2021年のNW動向 ~高速化技術とクラウド 第1回~
近年のネットワーク利用状況と高速化技術について解説
テクノロジーコラム
- 2021年03月10日公開
NTTテクノクロスの山下です。はじめまして。私はフューチャーネットワーク事業部に所属しており、主にネットワークの高速化の分野で仕事をしております。 高速化の分野は直接ユーザに接しないことが多いのですが、様々なサービスを提供しています。 最近では、ネットワークの高速化技術を利用した開発やそれを利用した海外での実験サポートの業務をしていますが、 本ブログを通して、高速化技術を多くの人に知ってもらおうと思い、記事を連載することにしました。
本連載シリーズの構成
本連載では、ネットワーク高速化技術であるDPDK(Data Plane Development Kit)を中心に述べています。
全体の構成や関連動画や関連ブログについて以下に示します。
No | タイトル | 概要 |
第1回 | 2021年のNW動向 | 本ブログ。ネットワーク高速化が必要とされる利用を解説 |
第2回 | DPDKコミュニティとNTTテクノクロスの取り組み | DPDKコミュニティに対するNTTテクノクロスの関わり |
第3回 | DPDKコミュニティへの提案と結果 | DPDKコミュニティに提案した改善とその結果 |
関連動画 | 【5分でわかる】 DPDKは何ができるの?メリットは?【知識ゼロでもOK】 | DPDKについて簡単にまとめたYouTube動画 |
関連ブログ | DPDKとは? ~DPDK入門 第1回~ | DPDKの使い方について解説する技術的なブログ |
本ブログで伝えたいこと
日々の仕事や普段の生活を過ごす中で、近年特にインターネットサービスの充実度・高度化を感じる時があります。本を読むのも出前をとるのもスマホです。今回は、実際の私の生活の中でのインターネットの利用シーンを振り返り、自分の仕事であるネットワーク高速化やクラウドとの関わりについて考えてみました。
「ネットワークを流れるデータ量は近年すごい勢いで増加しており、これを支える技術としてネットワーク高速化やクラウド技術が貢献している!」
これを本ブログで伝えたいと思います。
ネットワークに対して思うこと
さて、実際に、日常の生活で通信量が増えているかどうかを考えてみます。
とても人気があるYouTubeを例にします。
YouTubeのチャンネルにも様々なものがあるようです。
・ゲーム実況
スプラトゥーンのゲーム実況をよく見ています。見てるだけでも楽しいですし自分のゲームプレイの参考にしています。
・やってみた系
数千万の外車を買ってみた。サーキットで走らせてみた。
・商品レビュー系
高価なプラモデルの組み立てレビュー。
会社への通勤やプライベートでの移動時にも、ついつい新しい動画がアップロードされるとすぐに見てしまう方も多いのではないでしょうか。
ただ、一つ問題があります、、月末には、、、、、次のような状態になります。
「ギガ死」= 契約した通信容量を使い切ってしまい、その後は月末まで通信制限がかかること。ノロノロになる状態
さて、ギガ死へ至るほどのデータ量はどのくらいなのかを解説します。
実際にどの程度のデータを利用するのか
YouTubeを外で視聴した場合に、どの程度のデータ容量を消費するのかを調べてみました。HD画質で再生した場合、1時間の再生で、おおよそ「1.1Gバイト」くらい消費します。通勤・通学で毎日2時間動画をみると、1か月で45Gバイトものデータ通信を消費します。。参考までに、8K映像だとおよそ10倍の9Gバイトの消費となります!
肌感覚では、「日々の生活の中でデータを使う量は増えている」というのが私の実感なのですが、実際のところ、どうなのだろうかと思って少し調べてみました。総務省発行の令和2年版情報通信白書は以下のURLで公開されています。
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/index.html
白書では「データ流通量の爆発的拡大」として、日本におけるインターネットトラフィックについて触れています。
ダウンロードトラフィックが5年前と比較して約1.5倍となっています。これは無線・有線を含んだ値ですが、たしかにデータ量は増えていそうです。
図1.我が国のブロードバンド契約者の総トラヒック
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nd131110.html
また以下は、全世界を対象にした将来における1か月あたりの通信量が予測されています。2017年を基準とした場合、2022年には、およそ3倍程度に通信量が増加すると予測されています。昨年からサービス開始された5Gサービスの普及も通信量増加に関係するのではないかと思います。
図2.IPトラヒックの推移
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nd131110.html
通信量の増加に伴い、新しいサービスである5Gへの期待やネットワークの高速化への需要も増えています。気になりますよね?続きをどうぞ!
