ソフトウェアエンジニアのための「無線」入門(1)そもそも電波って何なのか
実は中学や高校の理科や物理の授業で学んだはずの電波の基礎知識を新たな視点で簡単におさらいすることで、今の、そしてこれからの世の中がどうなるのか、あるいは自分を取りまく生活や仕事の環境がどうなるのかというところを少しだけ今と違う視点で考える、そんなきっかけをご提供します。
テクノロジーコラム
- 2026年02月11日公開
はじめに
NTTテクノクロスの岩永です。
一般的なソフトウェアエンジニアにとって、「無線」あるいは「無線通信サービス」は「つながる環境にいる限り空気のようなもの」という存在ではないかと思います。実際、空気が無くとも空間の中を伝わる「電波」がつなぐ「無線」の世界は空気より希薄な存在かもしれません。一方実際には例えばWi-Fiや4G/5Gといった無線を使った仕組みが無いとビジネスどころか日々の生活にも困るほど身近なものです。空間で隔てられた誰かと誰か、あるいは何かと何かを常に繋いでいるのが「電波」であり「無線」の世界なんです。
そんな電波の世界、今回は「そもそも電波って何なのか」についてお話したいと思います。
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そもそも電波って何なのか
乱暴に言うと特定の周波数帯の電磁波を電波と言います。電磁波自体は空間を伝わるエネルギーですが、日本においては電波法第二条第一項によって「「電波」とは、三百万メガヘルツ以下の周波数の電磁波をいう。」(筆者注 :三百万メガヘルツ=3,000,000Mhz = 3,000Ghz (ギガヘルツ)= 3THz(テラヘルツ))と定義されています。
この電磁波自体は自然現象の一つとしてずっと存在していますが、そのうちの電波と今日呼んでいる部分を人類が意図をもって利用できるようになったのは、19世紀末の1895年にマルコーニが無線電信の実験を成功させてからです。![]()
(出典:総務省電波利用ポータル)
タイタニック号から送信された最初の海難遭難信号
それ以降の有名な話でいうと、1912年タイタニック号が当時最先端だったモールス信号を符号として打電する電信通信機器を搭載していました。これを利用して航海中も付近を航行する船舶と氷山の存在などについて交信を行い、残念ながら最終的に氷山と接触して沈没した際に電力を失うまで救難信号「SOS」を送り続けて遭難を知らせたという世界で最初の遭難信号の送信という記録が残っています。
当時はまだ「電話」は有線のみで無線では音声を安定して送受信する技術が出来上がっておらず、「電信」のみが実用化されていた時代でした。その後、1979年には電信での遭難信号(SOS)の利用は海上における遭難及び安全の世界的制度として整備されたGMDSS(Global Maritime Distress and Safety System: 海上における遭難及び安全の世界的制度)に役割を移管して廃止され、モールス信号を使った「電信」そのものも一般的に使われる通信手段としての役目を終えています。

(出典:総務省 東海総合通信局 海上における遭難及び安全の世界的制度(GMDSS))
冒頭にも書きましたが電波は空間の中を伝わり、それ自体は人間の目には見えません。ただし、広く電磁波といった場合に「可視光」と呼ばれる周波数帯域の電磁波を人間の目は感じることができるので、その部分だけは見えます。それを含めて、電波それ自体は常に私たちの周りに存在し続けています。
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電波が伝わるというのはどういう意味?
冒頭にも書きましたが、特定の周波数帯の電磁波を電波と言います。そして、その電磁波自体は電界と磁界が互いに影響し合いながら空間を光と同じ速さで伝わっていく波のことをいいます。
そしてそれは音波と異なり振動する空気は不要なので、真空の宇宙空間でも伝わっていきます。

(出典:ARIB 電波について知ろう / 電波と電磁波の違い)
帯域と呼び方と用途
前述のとおり電磁波のうち、周波数3THz(テラヘルツ)以下の帯域の電磁波を電波と呼んでいます。それらの特徴をもとに分けてつけている呼称として過去からずっとVHFやUHF、SHFといった名称が使われていますが、それと並行して電波の波長を基準にした「ミリ波」や「マイクロ波」といった名称での分類もされていて、たとえば5Gや6Gなどの公衆無線サービスに使われる無線帯域についてはそちらのほうが馴染みがあるかもしれません。
ちなみに以前話題になった「プラチナバンド」といった名称は単にケータイ事業者にとって使い勝手が良い帯域ということを表した表現なので、慣用的に700MHz(メガヘルツ)帯から900MHz帯のことを指す場合がありますが、それ以外の意味はありません。

