Salesforce MVP 鈴木貞弘の「Agentforce 匠指南」シリーズ ~【第1回】匠が語るAgentforceの基礎と革新性~
本記事では、長年のSalesforceエコシステムでの経験と、最新のAI技術への取り組みを通じ、新しいブログシリーズ「Agentforce 匠指南」を始めます。全5回にわたり、Salesforceの未来を担うキーテクノロジーであるAgentforceについて、基礎から応用、そして展望までを、私の「匠の視点」で徹底的に紐解いていきます。
Agentforce匠指南 第1回
- 2025年10月23日公開
1. はじめに:なぜ、今Agentforceなのか?
2008年からSalesforceエコシステムの世界に飛び込み、早17年。おかげさまで、日本人初の非開発者系Salesforce MVP(2017年)、そしてMVP Hall of Fame入りという大変光栄な称号をいただきました。
コミュニティ活動を通じたイベントでの登壇や技術記事の執筆を通じて、現場で培った知見を共有してきました。
イベントなどでトレードマークのGolden Hoodieを見て「あ、匠の人だ」と思っていただけたら嬉しいです。
さて、この度、私が長年のSalesforceエコシステムでの経験と、最新のAI技術への取り組みを通じ、新しいブログシリーズ「Agentforce 匠指南」を始めます。全5回にわたり、Salesforceの未来を担うキーテクノロジーであるAgentforceについて、基礎から応用、そして展望までを、私の「匠の視点」で徹底的に紐解いていきます。
Salesforceには従来から「Einstein」などのAI機能がありますが、Agentforceとは、自律的にタスクを実行するAIエージェントを作成・管理・展開するためのプラットフォームです。なぜ今、Agentforceに注目すべきなのか。それは、Salesforceが単なるSFA/CRMシステムから、自律的にビジネスプロセスを推進するインテリジェントなプラットフォームへと進化を遂げたからです。特に、2025年6月に発表されたAgentforce 3は、AIの応答速度が従来比50%向上するなど、AIエージェントのスケーリング課題を解決する大きな一歩となりました。これは、単なる機能追加ではなく、企業活動のあり方を根本から変える可能性を秘めているのです。
2. Agentforceとは何か:単なるチャットボットではない、自律型AIエージェントの衝撃
Agentforceとは、一言で言えば「自律的にタスクを完了させるAIエージェント」です。
従来のチャットボットや対話型AIは、事前に定義されたルールやシナリオに基づいて動作します。しかし、ユーザーの要求が複雑になると、途端に対応できなくなります。
一方のAgentforceは、ユーザーの複雑な要求に対し、複数のシステムやデータソースを横断し、思考・計画・実行する能力を持っています。例えば、「急ぎの顧客からの問い合わせがあるんだけど、新しいサポートケースを作成して、担当の営業に通知してくれる?」という要求があったとしましょう。
Agentforceは、この要求を以下のように分解して自律的に行動します。
1.思考・計画: ユーザーの意図を理解し、この要求を完了させるための手順を計画する。
2.情報収集: 顧客情報を確認し、必要に応じてウェブ検索で最新の業界ニュースを参照するなど、外部情報も活用する。
3.アクション実行: Salesforce上で新しいサポートケースを作成する
4.通知: SlackやChatterを通じて担当の営業に通知を送る。
この一連の流れを、人間が介在することなく、エージェントが自律的に完結させるのです。これは、従来の生成AIでは実現できなかった、まさに革新的な進化です。
3. 革新の核心「Atlas Reasoning Engine」
Agentforceの自律的な振る舞いを支えているのが、SalesforceのAI技術の根幹である「Atlas Reasoning Engine(Atlas推論エンジン)」です。このエンジンは、単なる大規模言語モデル(LLM)ではなく、思考、推論、アクション実行を可能にする独自のフレームワークです。
Atlas Reasoning Engineは、まるで熟練したコンサルタントのように、複雑なタスクを分解し、最適なソリューションを見つけ出します。
1.意図理解: ユーザーの自然言語による要求を解釈し、その背後にある真の意図を把握します。
2.計画立案: 意図を実現するために、利用可能なツール(Salesforceの標準機能、Apexアクション、外部APIなど)とデータを組み合わせて最適な実行計画を立てます。
3.アクション実行: 立案した計画に基づき、各ツールを呼び出し、タスクを順次実行します。
4.モニタリングと調整: 実行中に予期せぬ問題が発生した場合、計画をリアルタイムで再評価し、修正します。Agentforce 3では、このモニタリングプロセスが50%高速化され、応答性能が飛躍的に向上しました。
4. 匠視点でのSalesforceとの統合メリット
私が長年現場でSalesforceの導入・活用支援をしてきた経験から見たとき、AgentforceがSalesforceに統合されることによるメリットは計り知れません。
4.1. 既存システムのAI能力を飛躍的に向上
Agentforceは、既存のSalesforce AI機能(Einstein)と共存し、その能力を拡張します。特に、Agentforce 3では、Omni-Channelとのシームレスな連携が強化され、Slackや外部ツールともよりスムーズに連携できるようになりました。
4.2. 業務プロセスの根本的な変革
Agentforceは、単に個々のタスクを自動化するだけでなく、部門横断的なワークフローを自動化することで、業務プロセスそのものを根本から変革します。
・営業: 見込み客からの問い合わせに対し、自動でリードを作成し、関連資料を送信し、商談を立ち上げる。
・カスタマーサービス: 顧客からの問い合わせを分析し、最適な解決策を提示するだけでなく、必要に応じて返品プロセスを自動で開始し、追跡番号を通知する。
さらに、2025年5月に開催されたSalesforceのグローバルイベント「World Tour NYC」で発表のあった「特定の業界に特化したプリビルドエージェント」を活用すれば、導入にかかる時間とコストを大幅に削減できます。またそれに合わせてAgentforceの価格も改定され、以前よりも多くの企業が導入しやすい環境が整いました。これは中小企業にとっては大きなメリットとなるでしょう。
5. 次回予告:現場の匠が解剖するAgentforceのアーキテクチャ
第1回では、Agentforceの全体像と革新性を解説しました。Agentforceは単なるツールではなく、これからのデジタル労働の鍵を握る存在です。
次回、第2回は「現場の匠が解剖するAgentforceのアーキテクチャ」と題し、Agentforceを構成する主要なコンポーネント(トピック、Apexアクション、セキュリティ)について、深堀りします。貴社のビジネスにAgentforceをどう組み込むか、その具体的な設計思想について、私の経験を交えて解説します。どうぞお楽しみに!

2000年にNTTテクノクロスの前身であるNTTソフトウェアに入社。Service Cloudでのコンタクトセンター構築案件に数多く従事。Salesforceエバンジェリストとして2017年に日本人初の非開発者系MVP、Golden Hoodie Awardを受賞。2023年にはSalesforce MVPの殿堂入り。日本で初開催となるAgentforce Community Tourを主催するなど業界の先駆者(Trailblazer)として活躍中。

