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NWディスアグリゲーションで広がる世界 ~NOS入門 第1回~

NOSとは?というところからSONiCやVyOSといったNOSの具体例、NWディスアグリゲーションも含めた今後の見解をご紹介します。

はじめに

こんにちは、NTTテクノクロスの山口です。

ネットワーク(NW)領域では、近年ディスアグリゲーション(分割)がトレンドとなっています。
例えばSDNコントローラによる制御(コントロールプレーン)とデータ転送機能(データプレーン)の分離や、
ハードウェア(HW)とソフトウェア(SW)の分離(=ホワイトボックス化)、機能的な分離などがあげられます。
これによりNWの柔軟性・強靭性や、調達物の機能削減によるコスト低下が狙えます。
                      図1 NWディスアグリゲーションの種類例

上記のように様々なディスアグリゲーションがある中で、今回はこれらの中でHWとSWの分離、
ホワイトボックスソリューションと、それに関連するNOSに関して紹介したいと思います。
NOS・ホワイトボックスとは何か・メリットとは?というところから、
具体的なNOSの紹介、NOSの実情と今後の予測についても述べていきたいと思います。

■ 目次

節番号 節タイトル
1 NOSとホワイトボックスとは
2 OSSなNOSの具体例
3 NOSの実情とディスアグリゲーションの今後

NOSとホワイトボックスとは

NOSとは「Network Operating System」の略称で、名前の通り、NW機能を重視したOSの事を指します。
OSというとLinuxやWindowsを浮かべる方が多いと思います。
例えば著名なLinuxディストリビューションであるCentOSやUbuntuではスタティックルーティングやiptablesによる
フィルタリング、bondingによるLAG形成等、一部NW関連の機能がありますが、OSPF等の動的ルーティングは
デフォルトでは実施できません。(※)
 ※ 追加でパッケージ等を入れれば対応できるNW機能もありますが、細部は追加パッケージに依存します

よって上記のような、よりNW寄りの機能を追加したOS、というイメージで考えていただくとわかりやすいかと思います。

                        図2 OSとNOSの違い

NOSで最も有名なものはCisco IOSやJuniper Junosかと思います。
これらはスイッチやルータといったNW専用機器のOSとして、ベンダー企業がHW(NW機器)とセットで販売していました。
セット販売であるが為にHW的に満たしたいスペックはあるが、その際には不要なSW的な機能がついてくる、
あるいは逆のパターンのようなケースも発生し得ます。
これにより調達コストも上がっていました。

                    図3 HW/SWセットによる課題例と分離による恩恵

こういった課題を解決する為にHWとSWの分離という考えが登場し、ホワイトボックスの始まりとなったといえます。
これは言い換えればHWとSWを自由に組み合わせる事を目指した取り組みとも言えます。

メリットとしては上で記載したような必要な構成やスペックをもったHWと、必要な機能を持ったSWを組み合わせる事による
調達コストや機器の最適化以外にも以下が狙えます。

概要 説明 具体例
1. ベンダロックインの
  回避・低下

NWを開発・運用する上で、特定の1社に絞り込んだ
設計を行ったり運用を依存し切るのはリスクが
高いと言える。

例えば特定1社の都合による制約等が発生したり、他社製品を
後から使いたくなった際に現運用の社しか対応していない機能や
独自プロトコルを使用している事による相互運用の高難易度化が
あげられる。

2. 機器の調達観点での
  柔軟化

HWとSWを分離している為、特定ベンダーのHWの
調達が困難となった場合、別のベンダーのものを
調達する事で影響を最小化できるようになる。

直近でもコロナウイルスの影響で世界的な半導体不足に
一時期なり、機器の調達に時間を要するといった事例がある。

一方でHWとSWの分離を進めるにあたり、複数のSW(NOS)をサポートする、自由度の高いHWが必要となります。
こういったOSの載っていないNW機器をホワイトボックス(ホワイトボックススイッチ等)と呼びます。
また、HWに載せるSWにおいても今日までに商用版だけでなく、OSS版も含め様々なNOSが登場してきました。

