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Salesforce MVP 鈴木貞弘の「Agentforce 匠指南」シリーズ 第3回: Golden Hoodie保有者が教えるAgentforceの実装ステップ(標準機能編)

本記事では、長年のSalesforceエコシステムでの経験と、最新のAI技術への取り組みを通じ、新しいブログシリーズ「Agentforce 匠指南」を始めます。全5回にわたり、Salesforceの未来を担うキーテクノロジーであるAgentforceについて、基礎から応用、そして展望までを、私の「匠の視点」で徹底的に紐解いていきます。

1. はじめに:理論から実践へ、開発者でなくても「匠」になる第一歩

2では、Agentforceの内部構造であるアーキテクチャを解剖しました。理論的な理解が深まったところで、今回は皆さんと一緒に「手を動かすステップ」へと進んでいきます。

コミュニティでよく聞かれるのは、「仕組みは分かったけど、結局どうやって作ればいいの?」という声です。私はこれまで多くの企業でSalesforceの導入を手がけ、数々のTrailblazerと交流してきました。その経験から、成功と失敗を分けるのは、知識だけでなく、「正しい手順で実際に作ってみる」という実践です。

今回は、皆さん自身がAgentforceの「匠」になるための第一歩として、最も一般的なユースケースである「顧客サポートエージェント」を例に、具体的な実装ステップを解説します。Apexコードを一切使わず、Salesforceの標準機能だけでエージェントを構築する方法に焦点を当てます。
2025
9月現在、最新のAgentforce 3では8月にリリースされた「Agentforce Command Center」がフル活用可能になり、実行トレースの可視化と50%のレイテンシー低減が実現されたことでテストやデバッグが格段に容易になりました。これらの最新機能を活用しながら、実践的な実装方法を学びましょう。

2. 実装の全体像:迷わないためのロードマップ

いきなり作業を始める前に、実装プロセス全体を俯瞰しましょう。Agentforceの構築は、以下のシンプルなステップで進めることができます。

 ・環境設定: Agentforceを有効化し、必要な権限を付与します。

 ・トピックの定義: エージェントに実行させたいタスクを定義します。

 ・アクションの作成: トピックに紐づくアクションをフローで作成します。

 ・テストとデバッグ: 構築したエージェントが意図通りに動くかテストします。

3.  標準機能だけで作る!Agentforce実装ステップガイド

ここでは、お客様から問い合わせがあった際に、問い合わせの状況を確認して回答するシンプルなAgentforceエージェントを構築します。このエージェントは、Salesforceのフロー(Flow)機能と連携し、Apexコードなしで動作します。Flowとは、Salesforce上で業務プロセスを自動化するためのツールであり、条件分岐やデータ取得、通知などの処理を組み立てることができます。

シナリオ: 顧客が「ケースの状況を教えてください」と発話すると、Agentforceがケース番号を尋ね、フローを起動してケースのステータスを返答する。

ステップ1: 環境設定

 ・Agentforceの有効化: 「設定」から「Agentforce」を検索し、「エージェントを有効化」にチェックを入れます。

 ・権限セットの割り当て: 関連するユーザーに「Agentforceユーザー」権限セットを割り当てます。

ステップ2: トピックの定義

エージェントが「ケース状況の確認」という意図を理解できるように、トピックを定義します。

 ・トピックの作成: 「Agentforce」設定画面から「トピック」タブを開き、新しいトピックを作成します。

  ・トピック名: 「ケース状況確認」

  ・説明: 「顧客からのケース状況に関する問い合わせに対応する」

ステップ3: フローを使ったアクションの作成

Apexコードの代わりに、Salesforceのノーコードツールであるフローを使ってアクションを定義します。

 ・フローの作成: 「設定」から「フロー」を検索し、新しい「画面フロー」を作成します。

 ・要素の追加:

  1.入力画面: ユーザーにケース番号を入力させるための「テキスト入力」コンポーネントを配置し、入力値を変数に格納します。

  2.レコードの取得: 入力されたケース番号に一致する「ケース」レコードを取得します。

  3.出力画面: 取得したケースの「状況」(Status)を表示します。

 ・Agentforce連携アクションの作成: 作成したフローをAgentforceと連携させます。

  ・「設定」から「Agentforce」の「アクション」タブを開き、新しいアクションを作成します。

  ・「フロー」タイプを選択し、ステップ3で作成したフローを紐づけます。

  ・入力変数と出力変数を適切に設定します。

ステップ4: テストとデバッグ

 ・テスト: Agentforceのテストコンソールで、実際に発話例を入力してみます。「ケースの状況を教えて」と入力し、フローが起動してケース番号を尋ね、最終的に状況を正しく返答するかを確認します。Agentforce 3Command Centerを活用すれば、実行ログをリアルタイムで監視でき、もしエラーが発生しても、どのステップで問題が起きたかを素早く特定できます。

4. Golden Hoodie保有者が教えるAgentforceの実装Tips(標準機能編)

私の経験とコミュニティでの交流から得られた、実装でつまずかないための5つのポイントを共有します。

 ・トピックの重複を避ける: 似たような意図を持つトピックが複数あると、エージェントが混乱します。トピックを設計する際は、その役割を明確に定義し、重複がないように心がけましょう。

 ・フローはシンプルに: 一つのフローに複雑なロジックを詰め込みすぎないことが重要です。機能を細かく分割し、再利用性を高めましょう。

 ・発話の例を充実させる: できるだけ多くの発話例を追加することで、エージェントの理解度が向上します。ユーザーが使いそうな言葉を想像して、多様なバリエーションを登録しましょう。

 ・まずはスモールスタート: 最初から大規模なエージェントを構築するのではなく、小さなタスク(例: 今回のケース状況確認)から始めて、成功体験を積み重ねることが大切です。

 ・テストを習慣化する: 機能を追加するたびに、必ずテストを行いましょう。特に、Command Centerを活用したデバッグは、問題の早期発見に非常に有効です。

5. 次回予告:Salesforceの匠が明かすAgentforceのベストプラクティスと課題克服

3回では、Apexコードを使わずに標準機能だけでAgentforceエージェントを構築する方法を解説しました。これで皆さんも、ノーコードでAgentforceの世界に飛び込めるはずです。

次回、第4回は「Salesforceの匠が明かすAgentforceのベストプラクティスと課題克服」と題し、本稼働後に直面する可能性のあるパフォーマンスやデバッグの課題について、具体的な解決策を私の経験を交えて解説します。どうぞお楽しみに!

連載シリーズ
Agentforce匠指南
著者プロフィール
鈴木 貞弘
鈴木 貞弘
2000年にNTTテクノクロスの前身であるNTTソフトウェアに入社。Service Cloudでのコンタクトセンター構築案件に数多く従事。Salesforceエバンジェリストとして2017年に日本人初の非開発者系MVP、Golden Hoodie Awardを受賞。2023年にはSalesforce MVPの殿堂入り。日本で初開催となるAgentforce Community Tourを主催するなど業界の先駆者(Trailblazer)として活躍中。