(出典:ARIB 電波について知ろう / 電波と電磁波の違い)
周波数と伝わりやすさ 序章
電磁波が伝わる様子は水面の波のような性質を持っています。例えば池に石を放り投げると波紋が広がりますが、投げ入れた瞬間にできた波は例えば1秒後には次の位置に進みます。概念的には電磁波も同じように空間を伝わっていきます。

出典:ARIB 電波について知ろう / 電波と電磁波の違い)
この波の周期が周波数で、その周期が1秒間に1回であれば1Hz(ヘルツ)、1000回であれば1KHz(キロヘルツ)という単位になります。この波は遠くに伝わるにつれ小さくなり消滅してしまいますが、波の周期が少ないと遠くまで届きやすく、多い(あるいは細かい)と早く消滅してしまいます。それと同じような現象が電波が伝わる中でも起きるのですが、例えば宇宙空間では波を作る水のような「何かしら電磁波が伝わる中で邪魔となる物質」の密度が非常に少ないため、何億光年もの距離を伝わります。
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電波は有限な資源
電波自体はその挙動がすべて物理法則に従っていて、無線通信に利用するという点から見るとすべての人が共有する同一の空間に存在しています。実はこれが有線通信と一番大きく違うところで、有線通信の場合には原理的に電線であれ光ケーブルであれ何かを伝える媒体として同一の通信線を共有していない人は存在して居ないのと同じで、お互いに干渉することは無いと考えることができます。
それに対して無線通信の場合には、すべての人類が共有する「空間」を介して通信を成立させます。たとえて言うと、人間の声は大体だれも同じくらいの音声帯域なのですが、ひとつの部屋の中で同じ声の大きさで複数の人が喋ると結局誰も誰とも会話ができず、順番に喋るなりお互いが聞こえる程度の大きさで喋るなりといった配慮(あるいは調整)が必要になります。つまり空間において声は有限な資源であるといえます。
有限だからお互いに干渉しあってしまう宿命
これは結局広く電波としてみた場合にも同じで、同一空間で同じ周波数を関係ない人同士で使うと当然干渉します。声が大きい人が勝つとかそういう話はあるにはあるんですが、原理としては同じです。さらに言うと、電波(あるいは広く電磁波)はその周波数によって伝わり方について物理法則に則ったそれぞれの帯域なりの特徴を持っていて、それを利用方法に合致するように細分化して利用目的を決めています。

(出典:令和7年版 情報通信白書 第4節 我が国の電波の利用状況 )
公共物だからこそのルール
ここで再確認したい事、それは「空間上の電波は有限な資源」であるということです。例えば日本においては電波法の第一条において「第一条 この法律は、電波の公平且つ能率的な利用を確保することによつて、公共の福祉を増進することを目的とする。」と定義していますが、これがまさに有限な資源としての電波をいかに有効に利用する方策が必要かということを示しています。
そして、日本のみならず国連機関であるITU (国際通信機構: International Telecommunication Union)を筆頭に世界各国において国際間や各国内での規定を細かく設けていて、本来は好き勝手に使えるものではありません。
勝手に電波を発射する...以前に、認証が取得できていない無線機器の電源を入れること自体がダメです
分かりやすい例で言うと、日本国内で日本の法規に照らして安全に使える機器であるという認証を取得していないWi-Fiルータやトランシーバーなどを持ち込んで電源を入れてはいけません。
ただし、実は今の日本では日本での認証を取得していない機器の海外からの持ち込みや所持自体は、他の法律により規制されていない限り可能です。
しかし、電源を入れるのは絶対にダメです。
機器が電波を発射するかどうかではなく、『認証を取得していない「無線を利用する機器」の電源を入れる』行為自体が違法となります。
必要な認証を取得していない機器について、たとえば海外から日本を訪れた旅行者が海外で利用していたスマホや個人用の電子機器を一時的に日本に持ち込む等の例外を除いて、電波を発射するしないに関わらず電波暗室などの特別な設備の中以外で電源を入れること自体が禁止です。
さらに言うと、機器の運用にあたってはWi-Fiルータなど免許不要と規定された周波数帯域を使用する認証取得済みの機器という例外を除いて、必要な免許を事前に取得する必要があります。例えばWi-Fiルータ、あるいはBluetoothのキーボードやマウス程度なら大丈夫などという話はなく、前記のような例外を除くすべての認証未取得の機器は電源を入れた時点で「違法無線機」です。そしてそれらを規定する根拠法の電波法は、その第九章において罰則として罰金刑もしくは懲役刑が規定されている法律であるということは頭の片隅に入れていて良いと思います。
(出典:総務省 電波利用ポータル 混信の事例)
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大気中では絶対に避けられない「電波は減衰する」という事実
しかしながら大気の中では水蒸気や塵で反射や拡散するため伝わっていく間に弱くなり、最終的に「伝わらない」と判断できるところまで弱くなってしまいます。ただし、低い周波数の電磁波(あるいは電波)ほど長い波長をもっていることからそれらの影響を受けにくく、一方高い周波数の電磁波(あるいは電波)はその周波数が高くなればなるほど強く影響を受けるという異なった性質があり、それぞれの周波数の性質と利用する環境に見合った条件以外では利用しづらいものです。
どんなふうに減衰し弱くなっていくのか
ここでいわゆるケータイ電話の周波数での電波の強さと到達距離と電波の強さについての例をご紹介したいと思います。

