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社会的関心が高まる「健康経営®」企業が取り組む意義とその本質とは(健康経営の潮流とその課題編)

健康経営の関心が高まっている中、健康経営が目指すゴールとは何かを産業保健専門家で医師の土肥誠太郎氏とNTTテクノクロスの谷 一剛が語り合いました。


従業員の健康管理を経営的な視点で考え、その健康保持・増進に取り組む「健康経営」への注目が高まっています。国もその取り組みを推奨しています。しかし、多くの社員を抱える企業ほどその運用は煩雑になりがちで、立場によって「成果」の捉え方に違いがあることも事実です。健康経営が目指すゴールとは何か。その課題と解決策とは。産業保健専門家で医師の土肥誠太郎氏と、健康管理システム「HM-neo(エイチエムネオ)」のサービス企画を担うNTTテクノクロスの谷 一剛が語り合いました。

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【プロフィール】

土肥 誠太郎氏
株式会社MOANA土肥産業医事務所
代表取締役社長
医師・医学博士

谷 一剛
NTTテクノクロス株式会社
デジタルトランスフォーメーション事業部
第四ビジネスユニット
統括マネージャー

健康経営が注目される背景と現場および経営の課題

――健康経営の関心が高まっています。その理由をどのように捉えていますか。

土肥:

健康に対する社会的関心が高まっていることから、会社としてもメンタルヘルスを含む従業員の健康に配慮することが求められています。労働安全衛生法などに係る健康診断の実施やストレスチェック制度に基づく高ストレス者への面接指導と集団分析結果の活用及び長時間労働者への面接指導といった義務範囲が拡大したことも大きく影響しています。

人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる「人的資本経営」においても、健康度は重要な指標とされています。

谷:

従業員の健康や活力が向上すれば、組織に好影響をもたらすと期待されています。例えば、従業員の生活習慣や健康への意識が改善・向上することで、長期休職を防いだり、職場での事故を未然に防いだりすることができるようになります。「従業員を大切にする会社」というブランドイメージが定着しやすくなり、採用市場での競争力向上や離職率の低下にもつながるでしょう。取引先や投資家からの信頼も向上し、企業価値の向上も期待できると言われています(図1)。

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図1 健康経営による期待効果
(出典:経済産業省ウェブサイト「これからの健康経営について」(2025年)p.37
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/250424_kenkoukeieigaiyou.pdf)
健康経営によって企業イメージの向上が期待できる。従業員の安心と信頼を高めるだけでなく、消費者や取引先、地域社会、投資家からも高評価を得られる。
「人を大切にする会社」はビジネスに好影響をもたらす

―――では健康経営は生産性向上や業績向上に直結するのでしょうか。

土肥:

経営者は企業利益を追求することが使命ですし、投資対効果の観点から健康経営によってどんな成果が上がるかを重視します。これは致し方ない部分もありますが、生産性向上や業績向上を短期的に追い求めるのは、健康経営の趣旨から考えると、ちょっと違うと私は思っています。プラスの効果は否定しませんが、生産性向上や業績向上を目指すならほかに方法があるのではないでしょうか。

谷:

確かに、健康経営がキーワードとして一人歩きしてしまっている感じがありますね。効率や生産性を高める経営手法の1つと捉えている方も少なくないかもしれません。結果を求める経営層と健康管理を担う現場との間にギャップがあるケースもあるでしょう。

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――健康経営に取り組む企業には非常に厳しい意見にも思えます。

土肥:

結果を求めるのが間違っているのではありません。私が言いたいのは、順番が違うということです。健康経営に努めれば、生活習慣病のリスクが減ったり、病気による長期休職が減ったりなど、成果は確実に出ます。いろいろな会社の産業医を務めた経験から、はっきりそう断言できます。社員が健康になれば、必ず後ろに労働生産性がついてきて、持続的な変化につながる。ただ、生産性向上や業績向上を最初に求めるのは健康経営の本質ではないということです。

