャンペーンの準備の実施、測定機器・設備・機器の準備、マニュアルの点検や整備、作業者への教育・訓練の実施、暑熱順化トレーニングの準備
  • 59月「対策実施期間」:クールワークキャンペーンの取り組みの実施、暑熱順化トレーニングの実施、WBGT値の定期測定と記録、日々の作業前の健康チェック、作業環境・時間の調整、緊急時対応の訓練の実施
  • 102月「評価・計画期間」:予防・対策の実績のとりまとめ、設備や機器の予算確保の検討、次年度の計画の策定

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・図3-2「クールワークキャンペーン」

役割分担・組織構築

 職場では組織の中で役割を明確化し、万全の体制を構築するようにしましょう。以下に組織の役割分担の例を示します。

  • 統括管理責任者:事業場責任者または安全衛生管理者。熱中症対策の基本方針の決定、予算の確保、設備投資の承認、外部機関との連携を担う。
  • 現場管理者:作業主任または職長。WBGT値の測定、記録、作業者への周知。日常的な作業環境管理、作業管理、作業前の健康状態確認、緊急時の初期対応、119番通報の判断を担う。
  • 衛生管理者・産業医:健康診断による高リスク者の把握、教育・訓練の企画・実施、発症時の医学的評価を担う。
  • 作業者:作業前後の体調のセルフチェック、声掛けなどによる相互の安全確認、異常時の速やかな報告を担う。

■まとめ

 熱中症の緊急時対応は「適切な重症度の判断」、「迅速な119番通報」、「効果的な」の流れが準備・訓練されていることで実施できます。職場での熱中症対応で最も重要なのは、意識障害などの重症サインを見逃さず、速やかに119番通報と身体冷却を行うことです。

 NTTテクノクロスでは、暑熱対策をはじめとしてヘルスケアに関して事業者の体制づくりを支援するためのサービスも提供しております。今回の労働安全衛生規則の改正に合わせて、ぜひ弊社のサービスの導入についてもご検討いただければ幸いです。

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 ※本記事の内容は令和761日時点のものです。法令やガイドラインは改正される場合があるため、最新の情報は各省庁のホームページでご確認ください。

参考リンク

※1 消防庁 令和7(59)の熱中症による救急搬送状況

https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/items/r7/heatstroke_nenpou_r7.pdf

※2 職場における熱中症対策の強化について

https://wbgt.metro.tokyo.lg.jp/assets/docs/250519_Workplace_Measures_Against_Heatstroke.pdf

※図3-1-1「応急処置の基本フロー」

https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_full.pdf

熱中症 環境保健マニュアル2022から作成

※3 熱中症 環境保健マニュアル2022

https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_full.pdf

※図3-1-2「緊急措置」

https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001485695.pdf

職場における熱中症対策の強化についてから作成

※図3-1-3「身体冷却の例1

https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001521140.pdf

働く人の今すぐ使える熱中症ガイドから作成

※4 熱中症 環境保健マニュアル2022

https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_full.pdf

※図3-1-4「急速冷却する体温の目安」

https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001485695.pdf

職場における熱中症対策の強化についてから作成

※4 熱中症 環境保健マニュアル2022

https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_full.pdf

※5 職場における熱中症対策の強化について

https://wbgt.metro.tokyo.lg.jp/assets/docs/250519_Workplace_Measures_Against_Heatstroke.pdf

※図3-2 「クールワークキャンペーン」

https://neccyusho.mhlw.go.jp/pdf/2025/coolwork2025_jp.pdf

STOP熱中症クールワークキャンペーン2025リーフレットから作成

※6 STOP熱中症クールワークキャンペーン2025リーフレット

https://neccyusho.mhlw.go.jp/pdf/2025/coolwork2025_jp.pdf

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