電波はアンテナから放射されますが、基本特性として電波が放射される方向の到達距離の二乗に反比例して弱くなるという物理特性を持っています。これは通信方式やデータの圧縮方式などとは別次元の「電波の物理特性」であって、すべての電磁波 / 電波に適用されます。また、アンテナから出る電波の中心軸から離れると弱くなりますし、障害物があっても弱くなります。
それを踏まえての以下の説明はすべて理論値ですが、上記の図でいうとアンテナから200メートル離れた見通しの地表を目標に32ワットのアンテナ入力電力により電波が放射される設計になっていて、その地点で受信される電力密度(ここでは「受信する電波の強さを示す単位である」とだけご理解ください)は0.0008mW/㎠。それに対してその手前の20メートルだとアンテナの向く方向から外れますが距離は10分の1で遮蔽物は無いので受信できる電力は0.0003mW/㎠。それに対して50メートルの距離だと樹木や家屋が邪魔になるのでアンテナを見通せる200メートルの位置より受信電力は下がり、500メートルの位置だと障害物に加え物理的に距離があるのでさらに受信電力は下がるという例です。
実際、手元のスマホなどが基地局からの電波を受けている状況はこれが時々刻々変化し、ある一定以下の弱さになった時点で次の基地局へ接続しなおすのが基本で、その電波の弱さと言ったら家庭のWi-Fiルータの電波など比較にならないくらい弱いものです。
増殖を続ける低軌道衛星が実はそれ以外にとって邪魔な存在になりつつある問題
参考までに更に弱い電波の例でいうと衛星放送を含む人工衛星から地上で受信できる電波や電波天文学の世界で観測している天体からの電磁波は本当に小さいのですが、目的の周波数以外のノイズ成分を排除する技術とパラボラをはじめとした非常に指向性の高いアンテナの組み合わせで通信や観測を成立させています。ただし、昨今大量に打ち上げられている低軌道衛星が衛星通信や電波天文学界隈にとって「本来は解放空間であるはずの宇宙空間を横切る邪魔な遮蔽物」のような状態になりつつあるという話もあるようです。
それはともかく話をケータイの世界に戻しますが、もちろんキャリア・アグリゲーションなど電波が弱い環境であっても高速な通信を確立できる実用化された技術はありますが、電磁波あるいは電波そのものの物理特性はそういうものだと理解しておいて間違いありません。
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おわりに
今回は「そもそも電波って何なのか」と題してお話させていただきましたが、次回「周波数と伝わりやすさ、そして通信速度」という話題についてお話させていただきたいと思っています。
近いうちにまたお会いしましょう。
それでは。
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ソフトウェアエンジニアのための「無線」入門シリーズ紹介
ソフトウェアエンジニアのための「無線」入門は以下のようなシリーズ構成を予定しています。
掲載回 |
タイトル |
概要 |
第一回 |
そもそも電波って何なのか |
そもそも電波とは何を言うのか、電波が伝わるとはどういうことなのか等から「電波」について紐解いてゆきます。 |
第二回 |
周波数と伝わりやすさ、そして通信速度 |
「周波数が高いと速度が出せる」と「周波数が低いと遠くまで飛ぶ」という関係を通信だけでなく |
第三回 |
物理法則がすべてを支配するのが電波の世界 |
電波の挙動は全て物理法則に則っていて、誰もそれを変えることはできないという話を簡単な例でご紹介します。 |
第四回 |
アナログ放送の頃は時報があった |
電波の速度は変わらないのにデジタル放送になって時報が消えた謎から、電波から見ると |
第五回 |
スマホで使える周波数のお話 |
周波数の割り当ての話を「スマホで使える周波数」という切り口で分かりやすくご紹介します。 |
なお、内容については変更する場合があります。あらかじめご了承いただけますようお願いいたします。

[著者プロフィール]
フューチャーネットワーク事業部 第二ビジネスユニット
岩永 慎一(Shin'ichi IWANAGA)