従業員の健康は5年、10年と長いスパンで考えていく取り組みです。企業風土を変えたり、社員の考え方や行動を変えたりしていく必要があるからです。短期的な指標を追い求めても、結果が付いてこない。「だったら健康経営なんてやる意味がない」という話になりかねません。これでは本末転倒です。

持続可能な会社であるためには従業員の健康が大事。だから一緒に健康管理していく。その先に明るい未来がある。経営者はこのように考え方を変える必要があるでしょう。同時に健康管理部門も経営層の考えを理解して、もう少し歩み寄ることが大切です。

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図2 健康経営のロードマップ
健康経営は人的資本経営の一環だ。従業員の健康保持・増進の取り組みが、将来的な業績向上や企業価値向上につながる。
短期的な視点で成果を追い求めず、長期的なビジョンに基づく取り組みが必要となる
(出典:経済産業省ウェブサイト「これからの健康経営について」(2025年)p.11
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/250424_kenkoukeieigaiyou.pdf)

健康経営の本質は従業員のウェルビーイング

――それでは健康経営は本来どうあるべきなのでしょうか。

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土肥:

中心にあるのは従業員の健康と幸福、つまりウェルビーイングです。心身ともに健康で、安心して生き生きと働けること、さらに退職後も元気で生活できること。これを目指すのが健康経営だと思います。

少子高齢化が進む日本では、元気に長く働きたいと考えるシニア層が増えています。そういう人たちは会社にとっても貴重な戦力です。会社が従業員の健康保持・増進に寄与することは、会社にとってメリットが大きいし、社会のサステナビリティを高める上でも非常に重要です。

健康情報をデジタル化し、可視化する仕組みが必要

――このような取り組みを円滑に進めていくにはどうすればいいのでしょうか。

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土肥:

従業員の健康管理に関するデータを一元的に管理し、可視化できる仕組みが必要でしょう。産業保健の健診記録だけでなく、過去の所属歴や病歴、検査歴など多様な健康情報も時系列で整理されていること。これらは適切な検査の実施や保健指導において重要な意味を持つからです。

これに加え、産業保健の業務をデジタル化する仕組みも必要です。例えば、数千人規模の会社なら数千件の健康管理データがあるわけです。この集計や分析を人海戦術で行うのは気が遠くなるような作業です。一元管理されたデータを基に分析することで、経営層に経営的な視点で効果を報告したり、効果的な健康推進施策の立案をしたりできます。

谷:

NTTテクノクロスはこうした課題を解決する健康管理システム「HM-neo」を提供しています。全従業員の健診記録や健康情報をデジタルで一元管理し、様々な評価軸でデータを集計・分析することが可能です。紙の健診結果からの転記やエクセルでの作業が不要になり、アナログな業務をデジタル化できます。現場の負担を減らし、大幅な効率化を実現できます。

土肥先生とはHM-neoのアドバイザー契約を締結しており、産業医の知見が随所に活かされています。

土肥:

デジタル化する真のメリットは、人と人とのコミュニケーションの活性化です。健康情報が集約されたプラットフォームがあれば、産業医や保健師が従業員と直接コミュニケーションする時間が増えます。これによって互いの信頼関係が醸成され、産業保健の質をより高めることができます。データが集約・可視化されていれば、経営層へも報告しやすくなります。

――なるほど、経営層も現場も互いに歩み寄ることが健康経営の第一歩と言えそうですね。実際に健康経営に取り組むには自社が健康なのか、そうでないのかを知る客観的な指標が必要ですね。

土肥:

実はこれも大きな課題なのです。というのも健康経営に関する客観的な指標というものが、まだ日本には少ないからです。そのため自社の健康度は外部から評価されないと分からない。

経営者は自社が健康なのか不健康なのか、どれくらい健康なのかよく見えないわけです。そこに投資を求められるから、懐疑的になる経営者もいる。データを集約・可視化することで自社の健康度を客観的に自己評価できるようになるのが、健康経営のあるべき姿だと思います。

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*「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
*「HM-neo」はNTTテクノクロス株式会社の登録商標です。
* 記載されている商品名・会社名などの固有名詞は一般に該当する会社もしくは組織の商標または登録商標です。

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