プライベートクラウドの作り方[前編]
企業が自社内でクラウドコンピューティングのシステムを構築して利用部門にサービス提供する「プライベートクラウド」。NTTソフトウェア自身の体験談を交え、初期段階での検討ポイントを紹介します。
テクノロジーコラム 仮想化
- 2011年02月01日公開
はじめに
「クラウドを活用してITにかかるコストを削減する。」このような目標を掲げる企業が増えています。ゆくゆくはすべてのITサービスをクラウド上で運用する。そんな日が来るかもしれませんが、多くの企業ではSaaS移行と、既存システムの仮想化移行を並行して実施している段階ではないでしょうか。
仮想化の効果をある程度実感している企業の中には、社内サービスのプライベートクラウド化という新たな目標を掲げる企業も出始めています。NTTソフトウェアではそういったご要望にこたえるべく、まずは自社のIT環境を対象にプライベートクラウド化を実践しています。
今回はその体験談を交えながら、初期段階での検討のポイントについてご紹介します。
仮想化が可能にする、理想の社内IT環境"プライベートクラウド"
プライベートクラウドとは?
ショッピングサイトとして有名になったAmazonが、自社サービスを支える世界規模のコンピューティングリソースの一部を一般に向けて貸し出していることをご存じでしょうか。このWebサービスをAmazon EC2(Elastic Compute Cloud)といいます。このようにITの基盤部分をサービス化する形態をIaaS(Infrastructure as a Service)と呼びます。すでにWebサービスの分野ではIaaSを活用したシステム構築は一般的になりつつあり、国内でもいくつか事例が出てきています。かなり大雑把な言い方をすれば、プライベートクラウド化とは社内の既存IT基盤をIaaS化するということです。
プライベートクラウドの利点:"コスト削減とサービス向上の両立"
既存IT基盤のプライベートクラウド化(IaaS化)が必要なのはプライベートクラウド化がIT基盤のコスト削減とサービスの向上を実現するからです。
では、なぜプライベートクラウド化することでコスト削減とサービスの向上が両立するのでしょうか?「クラウドの技術を取り入れることによって実現するのです。」という答えを耳にしますが、クラウドの技術とは何でしょうか?クラウドもさまざまで、そこに投入されている技術もさまざまなので、これではまさに雲に包まれた曖昧な答えです。
私は、プライベートクラウドの本質は、仮想化によるハードウェアとサービスの分離にあると考えます。「それなら現状でもできているよ」とおっしゃる方もいるでしょう。確かに仮想化を導入すれば技術的には実現可能です。しかし、プライベートクラウドを成功させるにはさらに重要なポイントが二つあります。「サーバ管理の自動化(省力化)」と「サービス管理の委譲(分業)」す。
仮想化はサーバ管理とサービス管理の分離を可能にします。プライベートクラウドでは、その利点を生かして、更に双方を個別に高度化していきます。つまり、サーバ管理は標準化・自動化することで管理コストを切り詰めていく。一方、サービス管理はエンドユーザでも可能な業務を切りだしてIT部門のさらなる省力化と、サービス提供の迅速化を図る。これらの取り組みによってコスト削減とサービス向上が両立するのです。
事実、さまざまなプライベートクラウド構築のソリューションのほとんどが仮想化製品を核として各種管理ソフトをパックした構成となっています。管理ソフトウェアは「サーバ管理の自動化(省力化)」と「サービス管理の委譲(分業)」を促進させるためのものです。
< 図1.プライベートクラウドの概念図 >
プライベートクラウドは実現不可能か? ~典型的な導入~
「プライベートクラウドは自社にはフィットしない。」既にそう結論づけている方もいらっしゃるかもしれません。
以下にプライベートクラウド構築にあたっての典型的な導入障壁を挙げます。
1)構築コストが高い
前提となる仮想化インフラを構築するためには、まとまった投資が必要になります。とくに共有ストレージや仮想化ソフトウェアのライセンス・保守に対してコストがかかります。
2)運用者の育成が困難
既存システムに仮想化を用いていない場合、新たに運用者を教育する必要があります。
3)障害対策が困難
仮想化は、物理障害が複数のサーバに波及するという弱点があります。また、既存のクラスタリングソフトが使用できない等の理由で障害対策を見直す必要が出てくるケースもあります。
4)セキュリティが担保しづらい
仮想化してしまうと各サーバの構成情報や稼働状況等の把握が困難になります。結果としてセキュリティレベルが低下するという懸念があります。
5)ライセンス管理が煩雑になる
仮想マシンの複製機能を活用すると、ソフトウェアの利用状況を把握しにくくなります。このため、ライセンス管理が煩雑になるという問題が浮上します。
こういった導入障壁をどう克復するか。重要なのはまず「プライオリティづけ」です。次ページから弊社での構築事例を基にポイントを紹介します。
プライオリティの設定(弊社の場合)
プライベートクラウド化はITサービス全般に関連するので、すべての課題を解決するソリューションを求めるのは非常に困難です。このような場合は、自社にあったプライオリティを設定してあるべき姿を模索していくというアプローチが有効です。弊社では、用途を開発環境とし、プライオリティを以下の5つに設定しました。
