情報畑でつかまえてロゴ
本サイトは NTTテクノクロスが旬の IT をキーワードに
IT 部門が今知っておきたい最新テクノロジーに関する情報をお届けするサイトです

Ryuzeeこと吉羽氏をお招きして社内講演をやっていただきました!

Ryuzeeこと吉羽氏をお招きした社内講演会のレポートです。

NTTテクノクロスの山本です。普段はテックリードという立場で、社内の現場で様々な技術支援をしています。

現在、NTTテクノクロスでは新規ソリューションのビジネスを拡大するために、内製でスピーディーにプロダクトを開発できる人材の育成を進めています。その人材育成の一環として、外部エキスパートによる社内講演会を実施しています。

今回はアジャイルコーチとして著名な吉羽氏をご招待して、「SIerにおける新規事業でのアジャイル」というテーマで、アジャイルの必然性や、それを実践するときの注意事項についてご講演いただきました。その講演会の様子をレポートします。

講演会の様子

今回も講演会の様子を、当社グラフィックレコーディング(グラレコ)チーム『TXフェニックス』にまとめてもらいました。全体の内容をてっとり早く把握されたい方は、こちらをご覧ください。

graphic-recording

それでは、吉羽氏の講演資料をベースにもう少し詳細に内容をレポートしていきます。

SIのマインドセットや管理手法で新規事業をやらない

p7

新規事業の文脈においては、従来型の管理手法をそのまま用いて新規事業をやらないこと、これが今日の講演全体のポイントだ、というお話から吉羽氏の講演は始まりました。

例えば、従来型の管理手法でマネジメント層が気にすることのひとつに生産性があります。この生産性は、作るものが正しい前提で、作るものが正しいのであれば、早く安く作った方がいいという考えからきています。しかし、新規事業では作るものが正しいかどうか分かりません。そもそも新規事業で作ったプロダクトがお金を稼がなかったら、生産性の話なんて意味がありません。

なので、まず気にしなければいけない最重要ポイントは、そのプロダクトは価値を生むのか、これは売れるのか、になります。それを達成するために、従来のSIのマインドセットや管理手法をそのまま当てはめてはいけません。

取り扱う問題に応じてやり方を変える

p21

では、新規事業をどのようなやり方でやれば良いのか? これを考えるときに使えるのが、クネビンフレームワークという状況認識と意思決定のモデルです。これから取り組もうとしている問題を5つの領域のどれかだと考えて、扱おうとしている問題に応じたやり方をしていくという考え方です。

右下は「明白な領域」で、正解があって変化が少ない領域です。状況を理解・分類してベストプラクティスに基づいて進めていけば、うまくいくという領域です。右上は「込み入った領域」。これは正解がひとつではないが、比較的予測がしやすい領域です。知識を持っていない人からすると難しそうに見えますが、専門知識を持っている人が見れば、答えが分かるという領域です。これらの領域では、計画主導型のウォーターフォールが向いています。

一方、左上に行くと「複雑な領域」になります。問題を把握するために試行錯誤や探索をして、次にどうするかを考えていくという領域です。左下の「カオスな領域」は、革新的なことが求められる、誰もやったことがない領域です。正しい答えも分からないので、まずはやってみて、結果を踏まえて理解しながら進める必要があります。このような領域では、仮説検証型のアジャイルのようなやり方が必要になってきます。

適さないやり方を選択するとビルドトラップにかかる

p25

左側の「複雑な領域」や「カオスな領域」で計画主導型のウォーターフォールを選択すると、どうなってしまうのか? これは、答えが分からないのにまとめて計画して、結果的に無駄な物を作ってしまい、失敗します。また、計画主導型の性質上、計画を守ることを重視して、変化したがらないという問題が発生します。

言い換えると、計画主導型の開発手法を適用すると、プロジェクトの完遂が最大の目標になってしまいます。計画通りに進んだか、予算通りに進んだか、リリースしたい日にリリースできたかがプロジェクトの目標になってしまいます。作ること自体が目的化してしまうという意味でもあります。

新規事業は、機能がたくさんあるとか、納期に間に合うよりも、売れるのか、お客さんはいるのか、投資を続ける価値があるのかが、最大の関心事です。ですが、計画主導型のやり方を選択すると、関心事となるポイントが変わってしまいます。

適したやり方を選択したら新規事業は成功するのか?

p27

では、左側の「複雑な領域」や「カオスな領域」で、仮説検証型のアジャイルのようなやり方をすれば新規事業は成功するのでしょうか? 仮説検証型を選択しても新規事業を成功させるのは、難しいと言います。

あるデータによると、スタートアップは90%の確率で失敗します。10打数1安打ぐらいにしかなりません。新規事業は1打数1安打、10打数10安打にならないので、そもそも失敗するものだと考える必要があります。