5Gとは
日本でも5Gサービスが昨年サービス開始されました。TVのCMでも最近特によく見ますね。でも、この5Gって何なんでしょうか?携帯電話システム発展の歴史や5Gの特徴についてご紹介します。
移動通信システムの歴史
5Gは第5世代の移動体通信規格を意味しますが、ここで第1世代から現在までの移動体通信の進化について示しています。
今は、ケータイというよりスマホの時代。データが重要というイメージがありますが、3Gが始まる20年くらい前まではデータ通信はありませんでした。3Gで誕生したデータ通信が、4Gで本格化し、5Gでさらなる進化!!!ですね。
図3.移動通信システムの進化
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nd111230.html
5Gの優れた点
5Gは4Gに比べて、特に以下の3点で進化しています。
ア 超高速通信(eMBB) 4Gの10倍以上の速度。 イ 超低遅延通信(URLLC) 4Gの10分の1程度に短縮。 ウ 多数同時接続(mMTC) 5Gでは1平方キロメートルあたり100万台程度の端末が同時に接続できる。
おお、なんだか、かなり凄そうです。「今までの10倍」とか「今までの1/10」が目標値となっています。超高速通信は、例えば、4K/8Kなどの映像のようにサイズの大きい映像が携帯でも利用することができます。超低遅延通信や多数同時接続は、自動運転やロボット分野など工業分野での利用が見込めそうですね。
2年ほど前になりますが、世界的な携帯電話の展示会であるMWC(Mobile World Congress)では「ロボ書道」として、操作者の動きをセンサーで検出し、5G経由でロボットに伝えて書道をするデモがおこなわれたようです。ここではあくまでも例は書道ですが、遅延が大きいことが許されない作業などでは5Gの超低遅延通信が必要ということではないかと思います。
https://www.nssol.nipponsteel.com/future/stories/5g-factory-004.html
高速化技術としてのDPDK
数ある高速化技術の中で、ソフトウェアレベルでの高速化であるDPDKについて説明します。
DPDKとは、Data Plane Development Kitの略で、オープンソースとして公開されている高速パケット処理用の開発キットです。
DPDKはOSSで世界的に活用されていて、最近とても流行しています。
なお、弊社のブログでDPDKの技術解説記事を連載中です。NTTテクノロスの情報畑でつかまえて『DPDK入門』
また、「5分でわかるDPDK」として以下の動画を公開しています。
DPDKは以下のような特徴を有しています。
■DPDKで何ができるのか
通信を大容量・低遅延で処理するようなアプリケーションを作成することが可能です。
■DPDK導入の課題は何か?
・利用するための難易度が高いこと
・OSによらない独自の開発手法になるので、CPU利用率などをつかみにくい
NTTテクノクロスでは、この課題に対して改善活動の提案を行っており、詳細については次回以降で述べさせていただきます
NTTテクノクロスのDPDKへの取り組み
NTTテクノクロスのDPDKへの取り組みをいくつかご紹介します。
A)国際会議参加
2018年からDPDKの国際会議に5回参加しています
国際会議はすべて録画されて、後日以下のようなYouTubeですべて公開されていますし、メーリングリストもありますが、やはり実際の会議に参加して「直接話す」ということは有益だと、私は思います。
■DPDKの動画
https://www.youtube.com/channel/UCNdmaRMwOBu0H8a7DdXAT9A
数年前の動画では、私も話している箇所があるので探してみてください
B)MLでの議論
新しくリリースされた機能などで不明な点があればDPDKのMLで質問をします。DPDKはドキュメントが充実していますが、わからないことは開発者に聞くのがよいです。親切に答えてもらえます。
C) バグパッチ投稿
私が2019年にvhostという機能部のバグを発見し、パッチ投稿し採用されています。以下はリリースノートからの抜粋です。
More details in the release notes: http://doc.dpdk.org/guides/rel_notes/release_19_02.html
There are 20 new contributors (including authors, reviewers and testers). Thanks to Andy Pei, Asaf Penso, Chenmin Sun, Damian Nowak, David Zeng, Erez Ferber, Gao Feng, Haifeng Li, Harman Kalra, Hideyuki Yamashita, Leyi Rong, Lukasz Krakowiak, Mohammed Gamal, Noa Ezra, Ruifeng Wang, Saleh Alsouqi, Solganik Alexander, Tiago Lam, Xiao Liang, Yasufumi Ogawa.