NOSという観点だけで見れば、ホワイトボックス以外にも適用先があり、そのパターンは大きく以下の2つになります。

説明
1. 汎用サーバやVMでNW機能を実現するもの
2. OSが載っていないスイッチ(ホワイトボックススイッチ)等の、NW専用機器に載せる為のもの

 ※ どちらも実現できるものもあります
   また、上記以外に複数のNW機器を管理できるOS(例:ONOS)もNOSと呼ぶが、ここでは省略する

ホワイトボックスソリューションといえば、言わずもがなですがHWは汎用サーバではなくホワイトボックス機器から
選ぶ形となる為、No.2の方が該当します。

                     図4 NOS(OSS)の種類

ちなみに余談ではありますが、NTTが進めるIOWNに関連した言葉で
ディスアグリゲーテッド・コンピューティング」と呼ばれるものがあります。
これはデバイスの物理構成や論理構成を変更することで、光技術を生かした高性能化とあわせて、
リソースや機能の拡張性を向上させる、新アーキテクチャの実現を目指しています。
また、これを実現するデバイスをスーパーホワイトボックスと呼んでいます。

本記事では上記に関する話はこれ以上取り扱いませんが、気になる方はこちらをご参照下さい。

OSSなNOSの具体例

この説では前節で述べた以下2点について、具体的なNOSを紹介します。

① 汎用サーバやVMでNW機能を実現するもの
② OSが載っていないNW専用機器に載せるもの

なお、NOSは商用版・OSS版の2つがありますが、OSS版はすぐ試せることや
注目度も高いことから、OSS版のNOSをそれぞれ紹介したいと思います。

① 汎用サーバやVMでNW機能を実現するもの

具体的な例として「VyOS」を紹介します。
VyOSはVyattaを前身に作られたNOSで、アーキテクチャは従来のOSのようなモノシリックなものとなります。
特徴としてはルーティング機能に特化しており、BGPやOSPFといった動的ルーティングプロトコルに加え、
IPsecやL2TPといったVPN技術も充実しています。

VyOSにより汎用サーバ等もNW機器として活用できる為、NW構築の選択肢や柔軟性が向上しました。
サポートしている構成は「x86マシン(32bit,64bit)」といった物理マシンの他、VMwareやKVMといったVM、
Amazon EC2といったパブリッククラウドサービスでも活用が可能です。
様々な構成をサポートし、機能も多様である事からユースケースも様々で広く適用が可能かと考えます。

また、VMにも適用可能である事から、NWの仮想化(NFV)にも貢献した、ともいえます。

② OSが載っていないNW専用機器に載せるもの

具体的な例としてここでは「SONiC」を紹介します。
SONiCはMicrosoft社が中心に開発したもので、特徴的なのがNW機能をコンテナで実現するアーキテクチャです。
考えられているユースケースはデータセンター(DC)での活用であり、BGPのようなルーティングプロトコルを
サポートするものの、コンテナによる冗長性や拡張性がこのNOSの強みといえます。

また、SONiCの内部でSAIという仕組みを使用しています。
ここでは長くなるため、SAIについて細かく記載はしませんが、興味があれば調べてみてください。

なお、SONiCは現在100種類以上のHWでの動作をサポートしています。
 ※ サポート機器はこちらをご確認ください。

また、基本はホワイトボックス機器向けのNOSとなりますが、主として実験用途でKVMやdockerコンテナで動かせるものも
存在します。

NOSの実情とディスアグリゲーションの今後

ここからはNOSの実情やディスアグリゲーションも含めた今後について紹介したいと思います。

まず、NOSの実情についてですが、以下のような事が言えます。

概要 説明 具体例
① 商用利用について 特にホワイトボックス向けNOSでは、
OSS版だとサポートがないという事もあり、
商用NOSが使用されることが多い。
その為、ホワイトボックスソリューションは
NW構成の選択肢の幅は広がるものの、
多くしすぎると結果的にベンダロックインに
近しい状態になりうる。