1)コストを抑えつつスケール可能であること
まず重視したのは、コストです。単に初期導入コストだけにこだわるのではなく、規模が拡大した際のコストシミュレーションが重要です。ソフトウェアはものによって課金対象が異なるので、スケールした際、リニアに上昇するコストと一定を保つコストとをしっかりと見極めておく必要があります。
2)管理は簡単な方がよい
保守者の想定技術レベルを、既存システムの保守者を教育して対応可能な範囲内としました。コストが多少かかっても保守者に対しては管理用のGUIが提供できるようなハードウェアとソフトウェアの選定を行いました。
3)仮想化インフラレベルでの物理ハードウェア障害対策ができること
開発環境といえども業務の継続性を重視して、仮想化インフラレベル以下の障害に対してはコールドスタンバイによる障害復旧が行えるように配慮しました。
4)ネットワーク管理を自動化できること
仮想化の陰に隠れて、軽視されがちですが、プライベートクラウド化にあたってネットワークの仮想化及び管理の自動化は重要なポイントです。仮想マシンは複数の人によって動的に作成・削除されます。増減する仮想マシンに対応して、IPアドレスを動的に割り当てる必要があります。このため、ネットワーク管理を人手で行うと、大きな管理コストが発生します。
5)利用者が快適に使えること
管理の課題にばかり目が行ってしまうと軽視されがちですが、利用率の向上は重要なポイントです。利用率が上がらなければ取り組み自体の価値が半減します。仮想化に詳しくないユーザにも利用してもらえるように、操作手順の簡潔性、UIのわかりやすさを重視しました。また、オーダから仮想マシンの展開までの時間についても重視しました。
仮想化ソフト選定のポイント
仮想化ソフトウェアはプライベートクラウドの基本となる構成要素です。
VMware、Hyper-V、XenServer、OracleVM、KVM等の選択肢があります。
どのような方針で選択すればよいでしょうか?
性能よりも大事なこと
一昔前は「どの仮想化ソフトウェアがよいか?」という問いに対して、仮想化時のオーバヘッドや安定性と言ったことに話題が終始していましたが、仮想化ソフトウェアの成熟化が進み、基本性能では目立った差がなくなってきています。現在、業界では管理面での機能性についての競争が盛んに行われており、プライベートクラウド構築に用いる仮想化ソフトウェアを選定する際もこの点が一番の差別化要素になります。
OSSを活用するに
XenやKVMのようなOSS(Open Source Software)を用いることを検討している方もいらっしゃるかと思います。OSS系の仮想化ソフトは、前述のように性能面で比較すれば遜色のない選択肢になりつつあります。しかし、管理面を充実させるために埋めなければいけない差分が大きいという問題点があります。その問題をカバーするため、ベンダー各社はXenServer、OracleVM、Red Hat Enterprise Virtualization 等、XenとKVMを核として独自の管理系機能を付加したパッケージを発売しています。また、管理系のOSSとしてEucalyptusやOpenStackなどのソフトウェアが注目を集めています。プライベートクラウドの基盤としての仮想化ソフトウェアを選択する際は、Xen、KVMそのものを比較するのではなく、その周辺系を含んだこれらのパッケージを比較の対象とするほうがよいでしょう。
また、OSS活用を検討する際に特に気にしていただきたいのはサポート体制です。仮想化ソフトウェアはプライベートクラウドのすべてにかかわる重要な構成要素なので、ここでの問題は全体に波及します。外部の専門家チームと連携して迅速に問題に対処できる体制を構築する必要があります。OSSを用いた場合は、問題のエスカレーション先をどのように確保できるのか検討しておく必要があります。
Red Hat Enterprise Virtualization はいいとこ取り
弊社では、これらの点を考慮しRedHat社が提供するRed Hat Enterprise Virtualizationを選択しました。Red Hat Enterprise Virtualization はKVMに独自の管理系を付加したパッケージになっており、ミドルクラスの管理機能はほぼ網羅しつつも、価格が比較的安く設定されているという点を評価しました。また、KVMの主要コミッタを多数抱えるRedHat社からサポートを得られるという点も評価しました。Red Hat Enterprise Virtualization に関する詳しい情報はRedHat社の公式サイト(http://www.jp.redhat.com/virtualization/rhev/server/)をご参照ください。
※Red Hat Enterprise Virtualizationは、レッドハット株式会社の登録商標です。
※その他、各会社名、各製品名は、各社の商標または登録商標です。
※ 「vHut」は無料提供のため、お問い合わせには限られた範囲での対応となる ことをご容赦ください
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