失敗することを前提に投資のやり方を変える

p50

失敗することを前提に新規事業を進めるには、投資モデルを変えてく必要があります。例えば何か新規事業のアイデアが思いついたら、そのアイデアを検証しないといけないので、まずは小さな予算を割り当てます。外部委託なしで自分たちの人件費だけで、まずは3ヶ月で深堀してみる。そういう形で予算を付けます。

それがいけそうだったら、プロトタイプを作って、評価を進めてみます。さらに、いけそうだったら、追加予算を突っ込んでという風にします。このように、大きい会社の中で新規事業を作る場合も、スタートアップみたいな投資モデルを使ってやっていく必要があります。

プロダクトを作ることだけに注力しない

p52

ではプロダクト開発は、どのようにやっていくか。

まずは解決したい問題を見つけます。次に、その問題とソリューションの仮説を評価します。その問題で困っている人が本当にいるのか、その人の問題は今考えているソリューションで本当に解決できるのかを評価します。仮説が間違っていたら、問題を設定し直したり、ソリューションを見直したり、というのを繰り返します。問題設定もソリューションもどちらもよさそうだ! となったら実際にソリューションを作ります。

作ったらソリューションを評価します。作ったソリューションがイマイチであれば、ソリューションを作り直します。問題自体を見直す必要があれば、2番に戻ったりすることもあります。作ったソリューションがうまくいきそうだったら、より多くのユーザーに届くようにビジネスをスケールしていきます。これが新規事業のプロダクト開発の流れになります。

特に大きい企業でやりがちな間違いは、3番や5番の作ることやスケールすることだけに注力してしまうことです。本当に重要なのは、解決する問題を見つけること、問題とソリューションの仮説を評価すること、実際に作ったソリューションを評価することです。作ることだけにフォーカスをしない、というのが新規事業をうまくいかせる上での鉄則です。

最初のリリースはゴールではない

p66

また、うまくプロダクト開発を進めてリリースできても、最初のリリースはゴールではありません。新規事業などのプロダクトはリリースしてからが勝負です。リリースしたプロダクトを実際のユーザーがどう使っているのか? 何か困っているのか? 色んなメトリクスを見ながら、次にやることを考えていきます。

ここはSIer的思考で、特にはまりやすいので注意が必要です。開発が終わったら、保守フェーズに入って、保守チームに引き渡してしまう。そうすると、リリースしたあとに開発が一旦とまってしまいます。

新規事業などのプロダクトでは、フィードバックループを素早く回し続ける必要があります。思い込みで、大きいものを遅く作るのではなく、早く作ってフィードバックをもらうことが重要です。これをやるには、アジャイルが役に立ちます。

小さな内製チームで継続的にやる

p76

アジャイルでフィードバックループを回して、素早くリリースし続けるには、チームの構造も考える必要があります。チームはプロダクトを作る上で必要なスキルを全部兼ね備えていることが重要です。他のチームを待ったり、引き継いだり、調整してたら、オーバーヘッドが掛かって遅くなるからです。

なので、複雑で変化の激しい領域で戦うには、スキルセットが揃った内製チームでやる必要があります。外部に委託して新規のプロダクトを一発勝負で発注しても、当たる保証もないし、リリースしたあとに変化に対応することも難しいため、小さな内製チームでずっとやっていくというのが必要になってきます。

ハイパフォーマンスなチームを作って、そのチームを壊さないようにすれば、新規事業が当たる可能性は上がっていく、という話で吉羽氏は講演を締めくくりました。

パネルディスカッション

panel-discussion

また講演後には、吉羽氏と弊社のビジネス/デザイン/テクノロジー分野の各リーダーを交えて「TXにおける新規事業とアジャイル」というテーマでパネルディスカッションを実施しました。

各分野で抱えている課題や、弊社で今後どのようなアクションが必要かなどについて、活発な議論がなされました。

おわりに

講演後には「大変参考になる気付きの多い講演だった」「学びの多いセッションで楽しかったです!」などの声も寄せられ、今回の講演会を企画して本当によかったと実感しました。

吉羽さん、本当にありがとうございました!

また、NTTテクノクロスでは内製でスピーディーにプロダクトを開発できる人材の育成を進めるために、今後も様々な施策を実施していく予定です。外部エキスパートによる社内講演会も継続して実施していく予定ですので、次回のレポートもお楽しみに!

連載シリーズ
テクノロジーコラム
著者プロフィール
山本 和樹
山本 和樹

テックリードという立場で、社内の現場で様々な技術支援をしています。開発現場に直接入り込んで、モダンな開発手法を普及展開しつつ、技術的な側面からビジネスを支える活動をしています。

最近コーヒー豆の焙煎をはじめました。家が煙と臭いでやばいです。