一方で商用NOSも複数にしようとすると
今度は学習コストが高くなる、というデメリットが
生じる。

例えば商用NOSとしては(他にも選択肢はあるものの)
Cumulus Linux(NVIDIA社)が多く取り入れられているが
本NOSばかり採用すると(HWは選べるものの)SW観点で
特定の社への依存度が高まってしまう。
② 機能の不足について OSS版を活用しようとする場合でもOSS版NOSでは
機能が足りないことから、自前でNOSを開発することもある。
これによりコスト増となる可能性がある。
NTTグループもbelganos(L2/L3装置)や
GoldStone(光伝送装置)を開発している。
③ OSS NOS以外の
  技術進歩

ホワイトボックスソリューションやNOSの目的は
NWの自由度をあげ、ベンダロックインを
避ける事だったが、元々意識してきたベンダ製品も
新機能や新対応等により、自由度が増してきている。

また、SDNの発展によりマルチベンダー構成のNWを
作りやすくもなってきている。

[ベンダ製品の自由度の向上]
ベンダ製品もAPIを開放したり、telemetryといった
新技術により様々な情報が見られるようになった。

また、HW/SWをセットで販売していたベンダも
ホワイトボックス対応をする傾向もある。
例えばCisco社の場合、Nexus(HW)とNX-OS(SW)の
分離を実施している。

[SDNの発展]
SDNコントローラでNW機器差分を吸収する事で、
NW管理者・保守者は機器差分を考える事なく
設定等を行うことができるようになってきている。

上記のような傾向から当初の目標であった「ベンダロックインを避け、目的にあったものを低価格で仕入れて
自由度・柔軟性にあったNWを構築する」という狙いも、様々な手段で対応できるようになってきており、
ホワイトボックスソリューションやOSS版NOSの導入は上記目標に必須というわけではなく「手段の1つ」という状態です。
また、手段が増えるという事はNW構成がより複雑になっていく傾向があります。
上記に加え、単純な機能分離という意味でのディスアグリゲーションの流行もあり、OpSやEMS等も含めたNW構成は
更に複雑みが増していきます。

こういった課題の対策として、個人的な見解ではありますが、今後は更なるディスアグリゲーションの推進以外に
AIの活用も含めた、NW全体の効率的管理ができるOpSや、NW構成要素の統廃合が発生するかもしれません。

例えば前者はクローズドループでの最適化(可視化・AIによる判断・NW制御)が近年トレンドとなっていますが、
NWの局所最適となっている場合も多く、今後はNW全体をみた最適化、という方向に進んでいくのではないか、と思います。
その一例としてNTTの目指すIOWNのコグニティブ・ファウンデーション(CF)がその目指す姿といっても良いのかもしれません。

                  図5 NTTの目指すIOWNと、その要素のCF (参考:https://www.rd.ntt/iown/0001.html

後者でいえば、これまで様々なものを分離した上で運用を重ねる事で課題なども見えてきているように思います。
その点で「どのように分離するべきなのか」、分け方に関する知見もたまってきており、
運用を効率化する為に「あえて分割しない(=統廃合する)」といった選択肢もとられるかもしれません。

少し広い範囲とはなりますが、ゼロトラスト(SASEやSD-WAN、XDR)によるセキュリティネットワーク融合や
移動固定通信の融合などが例としてあげられるかもしれません。

おわりに

今回はNOS入門の第1回目として「NOSとは何か?」というところから「NOSの具体例」や「実情(現状)」、
ディスアグリゲーション観点も踏まえた「今後の予測」の紹介をしてきました。
本記事、およびそれ以外のネットワーク関連に関して何か問い合わせがございましたら、以下にご連絡ください。
よろしくお願いいたします。

本件に関するお問い合わせ

NTTテクノクロス
フューチャーネットワーク事業部

山口 佳輝

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山口 佳輝
山口 佳輝

[著者プロフィール]
フューチャーネットワーク事業部 第一ビジネスユニット
山口 佳輝(YAMAGUCHI YOSHIKI)