クラウド
さて、弊社でDPDKの開発をするときにはクラウドを利用しています。 ここで、少しクラウドについて触れます。
クラウド
弊社では、高速化技術をテストする環境を実機で用意するのは大変なため、プライベートクラウドを利用しています。
プライベートクラウドは、パブリッククラウドと比較して、ネットワーク通信帯域を他者と共有せずに専有に近い状態で利用することができ、ネットワーク通信量に対して従量課金が発生する心配もありません。
このため、DPDKの改造あるいはDPDKアプリケーションを作成する場合に、プライベートクラウドを便利に利用しています。
■近年のプライベートクラウドの状況
先日、IDC Japan 株式会社が、国内プライベートクラウド市場予測を発表しました。
https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ46935320
これによると2020年の国内プライベートクラウド市場規模は、前年比19.9%増になると予測しています。 また、2019年~2024年の年間平均成長率は28.6%で推移し、2024年の市場規模は2019年比3.5倍になると予測しています。
https://cdn.idc.com/embedded/image/prJPJ46935320/prJPJ46935320-F-1
これまでプライベートクラウドは、ITの効率化を目的とした企業での導入が進んできたようですが、今後は、ITの効率化だけでなく特定産業や特定エリアにおける高速データ通信を必要とするサービス基盤としてもプライベートクラウドの導入が進むのではないかと思います。
NTTテクノクロスのOpenStackへの取り組み
弊社は、プライベートクラウドをOpenStackというオープンソースソフトウェアを用いて構築しています。 弊社は2011年からOpenStackに関する活動に取り組んでおり、プライベートクラウドの構築を得意としています。 ここでは、NTTテクノクロスのOpenStackへの取り組みをいくつかご紹介します。
A)国際会議参加
2012年からOpenStackの国際会議に参加しています。また、2016年からは弊社のブログで参加レポートを掲載しています。
・OpenStack Summit 2016 Austin
・OpenStack Summit 2016 Barcelona
・OpenStack Summit 2017 Boston
・OpenStack Summit 2017 Sydney
・OpenStack Summit 2018 Vancouver
・OpenStack Summit 2018 Berlin
・Open Infrastructure Summit 2019 Denver
B)バグパッチ投稿
OpenStackのバグを発見し、パッチ投稿し採用されています。ここでは、弊社が対応した主なバグレポートをいくつかご紹介します
・HorizonでVM退避(Evacuate)実行時、行先ホストを選ばずスケジューラに任せるとエラーになるバグの修正
https://bugs.launchpad.net/horizon/+bug/1793694
・Novaのスケジューリング時に行われる各ノードの空き容量比較で、停止VMのディスク消費量が考慮されていないバグの修正
https://bugs.launchpad.net/nova/+bug/1693679
・Nova・CinderのiSCSIターゲットへのログイン設定が「自動」から誤って「手動」になってしまうバグの修正
https://bugs.launchpad.net/os-brick/+bug/1670237
このように、弊社はOpenStackを用いてプライベートクラウドを構築しており、DPDKの開発など様々な用途に対してクラウドを便利に活用しています。
次回予告
今回は、将来的にネットワーク上の通信量は増加する傾向にあることを解説しました。「高速・低遅延」でパケット処理を実現する技術要素の一つとしてDPDKについて紹介しました。次回以降では、DPDKコミュニティに弊社から提案している機能に関して記事を書こうと思います
[著者プロフィール]
フューチャーネットワーク事業部 第一ビジネスユニット
山下 英之(YAMASHITA HIDEYUKI)